新刊のデザインが出ました。

 筑摩書房の柴山さんが、私の本の装丁をTwitterで公開しています。

 

 白と赤のインパクトのある装丁で、初めてみた時は「おおっ」となりました。本屋さんで目立ちそうです。

f:id:font-da:20220111012833j:plain

 まだ、通販サイトでも書影は出ていないのですが、以下から予約はできます。友人たちが「予約したよ!」と連絡をくれて嬉しかったです。知り合いに自分の過去の話を読んでもらうのはちょっと恥ずかしくもありますが、とてもありがたいです。そして、前回の本よりずっと安いのでそれも喜ばれました。どうしても研究書は高くなってしまうのですが、今回は一般書ですし、たくさん刷ってもらうので安くなります。でも、そのぶん、たくさん売らなければならないのでは……? みなさん、よろしくお願いします*1

 Twitterではいろんな方が反応してくださっていて、ありがたいなあと思っています。そのなかのお一人が、本を出されていたので石田月美「ウツ婚!!」を読みました。

 石田さんは、メンタルヘルスの困難を抱えながら、精神医療や自助グループのたすけを借りて回復の道を探します。支援者は障害者手帳を進めますし、生活保護の利用も考えます。そのなかで「婚活をする」と決めて奮闘し、実際に結婚するに至ります。そのプロセスが軽妙な文体で語られています。

 石田さんのキャラクターや葛藤は私とはだいぶん違うところもありますが、支援者が理想とする回復の道を蹴っ飛ばして、自分が決めたけもの道を歩いてきたところは共通しているように思いました。石田さんが婚活を始めたのは27歳ですが、私が大学院に進学したのは28歳です。婚活と研究という違いはありますが、周りの心配はなんのそのでマイウェイを突っ走ったところと、なにかあれば当事者仲間にメールしまくるところにとても共感しました。地元が同じ人、という感じです。

 私は、同世代の生き延びた人たちが、次々と出てきているし、新しい言説が生まれていくといいなあと思っています。同時に、私たちが語れるようになった頃には、もう次の世代が本当は新しい文化を創り出しているのだろうとも想像します。いつも、「みんなに公開されるナラティブ」と「今起きていること」の間には距離があります。それこそが、トラウマというものの本質だとも思いますが。遠く離れた星が、私たちの目には美しく輝いて見えるけど、本当はもう今は爆発してなくなっているようなものです。

*1:もちろん買っていただければ嬉しいですが、いろんな事情がある方もいらっしゃると思いますので、地元の図書館に購入リクエストを出していただくのも大変ありがたいです。これは商業出版では禁句かもしれませんが、当事者に向けて書いた本でもあるので脚注で作者からこっそりとお伝えします。

新刊の予約始まりました。

 新刊の情報が出ました。1月31日発売予定です。Amazonからも予約できるようです。

 『当事者は嘘をつく』という、少しびっくりするようなタイトルになっています。自分の性暴力の被害体験について整理して、初めて他人に見せられる形で書きました*1。私にとっては、性暴力の経験を語ろうとすればするほど、言葉が遠ざかっていくような感覚があります。どうすれば、真実を語れるのかわからない、と思うような困難があります。それを、そのまま描き出そうと格闘した著作です。また、自助グループでの活動を通して性暴力被害者のアイデンティティを持ってから、修復的司法の研究者になるまでの、心理的葛藤も詳しく書いています。帯にはカウンセラーの信田さよ子さんにコメントをいただきました。

「私の話を信じてほしい」哲学研究者の著者は、傷を抱えて生きていくためにテキストと格闘する。自身の被害の経験を丸ごと描いた学術ノンフィクション。

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「私の話を信じてほしい」
哲学研究者が、自身の被害経験を丸ごと描く。

 

性被害ほど定型的に語られてきたものはない。かねがねそれでは足りない、届かないという思いを抱いてきた。本書には、当事者と研究者、嘘かほんとうかをめぐって幾層にも考え抜き、苦しみ格闘したプロセスが描かれている。これこそ私が待っていた一冊である。――信田さよ子

 

