やしきたかじんでいいの??

 弁護士橋下徹が、テレビ番組での発言に関して民事提訴されている。これは、テレビ番組に出演中、ある刑事事件の弁護団に対して、懲戒請求をするように視聴者に呼びかけたことに対し、弁護団側がこれは「弁護士会の信用を害する行為、品位を失う行為」であると訴えたものである。関連する刑事事件のほうは、これからの刑事司法をめぐって重要な問題を含んでいるだろう。しかし、橋下さんが直接に訴えられている民事訴訟は、速やかに終わればいいのに、と思う類のもので、あまり熱心に追っていなかった。
しかし、一応、読んでみようかと答弁書のPDFを開いた。(→http://hashimotol.exblog.jp/6499360/)(以下のページ数はPDFファイルに打たれたものを書いている)

 橋下さんは、専門家(特に司法関係者)の感覚と、「世間」の感覚のずれを指摘し、批判している。橋下さんの主張は以下である。

司法に携わる者であっても、世間の声に左右されてはいけない場面と、世間の声を敏感に感じ取らなければならない場面の両方があるのである。
(8ページ)

そして、橋下さんは、「世間」の声を重視すべきということを、次の点でも主張している。

 また犯罪心理鑑定を行った臨床心理士も、あまりにも常識的感覚からかい離した感覚の持ち主であることがよく分かる。弁護士にしても精神科医にしても臨床心理士にしても、いわゆる専門家は、一般社会との接点が少ないがゆえに、一般的な常識が欠落してしまうのである。犯罪心理鑑定書?鑑定主文(7)には、「死亡したかもしれない状態になってからは、生死を確かめる行為としながらも、性的関心を示すものと推定しうる行為が行われる。乳房に吸い付く行為などは、まさしく母性によりかかりつつの性的願望達成のための行為である。死後の性行為は、生身の関係では実現可能性が低い行為であり、これまで達成するチャンスすらなかった行為の実現である。性的欲求に基づく興奮が生じなければ射精しないであろうから、「死と再生」という意味づけが事実だとしても、性的結合への意思は否定できない」とある。つまり性的意味合いは否定できないが、それは被害者が死亡してから生じたとしている。
 この心理士は、青少年の性行為、はじめての自慰などどれだけ知っているのであろうか?同時期に、友人たちとどれだけそのような話をし、自分でも経験してきたのであろうか?
 この心理士は小難しい言葉を並べ立てているが、一般市民は、自分たちが健全に経験してきた思春期の体験、友人たちと話してきた体験をもとに、皆常識的に感じることは同じである。
 「生きているかどうか分らない被害者の状態で、乳房を貪り、乳首に吸い付き、死亡していることが分った状態で、死体にペニスを挿入し射精するなんて、よほど性欲がたまり、SEXがしたくてたまらなかったんだな」と。
(35〜36ページ)

…感じないだろう。少なくとも、私は感じない。どんなに性欲がたまってセックスがしたくてたまらなくても、私だったら死にかけている人と交接はしないだろうな、というのが私の感想である。「やりたいからやった」というような単純な構造なのかどうか、私にはわからないし、解明して欲しいと思う。
 「世間」の声という言葉は扱いが難しい。どの範囲の、誰をさして「世間」と言うのかを限定するか。それを明らかにしないと、聞いている人を、「『みんな』って誰のことやねん?」と説教する小学校の先生のような気持ちにさせる。*1
 そして、一番驚いたのは、橋下さんが「世間」の声としてやしきたかじんを持ち出すことである。

 当時番組に出演していた宮崎哲弥氏、森本敏氏、勝谷誠彦氏、三宅久之氏は、その経歴をここで詳述する必要もないほど、全国に名を馳せている評論家、ジャーナリスト、識者である。テレビに出演している者の発言がすべて正しいというわけではないが、少なくてもテレビに出演し、その他社会の様々なところで活躍しようと思えば、世間の声に真摯に耳を傾けなければならない。およそ原告らのような世間を無視する態度では世間を広く活躍することなどできない。
 そして司会者であるやしきたかじん氏は関西では知らない者がいないほどの存在である。歌の分野にとどまらずメディアで何十年も活躍しようと思えば、世間の声に敏感でなければならない。
 原告らはこの出演者陣の声が耳に入らなかったのであろうか?まったく聞こえなかったのであろうか?また本件被告テレビ発言のあった平成19年5月27日までの、弁護団に対する社会的批判をまったく知らなかったのであろうか?
(75〜76ページ)

関西の人でも、やしきさんが「世間」の声だと代表しているとは思ってないだろう。*2やしきさんは、タレント評も好きで、深夜番組では橋下さんや宮崎哲弥もネタにして散々ぼろぼろに言っている。以前、橋下さんに対しても「余計なこと(右翼思想的なこと)言わんかったらええんやけどな」と言っていたような覚えが(うろ覚えですよ。)。もし、やしきさんが「世間」の声なら、私はまず橋下さん自身にも毒舌が向けられていることは知っておいたほうがいいと思う。(知っててやってるなら、別にいいですけど)どっちにしろ、やしきさんはその場でその場で、おもしろおかしいことを言うのが仕事で、朝の番組、昼の番組、夜の番組で言う内容も違う。「また、たかじんが、なんか言ってら〜」っていうのが妥当な受容だろう。
 ……真剣に主張するほどのことでもないが、「なんで、よりにもよって、やしきたかじん?!」と思ったので書いておいた。*3

*1:このへんはフェミニストが「女の声」を形にするために、様々な戦略を練って、裁判を闘ってきた。もしやるなら、こういう手法を参考にすべきだろう。

*2:とりあえず、関西の人も「歌の分野にとどまらず」ではなくて、「そういえば歌もうたってた」。でも、有名な曲も多い「やっぱすっきやね〜ん」とか「おおさかでうまれた〜おんなやさかい〜」とか。上沼恵美子やしきたかじんは、関西の「歌もうたえる司会者」の二台巨頭。どっちも品位はまったくない。という程度の認識じゃなかろうか。

*3:意外と、よく見てるんですけどね、やしきさんの番組。みのもんたや島田伸介よりは、断然好ましいと思っている。