性犯罪被害者の氏名開示問題について(事実確認とお詫び)

 性犯罪被害者の氏名が、裁判員候補者に開示される懸念について、最高裁判所に電話で質問して、*1確認しました。

事実関係の確認

 裁判員制度は、次のような手順で行われます。

(1)裁判員候補者名簿を作ります(前年秋ごろ)

(2)調査票とともに候補者に通知します(前年11月ごろ)

(3)事件ごとに名簿の中からくじで候補者が選ばれます

(4)質問票とともに選任手続期日のお知らせ(呼出状)が送られます(原則、裁判の6週間前まで)

くじで選ばれた裁判員候補者に質問票を同封した選任手続期日のお知らせ(呼出状)を送ります。裁判の日数が3日以内の事件(裁判員裁判対象事件の約7割)では,1事件あたり50人程度の裁判員候補者にお知らせを送る予定です。質問票を返送してもらい,辞退が認められる場合には,呼出しを取り消しますので,裁判所へ行く必要はありません。


(5)選任手続期日(裁判当日)

裁判員候補者のうち,辞退を希望しなかったり,質問票の記載のみからでは辞退が認められなかった方は,選任手続の当日,裁判所へ行くことになります。裁判長は候補者に対し,不公平な裁判をするおそれの有無,辞退希望の有無・理由などについて質問をします。候補者のプライバシーを保護するため,この手続は非公開となっています。


(6)6人の裁判員を選任

最終的に事件ごとに裁判員6人が選ばれます(必要な場合は補充裁判員も選任します)。通常であれば午前中に選任手続を終了し,午後から審理が始まります。

参考:http://www.saibanin.courts.go.jp/introduction/how_to_choose.html

以上のプロセスで、いつ、犯罪被害者の氏名は開示されるのでしょうか?
 まず、(6)の時点で、裁判員に選ばれた6人と、補充裁判員若干名には、犯罪被害者の氏名が開示されます。この場合、裁判員に選ばれた6人には守秘義務があります。*2
 問題は(5)の時点です。(4)で、数十人規模でくじで選ばれた候補者は、(5)で裁判所に行き、事件の概要を説明されます。このとき、候補者が対象事件の関係者かどうかについても確認します。その際に、犯罪被害者の氏名を開示するかどうかの判断は各裁判体(裁判官+裁判員)にゆだねられています。
 つまり、犯罪被害者の氏名は、必ず(5)で開示されるわけではありません。しかし<プライバシーに配慮しなければならない>という最高裁からの念押しはありますが、氏名が開示される可能性は残っています。
 2009年5月6日の読売新聞で、性犯罪被害者の氏名も(5)で開示される可能性が報道されました。「この報道を受けての対応策なのか」と最高裁判所の広報課に確認しました。回答としては、性犯罪被害者に対するプライバシーの配慮は裁判員裁判以前から申し渡されているものであり、今回新たな対応策として、5月6日以降に打ち出した方針ではないとのことです。
 また、これらの犯罪被害者の氏名開示に対する方針について、各裁判所に対するプライバシーへの配慮は申し渡しがあるが、一般向けの広報は予定されていないとのことでした。

問題の確認とお詫び

 以上の私が得た電話での情報を踏まえると、最高裁判所と、マスコミや運動団体の反応の温度差があるのがわかります。最高裁判所は、氏名の開示はあくまでも可能性であり、プライバシーへの配慮の徹底により対応したいという考えのようです。一方、マスコミや運動団体は、その可能性こそを憂慮しています。とりわけ、性犯罪被害者に関しては、氏名の開示が可能性であれ、大きな負担になりかねません。性犯罪被害者の氏名開示の可能性を再考し、プライバシー保護重要性を周知徹底する対応が求められます。*3
 しかしながら、私の5月17日の記事では、一律に犯罪被害者の氏名を裁判員候補者に開示する印象を与えるような側面がありました。私自身、記事を書いた時点では、上記の情報を確認していませんでしたので、理解に甘さがありました。もし、上記の情報を得たのち、不本意な署名をしたと感じる方がいらっしゃれば、本当に申し訳なく思います。できる限り正確な情報を伝達できるよう、これから努めていきたいと思います。

*1:大元に聞くのが速いじゃん、という原始的方法です。「記者の方ですか?」と最後に確認されたので「一般市民です」と返答しました。まあ、私は図書館の利用区分も、一般の身ですので……

*2:確認ですが、裁判員候補の時点では守秘義務はありません

*3:この問題点を含めて、最高裁判所に対して申し入れが行われています。上でも掲載しましたが、デルタGのミヤマアキラさんが報告されています。質問書への回答が待たれます。http://www.delta-g.org/news/2009/05/post-277.html#more