裁判員裁判:性犯罪審理 男女「5対1」波紋

裁判員裁判:性犯罪審理 男女「5対1」波紋

 全国で初めて性犯罪を審理する青森地裁裁判員裁判は、6人の裁判員の構成比が男性5人、女性1人となった。選任手続きに出席した裁判員候補者34人から抽選した結果だが、女性被害者が圧倒的多数の性犯罪事件で、男女比が偏ったことは、さまざまな議論を呼んでいる。

 ジャーナリストの大谷昭宏さんは「性犯罪は性差で受け止め方が違う。被害者、被告とも、どこまで理解してもらえるか不安だろう。性犯罪は裁判員裁判の対象から外すか、被害者の意向を聞く選択制にすべきだ」と話した。

 1例目の東京地裁(殺人)の裁判員は女性5人、男性1人(審理途中で体調を崩した女性裁判員が男性の補充裁判員と交代)。さいたま地裁(殺人未遂)は6人全員が男性。いずれも男女比が偏っており、3例目の今回でも同様のケースが起きれば、判決に影響するのではないかという懸念が出ていた。

 だが、一橋大法科大学院の村岡啓一教授(刑事法)は「裁判に市民の常識を反映させる意味では、男女比にこだわるべきではない」と指摘。「東京とさいたまで、男女比が偏ったからといって、(判断に)アンバランスが生じているとは考えられない」と述べた。また、アジア女性資料センターの本山央子事務局長は「女性だから性犯罪被害者の気持ちが分かるわけではなく、個人の理解力の問題。男女比を指摘する前に、性犯罪事件の被害者に対する偏見をただすことが大切」と訴えた。【山本佳孝、喜浦遊】

毎日新聞 2009年9月3日 12時24分)(最終更新 9月3日 12時49分)
http://mainichi.jp/select/jiken/saibanin/news/20090903k0000e040064000c.html

以上の記事の解説に見られるように、法学者の多くは男女比の問題を重視しないと思います。もし、重視するのならば、とっくの昔に裁判官の男女比が問題視されているはずだからです。以下の性犯罪に関する論点とは別に、労働問題の観点から問題化されるべき不具合が法曹界にはあるように思います。
 さて、本題です。アジア女性資料センターの本山さんのコメントは非常に冷静で的確だと感じました。問題を「本質的な男女差の有無」にすり替え、「男と女はわかりあえない」というような床屋談義に落とし所を持っていかないように注意が必要です。さらに、ここで、男女の比率を調整するような小手先の対策をとれば、トランスジェンダーやゲイ・レズビアンバイセクシュアルの人たちを抑圧する制度になりえます。また、偏見の目を向けられるのは、被害者だけではありません。性犯罪事件の被告にも、様々な思い込みに満ちた偏見のまなざしが向けられます。
 現実的には、これからこの比率の問題が、双方の当事者にとって、不安要因になることは間違いないでしょう。こんな裁判員の男女比に、当事者が一喜一憂するようなことはあってはならないことです。少なくとも*1、性犯罪を担当する裁判員には、研修等の性教育が必要だと思います。

*1:裁判員制度を肯定するのならば