盛り上がりすぎやろ?

 先日、沖縄県で起きた性暴力事件が、話題になっている。私は日ごろから性暴力については、熱心に考えてきたほうだと思うが、*1どうも発言する気になれなかった。だけど、ここまで盛り上がると、単に「私はビビッて、火中の栗を拾いたくないだけ」なのかも、という気分になってきて、遅ればせながら、発言することにした。
 きっかけとなったのはid:mojimojiさんの発言である。mojimojiさんは、id:lovelovedogさんの次の発言に言及する。

まぁ他の新聞なども報道していますが。ぼくの今のところの姿勢は「詳細な続報を待ちたい」という感じ。もうすでに実際にレイプがあったものとして容疑者について何か言っている人も目立ちますが、そういう人は過去のいろいろな報道で何をどのように学んだのか皆目不明です*1。容疑を認めている、ならともかく、容疑を否認している、というのが気になる。


*1「ファーストレイプ」があったのかどうかに関して、容疑者に対する人権意識に疑問を持ったのですね。まぁレイプ以外のことはあったとは、ぼくも思いますが。


lovelovedog「米兵(海兵隊)の犯罪率と「ファースト・レイプ」は本当にあったのかについて」『愛・蔵太のすこししらべて書く日記』(http://d.hatena.ne.jp/lovelovedog/20080218/beihei

この記事について、mojimojiさんは、次のように指摘している。

繰り返すけど、容疑者は「抱き付いたり押し倒したりはした」ことは認めている。連れまわされた女性が助けを求めているという事実がある以上、容疑者が彼女にまともな意思確認をしていないとしか考えられず、既にこの時点で性的暴力であることは確定。既に非難に値する。


mojimoji「『広義/狭義の性暴力』とか言い出すんでしょうか?」『モジモジ君の日記。みたいな。』(http://d.hatena.ne.jp/mojimoji/20080219

 私は両者の間に、このまま、性暴力の定義についての議論が展開するとイヤだ。なんで、そんな論点になるのか。

 事実を確認しておくと、現時点では容疑者は裁かれていない。であるから、まだ「加害者」とは特定されえない。今、司法システム上では、*2犯行を認めようが認めまいが、自白の段階である。いきなり「性暴力であることは確定」したりはしない。それが法治国家のルールである。lovelovedogさんの言うとおり、実際に性暴力があったかどうかは、「わからない」のである。
 しかし、問題は、法治国家のルールが、沖縄では守られていないことである。日本国内でありながら、日本の司法システムで裁かれないこと*3は、おかしい。本来、この事件の論点は日米地位協定であるはずだ。*4

 しかし、同時に、lovelovedogさんが人力はてな検索で出したアンケートの設題に対しては、私も不快に感じた。

2008年2月11日、沖縄の米兵が強姦(暴行)容疑で逮捕されましたが、この件に関してネットその他で情報を集めていたかたにお伺いします。容疑者は容疑を否認し、女性(少女)は「車内で暴行」されたと供述していますが、強姦(暴行)はあったと思いますか、なかったと思いますか。なお、強姦とは刑法における「強姦罪」の定義(http: //ja.wikipedia.org/wiki/%E5%BC%B7%E5%A7%A6%E7%BD%AA参照。「暴行又は脅迫を用いて女性の性器に男性が性器を挿入する行為(強姦)をした男性を処罰する犯罪類型」)に従います。

この定義は、言うまでもなく不十分である。「強姦罪」の定義に対する改正は、長く求められてきた。そして、これからも求められていくだろう。可能性にすぎないが、仮に本事件が司法システムに乗った場合、この定義が変更される契機になることもありえる。法律は、常に裁判で古い判例が打ち破られることで、揺らぎ変えられていく。司法システムの判断以外で、「強姦罪の加害者であるかどうか」は確定できないが、その際に現行の司法システムを絶対視する必要はない。「暴行又は脅迫を用いて女性の性器に男性が性器を挿入する行為(強姦)」があろうとなかろうと、強姦罪が適用される可能性は、司法システムの判決が出るまで、なくならない。

