産經新聞の性犯罪特集その後
数日前に批判していた*1、産經新聞の性犯罪特集ですが、今日、完結しました。最後の第四回はとてもいい記事でした。
「『強姦加害者の8割は知人』の難しさ、パワハラとセットに…被害女性は救済されず、加害者“野放し”の現状の不条理」
http://sankei.jp.msn.com/west/west_affairs/news/130822/waf13082207000000-n1.htm
記事タイトルの「野放し」というのは、別の言葉の方がよかったと思いますが……
内容は、親密関係で起きる性暴力の立件の難しさを指摘したものです。被害者が、説明と謝罪を求めて加害者に会いに行って再被害にあってしまったり、加害者の怒りを恐れて機嫌を伺うような「迎合メール」をしてしまったりする例が挙げられています。
記事の最後には、性暴力被害者支援看護師*2の言葉が引用されています。
性暴力被害者支援看護師の山本潤さん(39)は「相手が誰であろうと、同意のない性的行為が心身に与える影響は想像を絶する。それを医師や警察、司法を含めた社会全体が認識できていない」と現状を嘆いた上で、こう訴える。「被害者の支援機関をもっと充実させる必要がある。そのことが『社会は性暴力を許さない』という強いメッセージになるのです」。
この支援機関の充実は、私が前回の記事で主張していたこととも重なりますし、同意します。
この連載の第二回は、性犯罪加害者を取り上げたもので、更正の難しさを指摘していました。
「自制不可、繰り返す性犯罪『私を刑務所から出さないで下さい』」
http://sankei.jp.msn.com/west/west_affairs/news/130819/waf13081907010002-n1.htm
確かに、性犯罪加害者の治療プログラムは難航しており、世界的にも議論が紛糾しています。以前にも紹介しましたが、日本語では以下の本が翻訳されています。
- 作者: ウィリアム・L・マーシャル,ヨーランダ・M・フェルナンデス,リアム・E・マーシャル,ジェリス・A・セラン,小林 万洋,門本 泉,大森 明子,齋藤 栄二,里見 聡,谷 真如,西田 篤史
- 出版社/メーカー: 日本評論社
- 発売日: 2010/09/15
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第三回は、被害者の苦しい体験の回想と、加害者の罪の自覚のなさを対比的に述べています。
「「生きるため演じた」自己嫌悪に苦しみ、自分を責め傷つけた被害女性…加害者に「罪悪感希薄」の不条理と不正義」
http://sankei.jp.msn.com/west/west_affairs/news/130821/waf13082107010001-n1.htm
「回復できるということをほかの被害者にも知ってほしい」という被害者の声を丁寧に追っています。この第三回が、この記事で取り上げた第四回の支援の必要性を求める主張につながります。
第一回で私が激しく批判したこの連載ですが、第三回、第四回で納得のいく記事になっていました。最後まで読まずに批判したのは、フライングだったのかもしれないとも思いますが、いま、読み返しても第一回の内容はとても看過できるものではなかったと感じるので、それはそれでよかったのだと思います。何より、あの調子で新聞が性暴力について記事を載せ続けるではないかという不安を抱いていたので、後半は思ったよりずっと良い内容*5でホッとしました。裁判偏重や加害者への憎しみを煽るやり方ではなく、性暴力被害への理解が広まって欲しいと思います。
*1:http://d.hatena.ne.jp/font-da/20130818/1376831679
*2:SANE(性暴力被害支援看護職)のことだと思われる。病院に来所した被害者に対応するための訓練を受けた看護職者。北米を中心に広まっており、認定制度もある。日本でも、近年、養成講座が設置され注目を集めている
*3:こうした処遇を積極的に進めている国の一つが韓国です。韓国の研究者に話を聞いたことがありますが、加害者に対する「見せしめ」の意味合いが大きく、実効果は測定できていないとのことでした
*4:半民半官の刑務所で、実験的なプログラムが実施されている。坂上香「ライファーズ」では、ここでTC(治療共同体)ができている様子が肯定的に描かれている。 http://d.hatena.ne.jp/font-da/20130531/1369980171
*5:ただ、狭義の「性犯罪」や、「強姦」に問題がしぼられているため、もう少し広げたかたちで性暴力の問題を扱うアプローチがあれば、より理解が深まっただろうと、私は思います。紙幅の関係があるので難しいのでしょうが。