新刊の予約が始まりました。タイトルは『美しいトラウマ』です。
今回はアートを正面から扱いました。トラウマを負った人間は、その経験をアートの中で表現しようとすることが多々ありますが、「なぜ、そんなことをするのか?」「どういう意味があるのか」について、執拗に問うた本になります。その中でキーになるのが、フロイトの「タナトス」の概念です。タナトスとは、自己破壊に突き進む人間の本能の一つです。現代の精神医療でタナトスの話が扱われることはほとんどないんですが、私としては「やっぱり、タナトスは大事やで」という気持ちで登場させました。相変わらず、全然流行ってない話を、独自路線で書いています。面白く読んでもらえるといいなあ、と思います。
それから、岩波書店『世界』2026年10月号に、「魂の舟がやってくるとき 水俣と東京」を寄稿しました。
こちらは、いつもと違うスタイルの文章を書いたので、うまくいくか不安だったのですが、無事に掲載していただきました。1996年の「日月丸」航海を中心に書いています。水俣と東京の人たちの緊張関係を紐解きながら、「中央ー地方」の構図の中で何ができるのかについて、書きました。
また、2026年11月25日から12月3日に東京・渋谷ヒカリエで開催される「水俣病70年展」にも触れました。主催の水俣フォーラムでは、これまで全国各地で水俣病を知る機会を作るために、展示をしてきました。現在は、世代交代の時期に来ており、これから水俣病を通して何を学び、何を考えていくのかを問う展示になると思います。ご関心があり、近隣の方はぜひ足をお運びください。
今年はスコットランドと北東イングランドでフィールドワークをしました。ハイランド、オークニー諸島、インナーへブリディーズを訪問しました。今すぐ何かの研究に直結するわけではないのですが、去年から「北方」が一つのキーワードになってきています。もちろん、その念頭には東北で研究してるという、自分のポジショナリティがあります。青森県立美術館の装飾する魂」展にも刺激を受けました。
これは、北東北の文化を延長させて、ユーラシア大陸の連続性を可視化させようとする展示で、日本(東北・北海道)・ロシア・中国・モンゴル・アイルランドまでを繋ごうと試みています。正直「ちょっと無理がある!」と思ったところもあるのですが、野心的で刺激は受けました。いま、私は研究で日本の和紙や漆のいわゆる「日本の伝統産業」を扱っており、ナショナリズム(「日本すごい」)を超えた、トランスナショナルな視点が欲しいので、北方の文化の連続性の話はとても惹かれています。もともと北東北では、地元の人たちがそういう視点を持とうとしてきた取り組みの歴史もあるので、もう少し学びたいと思っています。
そういう意味では、スコットランド・北東イングランドは、ヴァイキングがやってきていた歴史から、スカンジナビアの文化との連続性が濃く、人や文化の混淆の歴史を明示した研究も数多くあるので、勉強になります。特に、近年は考古学の発展から、古代から人間は移動しまくっていたことがわかっており、そういう視点を保ちたいと思っています。
もう一つ、「哲学の研究をどうするか」という大きな問題にも直面しています。私はもともと学際的な研究のスタイルなので、主流の哲学研究とは離れたところにいます*1。しかし、人生はわからないもので、倫理学研究室の教員として就職してしまったために、哲学・思想系の学生(特に院生)の指導に関わることになってしまいました。なので、再び、「哲学とは何か」とか「哲学・思想系の研究はどうあるべきか」とかを考えないといけなくなりました。要するに、「哲学研究の方法論の再検討」が必要になったわけです。幸い、似た問題意識を持っている人たちとこれまでも付き合いがあり、一人ではなく、研究仲間と一緒に考えていくことはできそうです。形になるかどうかもまだ見えていませんが、次の課題かなあと今は思っています。
*1:いろいろ若い時に嫌な目に遭ったため、国内の哲学・思想系の学会は全て辞めてしまったし)

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