性犯罪被害者氏名開示問題、最高検が指針を発表

 5月に、裁判員制度において、性犯罪被害者の氏名が開示されるかもしれないという問題をとりあげた。*1そして、最高検察所*2が、性犯罪被害者への配慮を指針として発表したことを、新聞社が報道している。

裁判員:性犯罪、身近な人は不選任 被害者に配慮 最高検

 性犯罪を審理する裁判員裁判で、最高検は、被害者と生活圏や人間関係が共通する裁判員候補者を裁判員に選ばないよう積極的に地裁に求める方針を、全国の高検、地検に示した。被害者のプライバシー保護が狙いで、該当者については裁判員選任手続きの際、理由を示さずに不選任請求する。被害者には事前に候補者名簿に知人がいるかも確認してもらい、同様に対応する。不選任請求に関する検察の具体的な方針が明らかになるのは初めて。
毎日新聞 2009年8月26日 2時30分)(最終更新 8月26日 9時44分)
http://mainichi.jp/select/jiken/news/20090826k0000m040151000c.html

 毎日新聞社は、解説で次のように注意を促している。

解説:性犯罪事件の裁判員除外、最高検指針 被害者、不安なお 具体的範囲など課題

 しかし、被害者側の不安は払しょくされていない。関係団体は「被害者とかかわりがある地域の住民を裁判員から外して」と求めるが、これだけでは「不公平な裁判をする恐れ」とは言えず、住民から無作為に裁判員を選ぶ制度の仕組みにも合わない。

 検察側の方針は、被害者側の要請に応える内容だ。ただし、理由を示さないで不選任請求できる原則4人まで候補者を絞り込む必要がある。被告が複数の事件で起訴された場合は、被害者も複数いて絞り込みが難しくなる。候補者への質問は裁判長しかできず、検察側が求める質問が採用されるかどうかも不透明な側面がある。除外を求める具体的な範囲の設定も今後の課題だ。
毎日新聞 2009年8月26日 東京朝刊)
http://mainichi.jp/select/jiken/news/20090826ddm041040081000c.html

 私は5月末から6月にかけて、報道がチェックできてなかったので、見逃していたが、最高裁も方針を発表している。

裁判員対象の性犯罪裁判 候補に被害者名告げず 最高裁方針 イニシャルなどで質問

 裁判員裁判を実施する各地裁は、強姦(ごうかん)致傷など性犯罪の裁判員選任手続きで、候補者に被害者の氏名は明かさず、イニシャルや年代などにとどめ裁判長が個別の質問で被害者の関係者かどうか確認する見通しであることが、最高裁への30日までの取材で分かった。

 裁判員候補者に事件の情報に関する守秘義務はなく、21日の裁判員制度施行に当たり、女性支援団体などが性犯罪被害者のプライバシー保護などを要請していた。

 最高裁によると、裁判員裁判では、対象事件ごとに50−100人の候補者を各地裁の裁判員選任手続きに呼び出す。

 各地裁は候補者に、まず被告や被害者の名前を含めた事件の概要を説明し、被告や被害者との関係の有無を確認する。それぞれの親族や同居人などは不選任とし、友人や知人などで不公正な裁判をする恐れがあると判断した場合も候補者から外さなければならない。

 この概要説明で、性犯罪被害者は「30代のSさん」などとするほか、市区町村の規模により、おおまかな住所地を伝えて、候補者に心当たりがないか尋ねる。

 その後、心当たりがあると答えた人には、裁判長が一人一人実施する質問の中で、心当たりのある人の名前を聞き、被害者かどうか確認する。

 殺人や傷害致死など性犯罪以外の罪名の対象事件に性暴力が含まれている場合も、被害者情報保護の必要性があれば同様の方法をとるという。

 裁判官は独立して職務に当たるので、こうしたやり方を一律に徹底することはできないが、最高裁は「事件に応じた裁判員選任手続きの方法は協議を続けてきたので、各地裁は対応を把握している」としている。
(2009年05月30日 16:41)=2009/05/30付 西日本新聞夕刊=
http://www.nishinippon.co.jp/nnp/feature/2009/saibanin/kiji/kyushu/20090530/20090530_0003.shtml

 また、青森地裁では、性犯罪の審理について問題が起きている。

性犯罪審理に悩む裁判官 「併合」か「分離」か

 一人の被告が裁判員裁判対象の性犯罪を含む複数の事件で起訴された場合、審理を一括(併合)するか分離するかで裁判官の判断が分かれている。併合によって量刑の軽減が望める被告の利益と、分離による被害者のプライバシー保護。どちらを優先するかで刑期が左右される事態が現実味を帯びており、今後の各地裁の対応が注目される。

 青森地裁は9月2〜4日に開く裁判員裁判で、2件の強盗強姦(ごうかん)事件など4件を併合審理する。5月21日の裁判員制度開始前に起訴された強盗強姦1件を含む3件は対象外事件だが、4件は併合罪の関係にあり、同地裁は被告の利益に配慮したとみられている。

 一方、仙台地裁は20日に公判前整理手続きの第1回協議が開かれた被告の公判をめぐり、同地裁に起訴された強姦致傷罪の審理を、強姦未遂罪、盛岡地裁から移送予定の強制わいせつ未遂罪と分離する方針。

 併合罪関係にある3事件を一括審理した場合、本来は裁判員裁判対象外の強制わいせつ未遂、強姦未遂の両事件の被害者情報を、裁判員裁判員候補者に開示することになるため、それを避けるのが目的だ。

 両地裁の対応について、元東京高裁判事の木谷明法政大法科大学院教授は「ともに事案に応じて適切に判断していると思う」とした上で、「青森は強盗強姦という重い罪が2件あり、分離すると後の裁判で刑期を調整するのが難しい。仙台は分離する事件が比較的軽いため、強姦致傷の刑期を考慮して刑を軽めに出すことも可能だ」と解説する。

 今回のような審理の併合、分離の問題は「被害者への配慮と被告の権利が衝突し、折り合いが難しい面もある」(木谷教授)ため、裁判員制度の大きな課題の一つに挙げられている。

 最高裁は、今年1月に公表した裁判員模擬裁判の成果と課題をまとめた報告書で「裁判員の負担や併合による被告の利益などを総合的に考慮し、どのような場合に併合、分離するかを検討する必要がある」と記した。結論を示さなかったツケが、本番で各地裁に難しい判断を迫っている格好だ。

河北新報、2009年08月21日金曜日)
http://www.kahoku.co.jp/news/2009/08/20090821t73014.htm

文中でコメントしている木谷さんの、「被害者への配慮と被告の権利が衝突し、折り合いが難しい面もある」という表現には違和感がある。衝突しているのは、「被害者への配慮と裁判員制度」である。制度を導入したため、被害者と被告の両者が不利益を被っているのだ。ここで、被害者と被告を天秤にかけるようのは間違いである。問われるのは「被害者と裁判員制度、どちらが大事ですか?」ということである。

*1:次が私のまとめ→http://d.hatena.ne.jp/font-da/20090521/1242899465

*2:最高裁に対応する検察