ジャック・デリダ、ジュディス・ハーマン、田中美津渡辺京二らのテキストを参照しつつ、新しい語りの型を差し出そうとする試み。

当事者は嘘をつく 小松原 織香(著/文) - 筑摩書房 | 版元ドットコム

  まだ、書影は出ていませんが、カバーデザインを見せていただきました。私はあんまりデザインを上手く語る言葉を持たないのですが「フォーマル・ドレスを着せてもらったなあ」というような気持ちでいます。こうしたインターネットの片隅の個人ブログで書いてきた身としては、なんだか改めて着飾った本を出すのは照れくさいところもあり、素敵な装丁にしていただいて誇らしくもあり……私も実物を手に取るのを楽しみにしているところです。

*1:はてなハイクのスタコメなどでカムアウトはしていましたし、そんなに隠すつもりもないので、長く私のブログを読んでる方にはバレバレのような気もしますが。

道頓堀のカニ料理店と修復的司法の試み

修復的司法の研究者のMLで教えてもらったニュースです。大阪・道頓堀のカニ料理のお店のオブジェを壊してしまった若者たちが、社長に陳謝。今は、お店を手伝ったり、新しいオブジェのデザインに協力したりしているそうです。若者たちは、コロナの影響で失業してつらい精神状態のなか、酒に酔ってオブジェを壊したとのこと。器物損壊は許されることではありませんが、その後の被害者・加害者交流の中で新しい関係が生まれてくるのは、まさに修復的司法が目指すところと重なると思います。

news.yahoo.co.jp

近況

 このごろのベルギーは毎日、曇天か雨か氷混じりの雪です。今日は霧です。冬はずっとこの調子だそうで、春がいまから待ち遠しいです。クリスマス休暇に入る人も多く、街はイルミネーションの飾り付けも増えました。ただ、今年はあちこちのクリスマスマーケットは中止になり、寂しいです。私の住んでいるルーヴェンも早々に中止が決まり、友人たちが残念がってくれました。

 ただ、ビザの延長の申請を大学から出してもらったので、順調にいれば来年もベルギーにいることになりそうです。来年はもう少し、コロナの状況が落ち着くことを願います!次々と変異株が出て、先の見通しがたちませんが、来年のクリスマスごろにはもっと気楽に暮らせるようになっていますように……

 楽しみがないぶん研究に打ち込むしかないので、仕事は進みました。ビザ延長についても、業績がしっかりあることと、積極的にチームの仕事に貢献していることで、大学内の研究科の審査はあっさりと通りました。私自身、4月にこちらにきてから、国際学会で3本の報告をしましたし、英語論文2本を新たに書いて投稿し、日本語論文ももうすぐ出版される見込みなので、いい調子だと思います。

 相変わらず英語には苦労していますが、さすがに10ヶ月目なので、こちらに来た直後よりはずいぶんとスムーズにコミュニケーションが取れるようになりました。そうすると、余計に欲が出てきて、自分に対してイライラすることも増えました。最初はその場をやり過ごせれば満足していましたが、今は自分の日本語での言語運用能力とのギャップで、「ああ、もっと話したいことがあるのに!」と叫びたくなります。しかしながら、研究を進めながら、生活を円滑にやろうと思うと英語学習に時間はそんなに割けず、もどかしい気持ちです。他方、研究のアイデアが面白く、アウトプットを増やして自分の力をアピールしていけば、英語が下手でも、短期滞在ならなんとかなるものだなあとは思っています。(それだけに、母語以外で博士号を取る人は心底尊敬します)

 本の出版は大詰めにさしかかっています。編集さんはもちろん、校閲さんやデザイナーさん、コメントをくださる方など、たくさんの方が協力くださるなかで本が出来上がっていくのは、感慨深いです。これから、出版社の営業さんや、取次の仕事の方、本屋の販売員さんなどのご協力もいただくことになります。(商業の)本はひとりの力では出せない、というのは聞いていましたが、実際に自分がそのプロセスに関わることで実感しています。自分が細々と同人誌を出していたので、商業出版社でプロが集まってきてコーディネートしてくださるのは「すごい!!」と素直に思います。それと同時に、同人誌即売会で印刷会社から届いた新刊のダン箱を開けて「できた……」と手に取って一人で感動する瞬間はなににも変えがたいですし、これからもずっと続けていきたいと改めて思っています。どちらの幸せも知ることができるのは、贅沢でありがたいことですね。

