今年の三冊
年末なので久しぶりに、今年読んで印象に残った本を紹介します。
一般書編
哲学のアプローチで、DVや共依存について研究する小西真理子の新著。DVから逃げない(とされる)被害者たちの側に立ち、なぜかれらが暴力的な関係にとどまろうとするのかを掘り下げて考える。小西は、どこまでも当事者に寄り添い、かれらを擁護する。DV被害者支援の現場で、一度は読んで議論してほしい一冊です。この中で私の本も批判されていて、私は一部は立場が異なるが、いろんな意味で「沈黙を破る」本だと思う。
滋賀に魅せられた写真家のエッセイ集。滋賀県立美術館で、著者の今森光彦の写真展を見たのがきっかけで読んだ。ちょうど夏休みで子どもたちが虫の写真に歓声を上げていて、とても楽しそうでした。最初は琵琶湖を対象にはしておらず、滋賀の山の人々を撮っていて、そのうちに漁師と出会って水辺の写真を撮り始めたという経緯が印象的だった。人々の暮らしの写真が生き生きとしていてとてもよかった。
絶滅したと言われるニホンオオカミについて書いた本。著者が最初は軽い気持ちでこの話題に足を踏み入れ、ニホンオオカミの目撃者の話を聞いているうちに、どんどんと深みハマっていく。まるでミステリ小説のような話だった。最終的にはある生き物が「絶滅した」と人間が宣言するという行為そのものへの疑念に繋がっていく、面白い本だった。
漫画編
いま、一番楽しみな漫画。フィギュアスケート選手の漫画は多いのだけれど、この作品はノービス(13歳以下)の女の子たちの様子を丁寧に描いている。主人公・いのりはオリンピックに出ることを目指しているが、そこに辿り着くまでは無数の「才能ある子どもたち」のなかで競い会うことになる。挫折や経済的問題などで途中でやめていく子たちの小さな物語も拾っていく。ルールの解説も詳しいのでフィギュアスケートの入門書としても良いと思う。
サッカー漫画だが、従来の選手たちが協力しあって勝利を目指す価値観を全否定し、個人が才能を突出させることでスーパープレイに至ることを是としている。先日、ネットである人が成功する鍵になるのは「環境か、努力か」という議論が起きていたが、この漫画では環境は整えられ全員が努力している中で、誰が勝つのかという思考実験的な面白さがある。
1988年から連載しているスーパードクターKシリーズの最新作。劇画タッチのイラストで時代を思わせるが、内容は監修がしっかりしていることもあり医療の最新情報が盛り込まれている。2000年代前半のK2では明らかに臓器移植の推進が標榜されていたが、その後、再生医療の推進へと舵を切っている。現在は「若者たちの育成」がテーマで、新しい医療教育のあり方が模索されている。ネットでの無料公開がきっかけで、思わぬヒットとなった作品。
その他
こちらもネットの口コミで爆発的に人気を博した「ゲゲゲの鬼太郎」の最新作映画。サラリーマン水木と鬼太郎の父・ゲゲ郎の物語。主人公の水木は、水木しげるの実人生と重ねられ、南方の戦地の帰還兵という設定だ。日本の明るい未来を描く戦後復興の陰で、犠牲にされてきた者たちを妖怪と重ねながら物語が展開していく。「日本人」は決して、その過去を忘れてはならないという明白なメッセージが込められていた。この映画は、日本の戦争責任を問う作品でありながら、楽しい妖怪バトルのエンターテイメントになっていて、それを両立させたところが面白いと思う。