舛添要一厚生労働大臣への抗議文

 先日、舛添要一厚生労働大臣が、「年越し派遣村」に参加した失業者を「怠けている連中」と発言したとの報道がなされました。その件について、元派遣村実行委員会有志一同が抗議文を発表しています。

[派遣村村民]舛添厚労相演説に抗議文 「事実ねじ曲げた」

 抗議文を出したのは名誉村長を務めた宇都宮健児弁護士ら派遣村の元実行委員会の有志ら約10人。抗議文は、求職登録した村民は100人を超え、旅館の住み込みや清掃などに就職したと説明。さらに「実は募集していない」など求人内容に問題があるものが多かったと指摘した。その上で「厳しい雇用情勢の中で生活再建に取り組んでいる人への侮辱である。貴殿は目の前の現場に一度も足を踏み入れず、事実をねじ曲げた言動を繰り返していることを私たちは黙認できません」と抗議した。
(2009年08月24日17時33分 / 提供:毎日新聞
http://news.livedoor.com/article/detail/4314032/

舛添要一厚生労働大臣は、抗議を受けて釈明している。

派遣村なまけもの発言で釈明、舛添厚労相

 舛添要一厚生労働相は25日午前の記者会見で、「年越し派遣村」に参加した失業者を「怠けている連中」と発言したとして抗議を受けたことについて、「今後は言い方を注意する」と釈明。発言の真意を「働く能力と機会がありながら働かない『怠け者』に貴重な税金を1円も払うつもりはない、ということを言った」と説明した。(産経新聞)

抗議文の全文は以下。
すくらむ」経由です。

                         2009年8月24日

抗議文

               元派遣村名誉村長 弁護士 宇都宮健児
               元派遣村実行委員会有志一同
               〒104-0061 東京都中央区銀座6-12-15
               COI銀座612 7階 東京市民法律事務所


 厚生労働大臣 舛添要一 殿


 私たちは、年末年始、日比谷公園にて派遣村を企画した実行委員会の有志です。


 貴殿は、8月18日、横浜市内の街頭演説で、年越し派遣村の取り組みについて言及し、「4000人分の求人票を持っていったが一人も手を上げなかった。大事な税金を働く能力があるのに怠けている連中に払う気はない」と発言しました。


 私たちは、この発言は、事実誤認により生じる偏見、もしくは、事実を捻じ曲げた中傷であり、命からがら派遣村を訪れ、今もなお厳しい雇用情勢の中で生活の再建を目指して努力している方々への侮辱であると考えます。自立を目指し、切実な思いで求職活動をしながら、何件も何十件も断られ、それでも求職活動を続けているのに、よりによって厚生労働大臣という立場にある人からこんなことを言われたら、どういう気持ちになるか。村民一人一人の心情を考えてください。


 派遣村は、厚生行政と労働行政の双方に対し、重たい提起を投げかけた取り組みでした。しかし、貴殿は目の前の現場に、一度も足を踏み入れなかった。そうした方が、事実を捻じ曲げた言動を繰り返していることを、私たちは黙認することはできません。上記の発言を撤回し、文書による謝罪を求めます。


 また、派遣村に持ち込まれた求人票に関する事実、及び私たちの見解を以下に記しますので、ご一読ください。


1)「一人も応募しなかった」というのは、1月5日の4施設入所初日のことである


 1月6日にも、派遣村実行委員会に対して、大村厚労副大臣から同様のクレームを受けました。しかし、1月5日は日比谷公園撤収作業後、国会への請願行動や議員申入れなどをしており、都内4施設に入所したのは午後4時ごろでした。東京都職員から施設の決まりごとなどの説明を受けるとすでに5時になり、ハローワークの出張窓口が閉まりました。初日の応募がなかったのは、こうした理由によるものです。


 また、このことは、大村氏にはその場で説明し、誤解を解いていますし、貴殿もその報告を受けているはずです。6日からは朝から相談が始まっていましたし、今ごろになって言い出すのは「為にする」議論です。


2)「手を上げなかった」というのは誤り


 1月18日の時点で、求職者登録をした村民は百数十名に上っており、4施設に滞在していた村民の半数に上りました。


 4000件の求人中から応募し、旅館の住み込みや清掃、警備、タクシー会社などに就職し、派遣村を去った方もおります。


3)4000件の求人には実態のないものも多かった


 応募をした村民は、ほとんど断られてしまっています。応募した会社から返ってきた返事は、「もう決まっちゃいました」「実は募集していないんです」「ハローワークから求人を出すよう言われて、ホントは募集してないんだけどお付き合いで求人を出しているだけなんです」といったものでした。こうした実情を、大臣は御存じでしょうか。


4)寮付き求人へのトラウマ


 当初の応募が少なかった背景には、派遣村に持ち込まれた求人の多くが、「住み込み」など寮付きの求人だったことにも原因があります。


 派遣切りは、雇用契約の解除と同時に、住まいを追われるという過酷な首切り体験でした。寒空に放り出された彼・彼女らは「二度と同じような目に遭いたくない」という思いをもっています。今度こそは、自分の住居を確保して、職場に通いたい、だから住み込み求人への、応募には躊躇する、というのは心情としても理解できることではないでしょうか。


5)求職活動どころではなかった


 年越し派遣村では、心身の不調を訴える人や、今日の食費もない極限状態に追い込まれた人が多く、生活保護を受給し、その日の生活費を確保することが最優先の課題でした。 


 実際、緊急小口貸付資金の特例交付が始まる1月7日夕方までは、ほとんどの人が無一文の状態であり、求職活動のための面接交通費などを持っていなかったのが実情です。


 また、既に、大半の方が派遣切り後に、ハローワークや様々なところに相談に行ったり、必死の思いで職探しをおこなって来られていました。その結果、有り金も底をつき、どうしようもなくなって派遣村にたどりつかれています。心身共に疲弊した状態では求職活動を満足に行うことはできません。


6)誰でも年収1000万以上稼げる求人があったらください


 上記の発言のあった翌19日も、貴殿は「求人は、すべて寮付住み込みで、年収1000万以上稼げるものだった」などと発言されたと聞いています。耳を疑いました。そんな求人があったという話は実行委員会では聞いていません。また、もしあったとしても、ある種の専門性が問われる職務である可能性が高く、派遣切りされたり、数年間の野宿経験をしてきた失業者が就ける仕事でしょうか。ミスマッチが大きすぎたとしか考えられません。そのことを、求職者が怠けているといった文脈にすり替えないでください。


7)政策の実施と言っていることが違います


 政府が21年度補正で「第二のセーフティネット」を構築したのは、昨年秋からの派遣切りで派遣村村民も含め、職も住居も失う労働者が大量に出たにもかかわらず、セーフティネットが機能していないというその反省の上に立ってのことだと思います。


 派遣村の村民は、多くの失業者と同様に求人活動をし、同様に就職できていませんが、これらの人たちに対する「第二のセーフティネット」が無駄だというのでしょうか。そうであれば、政策決定者自ら「第二のセーフティネットなど不要だ」と言っているのと同じです。閣僚としての自らの行為に矛盾する発言であり、その社会的責任は重大であると考えます。


                                      以上