アジア環境哲学ネットワークのオンラインシンポジウム参加者募集のお知らせ

 私が共同コーディネーターをつとめるアジア環境哲学ネットワークで、2022年6月17-18日に、オンラインの国際シンポジウムを開催することになりました。テーマは「アジアにおける環境哲学の多様性」です。現在、個別報告の参加者、パネルセッションやワークショップの提案を募集しています。参加は無料です。

 アジアの環境哲学は、それぞれの地域の伝統や文化に深く関わっているため、多様で無限の広がりを持っています。また、言語も異なるため、これまで研究者同士の繋がりを作る場が多いとはいえませんでした。私たちは、今回のシンポジウムを機に、新しい研究ネットワークを構築を促し、相互交流を通して「アジアの環境哲学」を探求することを目指しています。

 英語が第一言語になりますが、私たちはゆっくりとしたやさしい英語を使うことで、ノンネイティブフレンドリーの国際シンポジウムを志しています。また、英語以外の言語での発表を強く希望される方はご相談ください。複数の参加者が、特定言語での発表を希望する場合は、特別なセッションを組むことも検討しています。

 次のような関心をお持ちの方はぜひ、参加をご検討ください。

私たちは「アジアの環境哲学」を語れるのだろうか?
アジアの多様な文脈や伝統の中で、環境哲学はどのように培われ、実践されてきたのだろうか?
環境哲学とその地域の生活様式はどのように関わっているのだろうか?
グローバル化のなかで、アジアの環境哲学はどのような役割を果たすことができるのだろうか?
アジアの環境哲学研究者はどのような強みを持ち、どのような課題に直面しているのだろうか?
アジアにおいて、先住民の知識は環境問題に向けてどのような役割を持つのだろうか?

asiaenviphilo.com

「犯罪」と「正義」について考えるための映画の紹介記事

 KU Leuvenでの研究仲間のAna Pereiraが、European Forum for Restorative Justiceのブログに、映画を通してを書いているので、こちらでも紹介します。

www.euforumrj.org

 Pereiraは、映画を通して、個人としての被害者や加害者について考えることの重要性をこの記事で強調しています。ひとりの人間として、かれら当事者が私たちの身に迫ってきたとき、人々は初めて本当の意味で、犯罪のその後を考えられるのかもしれません。記事の中で紹介されている「告発の行方(The Accused, 1988)」「真実の行方(Primal Fear)」は日本でも公開され、よく知られています。3本目の「The Mustang (2019)」は日本では公開されていませんが、Amazonなどを通してオンラインで購入して視聴できるようです。記事内では、それぞれの映画の見どころなども紹介されています。

www.youtube.com

 私も、映画などのエンターテイメントを通して、犯罪や暴力について考える機会を持つことにはとても関心があります。春にかけては前から計画していた、コミック版「風の谷のナウシカ」を通して環境問題を学ぶ研究を、論文にしていきたいと思っています。私は文章を書く以外にとりたてて良い表現方法を持ちません。でも、私自身はマンガを読むのが大好きだし、伝える側としても、文章を読むのが苦手な人には絵や動画を通してわかりやすく表現したいなあと思っています。最近は日本でも、修復的正義を扱った演劇やアニメの作品も出てきているので、これから楽しみだと思っています。

ロックダウン下のDV被害についての調査研究

 論文「Locked Down with the Perpetrator: The Hidden Impacts of COVID-19 on Domestic and Family Violence in Australia」が公開されました。この論文では、ロックダウン下では、「通常時に社会から疎外されやすい人たち」が支援者と繋がることが困難になり、より危機にさらされることが報告されています。調査では、文化的・言語的に多様な人たち(CALD, Culturally and Linguistically Diverse)、先住民、レズビアン、ゲイ、バイセクシャルトランスジェンダーインターセックスクィア、+(LGBTIQ+)、就学する児童と暮らす女性、すでに暴力的関係にあった人、ロックダウン時に初めて暴力を受けた人の経験に焦点を当てています。非常時には、通常時に弱い立場にあるマイノリティが、より深刻な害を受けやすいことは、想像できることですが、こちらの論文では実際に調査報告しているので参考になると思います。(この調査では、倫理的配慮により、被害者当人ではなく、DV関連の支援機関に問い合わせをしています)

 また、先行研究レビューではパンデミック中のDV被害についての最新研究が数多く紹介されています。そちらの情報収集にもとても役立つことでしょう。以下から無料でダウンロードできます。

www.crimejusticejournal.com