小林美佳「性犯罪被害とたたかうということ」

性犯罪被害とたたかうということ

性犯罪被害とたたかうということ

 どうしても紹介したい本です。小林さんが一冊目の性犯罪被害についての体験記を出版して約二年半がたちました。

性犯罪被害にあうということ

性犯罪被害にあうということ

それ以降、小林さんが性暴力被害者の現状を伝えようとしてきた活動の中で、体験したこと、感じたことをまとめた本です。活動の中で出会い、小林さんがやりとりしてきた性暴力被害者たちとのつながりについて、焦点をおいて語られていることが印象的です。
 小林さんが、メールを通して行った、約3000人の性暴力被害者が対象となるアンケートの結果も載っています。サンプリング抽出への配慮もされていませんし、被害者たちが「小林さんに伝えたい」という個人的な思いのもとに寄せた声ですから、学術的には、データとして使えない調査結果でしょう。けれど、小林さんのような立場の人が、出会う実際の被害者とは、どんな人たちだったのかを知り、その人たちからみる性暴力の「リアリティ」の一端に触れることはできます。
 小林さんが、たくさんの「声を上げない選択をした人たち」を背負って、なんとか伝えようとしているもの。「代弁はできない」と言いながら、少しでも社会に訴えようとしているもの。そうしたものが、何であるのかを、読者は考えることを迫られるでしょう。それは「悲惨な性暴力被害を声高に語ること」でもなく、「可哀そうな被害者に支援の手を差し伸べること」でもないように、私は思います。
 私は、小林さんの前の本についても紹介したことがあります。*1そのときには「政治活動をしたいわけではない」と小林さんは明言していました。日常のなかで、被害者と、社会の人々がつながっていくことこそが、大事なのだと述べていました。それに対して、「裁判員制度」をはじめとする司法制度への疑問も呈しているこの本の主張は、小林さんの転向ともとれます。小林さんは、性暴力被害者の配慮など、思いもつかない法律の専門家たちへの憤りをあらわにします。社会の制度が、被害者を生きにくくさせていることを指摘するのです。でも、その一方で、小林さんの文章のベースにある、性暴力被害者という立場から、「目の前のあなた」へと伝えようとする態度は、一貫したもののようにも感じました。読者に「私はどうすればよいのだろうか」と考え込ませるような力を持った本です。
 最後に、私のほうから一つ書き添えておきます。小林さんは、性犯罪加害者の更生について「私は考えたくないし、拒否する」というふうに表明しています。もちろん、被害者にはそういう権利があるし、私も小林さんがそう言われることはもっともだと思います。同時に、思うことは、「被害者ではない<私たち>」は、やはり性犯罪加害者の更生について考えなければならないのではないか、ということです。次の本が、先日発刊されました。
性犯罪者の治療と処遇

性犯罪者の治療と処遇

  • 作者: ウィリアム・L・マーシャル,ヨーランダ・M・フェルナンデス,リアム・E・マーシャル,ジェリス・A・セラン,小林 万洋,門本 泉,大森 明子,齋藤 栄二,里見 聡,谷 真如,西田 篤史
  • 出版社/メーカー: 日本評論社
  • 発売日: 2010/09/15
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)
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高額ですし、専門的な本です。西欧の、現在の性犯罪加害者がどのように扱われ、経過を調査するとどのような結果が出るのかについて、まとめて日本語で読むことができます。DSMを用いた「小児性愛」の診断についての議論も紹介されています。結論からいえば、「有効だとされる解決策はまだ発見されていない」ということなのですが、現状を知る材料にはなるように思います。性犯罪者の更生の展望は、あまり明るいものではないですが、それでも考えていくべき課題でしょう。