ダニー・レヴィ「わが教え子、ヒトラー」
下の映画と同じく、ナチスを扱った映画である。こちらはドイツ映画である。
1944年の、敗色濃厚なナチスドイツで、ゲッベルスは戦意高揚を狙って、大行進とヒトラーの演説を企図する。しかし、肝心のヒトラーはうつ状態に陥っていた。そこで、ゲッベルスは、かつてのヒトラーの教師であった、ユダヤ人グリュンバウムを呼び出す。5日以内に、ヒトラーに演説ができつように、講師を務めてほしいというのだ。
グリュンバウムは、ユダヤ人のために、ヒトラーの暗殺を決意する。しかし、グリュンバウムの精神分析的な、演劇教授法の中で、ヒトラーは父親に虐待されていた過去を語りだす。いつまにか、二人の間には、親密さが生まれる。
これは、完全にフィクションである。同居人は「やおいみたいやなあ」と呟いたが、言い得て妙である。「ナチスもの」と言ってもいい。愚かで幼稚なヒトラーと、温厚で知的なユダヤ人の交流は、妙に美化されロマンチックに描かれていた。よくいえば「人間ヒトラーを描いた」と言えるが、そんな深みがあるわけでもない。どっちかというと、芋っぽいB級コメディだった。監督は、「シンドラーのリスト」を観て、悲劇を実写化するとき、描写不可能な真実がこぼれおちると悟ったという。そこで、別の次元でのリアリティの実現が映画には必要であり、「史実と関連がありながらもシュールレアルな現実を創作しなければならない」と感じたという。*1しかし、実際にこの映画では、シュールでもなく、想像可能なレアルが生暖かい感じでまとまりを持って創作されていてしまった。
面白くないわけではないが、深夜テレビで観るくらいでちょうどいい映画だった。