 また、これは推察にすぎないが、ネット上で流れている今回の事件についての議論は、常に「暴行又は脅迫を用いて女性の性器に男性が性器を挿入する行為(強姦)をした男性を処罰する犯罪類型」という定義を前提としていたわけではないだろう。
 上記の、強姦についての定義が差別的で問題を含んでいることは、多くの論者によって指摘されている。その成果か、ネット上の議論でも、多くの人は上記の定義以外の、合意のないセックスを強要されることを、レイプと捉えていたように思う。*5もちろん、「思う」だけなので、私もアンケートをとるべきかもしれないが。

 なんにせよ、事実としては、強姦はもとより、性暴力があったかどうかは、誰にもわからない、というのが結論でよい。あったかどうかを明らかにするのが、裁判である。そして、強姦があったと思う人も、なかったと思う人も、裁判をできるように働きかければよい。その点では一致するのだから、論点を戻して、日米地位協定について議論すればよい。性暴力の定義を問題に上げるならば、別の視点が必要になるはずだ。*6

追記

 mojimojiさんから、次のご指摘がありました。

lovelovedog氏は元々「何かはあった」という想定を持ち、その点は僕とlovelovedog氏の間での論点ではない。かつ、彼が問うたことは「何があったかはわからない」ではなく、「刑法上の強姦罪があったかはわからない」という点のみ。彼は性暴力と言いうる事実の有無など問題にしておらず、最初から強姦罪を構成する事実があったかだけを問題にしている。ゆえに、font-daさんが言う「lovelovedogさんの言うとおり、実際に性暴力があったかどうかは、「わからない」のである」は、少なくとも、「lovelovedogさんの言うとおり」ではない。彼はそんなことを問題にもしていない。そのことはその後に追記された別の記事の項目3*2にも明らかだと思う。

http://d.hatena.ne.jp/mojimoji/20080219#20080219f2

確かに、「lovelovedogさんの言うとおり」ではないので削除しました。私は、lovelovedogさんとは違い、「何かはあった」という想定を持ちません。ご指摘ありがとうございました。

追記2

 うっかり、私も盛り上がるところだった。ミイラ取りがミイラになるよ。
 そんな中、id:sk-44さんがクリアーに問題を捌いている。
http://d.hatena.ne.jp/sk-44/20080221/1203529240
私が、5段落以降で言いたかったことは、だいたいここに集約されていた。もうこれで私は言うことなくなったので、「ありがとうございました」。

 私は「セカンドレイプ」っていう言葉は好かんけど。この言葉が政治的に有用だった時代があったことは確かだし、今でも必要な局面があるのもわかる。*7しかし、やたらセンセーショナルな響きを持つので、苦手。私は「二次被害」という言葉を使うことにしている。
 あと、この問題にかかわるのは、「性暴力問題活動家or反米基地左翼」だけではないと思う。今回、私は構築主義の立場にたったから、こういう発言をしているだけで。レイプ自体が構築された概念であり、本質はないとしているので、(たぶん)実証主義のlovelovedogさんと相容れることはないであろう。印象操作とか、バトラーのパフォーマティビティ論に心酔する私としては、「ポリティクスの基本だよ、基本!」って感じ。

*1:こういうのはいくらやっても「十分だ」と思えないことなので控えめに書いていますが、たぶんかなり十分考えてきたし、発言・行動してきたと思います、私。ただし、沖縄という問題に関しては無知&何もしてこなかったので、今回、私もここで何か言うのは下品ではないか、と躊躇はしました。(参考:http://d.hatena.ne.jp/tummygirl/20080217/1203178581

*2:司法システム外では、確定する方法はありえる。しかし、今回の事件は、司法システム上に上げられているのだから、司法システム内の問題として扱う。

*3:日本の司法システムのおかしさについては、今回は棚上げしておく

*4:mojimojiさんも、話題になり始めたころは、同じことを書いている。

*5:たとえば、無理やりフェラチオさせられたら「それは性器が挿入されていないからレイプではない」という判断をする人は多くないように思う

*6:すなわち、セックスと暴力を、私たちは何をどうやって切り離しているのか/切り離しうるのか、という視点である。

*7:そうとしか、言い表せないような状況があるわけだしね。