金井純一監督「ゆるせない、逢いたい」上映会&トークイベントのお知らせ

 イベントのお知らせです。金井純一監督「ゆるせない、逢いたい」の上映会&トークイベントを行います。本作品は、11月16日より全国公開される新作映画です。

金井純一監督「ゆるせない、逢いたい」
http://yuru-ai.com/

 作品では、高校生の主人公はつ実がデートレイプ被害に遭い、そのトラウマに苦しみながら、なんとか問題を乗り越えていこうとするプロセスを描いています。はつ実を襲ったのは、お互いに惹かれあい、淡い初恋の関係にあった隆太郎でした。被害後には、警察からの被害の聴取や友人関係の中で、傷つき孤立感を深めていきます。はつ実の味方になり、応援しようとする母親ともすれ違いが起きます。そんな中、はつ実はNPOを通して、隆太郎と対面して話をしようと決意します。「ゆるせない」という強い気持ちと、それでも「遭いたい」と思ってしまう自分の間で、揺れ動くはつ実の気持ちを丁寧に追おうとしています。
 特筆すべき点としては、被害後の状況について、徹底的に被害者に視点を絞っていることです。特に、「力になりたい」と心から思う家族と、被害に遭った当人の気持ちのズレまでも描こうとしている力作です。
 そして、大きな問題となるのは、性暴力の被害者と加害者が対話をするという後半部分です。これまで性暴力被害者支援では、再被害の恐れがあるために、加害者と会うことは避けることが重要だと考えられてきました。もともと、特に家族・友人・恋人からの性暴力の場合には、被害者に和解や赦しが強要され、二次加害になっていることが大変多かったからです。また、性暴力の加害者は極めて悪質なことが多く、反省したふりをして被害者や周囲のものを騙し、再び被害者を自分の支配下に置くこともよくあるからです。「性暴力の問題は、謝ったり話し合ったりすることでは解決せず、被害者の安全を確保することが先決で、そのためには加害者を近寄らせてはいけない」と考えられてきました。そして、この方策は正しくもあります。多くの被害者は加害者には会いたくないと望みますし、その希望が守られることは最優先すべきだからです。
 他方、それでも被害者が会いたいという願いを持つことがあります。従来の支援では、その場合には「再被害の危険性を伝える」「会わないで気持ちを整理する方法を、いっしょに考える」という対応が多かったです。そうした手段がありつつも、「なぜ、あんなことをしたのか、加害者に説明してほしい」「謝って欲しい」と願う被害者の当然とも言える思いを前に、迷いがあった支援者もあると思います。もちろん、「支援者」という肩書のない、友人や家族でも同じことです。映画の中では、はつ実は迷いながらも、実際に安全を守りながら対話を行う可能性を模索するNPO*1を通して加害者と対面します。
 この展開について、どう受け止めるべきなのでしょうか。「性暴力の被害者と加害者の対話はあり得るのか」「再被害の危険性を高めているのではないのか」「被害者の心情を理解できていないのではないか」「加害者が心から反省することはあり得るのか」など、さまざま疑問を呼び起こす映画だと思います。
 今回のイベントでは、金井監督を交えて、率直にこの映画の内容について議論したいです。難しい問題ですから、一つのベストアンサーがあるわけでもないと思います。対話に関心があり推進したい方はもちろん、慎重な姿勢を持っている方、批判的な立場の方のご意見もぜひお聞きしたいです。
 秋で、あちこちで魅力的なイベントが盛りだくさんの時期なのですが、どうぞこの上映会&トークも、ご参加のほどをよろしくお願いします。

映画「ゆるせない、逢いたい」上映会&トーク

11月9日(土)13時30分〜
(13時開場、16時半終了)
場所:なんばI-site 2階 C1
http://www.osakafu-u.ac.jp/isitenanba/
主催:女性学研究センター・大阪府立大人間社会学研究科院生有志

■13時半より「ゆるせない、逢いたい」( http://yuru-ai.com/ )を上映いたします。
■上映後に、金井監督を交えてのアフタートークを行います。
(16時半終了予定)
入場は無料です。
■会場へは地下鉄大国町駅・恵美須町駅からがアクセスしやすくなっています。
http://www.osakafu-u.ac.jp/isitenanba/map/index.html

【映画のストーリー】
 交通事故で父を失い、母と共に、3人で住む予定だった郊外の一軒家に引越してきた木下はつ実(吉倉あおい)。高校では、親友のマリと共に陸上部に所属しているが、過保護で厳しい母親との対立や、慣れない新生活などに、孤独を抱えていた。
 そんなある日、はつ実は、古紙回収で家の近所を回っていた野口隆太郎(柳楽優弥)と知り合う。一見はぶっきらぼうな隆太郎だが、陸上のことや、新しい街のことを話すうちに、2人の仲は自然に深まっていく。数回目のデートの別れ際、隆太郎は、はつ実に自分の過去を話し出す。「オレ、両親に捨てられたんだ…」。哀しげな表情を見せる隆太郎の頭を、思わず静かに抱き寄せるはつ実。お互い、かけがえのない存在になっていた。
 隆太郎と別れて帰宅したはつ実を待ち受けていたのは、娘を心配する母親の厳しい追求だった。予備校に行っていないことを咎められたはつ実は母親と口論になり、携帯電話を壊してしまう。隆太郎との唯一の連絡手段を失ったはつ実は途方にくれ、一方の隆太郎は、はつ実からの連絡が途絶えたことに落ち込み、嫌われたと思い込んでしまう。
 やがて、2人が再会した日に事件は起きた。はつ実の姿を目にした隆太郎は、昂ぶる感情をおさえられず、勢いにまかせてはつ実を襲ってしまう。事件は弁護士であるはつ実の母によって明るみになり、ふたりは、加害者と被害者の関係として、互いに連絡を遮断されてしまう。事件の後遺症を引きずるはつ実は、心と体の葛藤を抱え、苦悩する。「ゆるせない」絶対的な気持ちと、ほんのわずかに残っている「逢いたい」気持ち――。相反する感情がはつ実を襲い、苦しさが爆発する瞬間、彼女のそばにいたのは親友、そして対立していた母だった。
 ついに、はつ実は心を決める。自分に向き合い、相手に向き合うため。そして未来を見るために。そして、隆太郎と驚きの約束を交わすのだった。

*1:映画監督は実際に修復的司法のNPOを取材しています