「父さんへのポストカード」

 今年も「父さんへのポストカード」の上映会が行われます。父親から性的虐待を受けた男性が、これまでの人生を振り返り、家族と対話しながら、父親と対面しようとするドキュメンタリーです。当事者である男性は、HIVに感染したゲイ男性で、映画監督として評価も高く、この作品でも、自らカメラをまわしをいます。昨年、見逃した方も、ぜひご覧ください。
 また、今年はゲストを迎えた「おはなし会」があります。一人は、すぎむらなおみさんです。年末にも紹介したように*1、すぎむらさんは定時制高校で養護教諭をしながら、性について深く考え、虐待された子どもたちとも向き合ってきた経験があります。すぎむらさんと、この作品を話すことを通して、性暴力の問題を掘り下げる機会になるのではないでしょうか。もう一人は、ひびのまことさんです。ひびのさんは、この作品を日本で初めて関西クィア映画祭*2で公開しました。関西クィア映画祭は、これまで6回の開催を重ね、日本の映画館では公開の難しい作品を取り上げています。ひびのさんは「父さんへのポストカード」を上映しようと考えたおもいを明らかにされるようです。
 私は、この作品は、性暴力の被害を受けたサバイバーの、終わりのない心の旅を描いていると思っています。周囲は、父親に会うことを反対するけれど、「あれは、なんだったんだ?」「なぜ、あんなことをしたんだ?」という問いを捨てきれずに、対面しようとする。もちろん、「加害者には二度と会いたくない」「忘れたい」「そっとしていて欲しい」という性暴力サバイバーはたくさんいます。でも、一部のサバイバーは、加害者に会い、対話することを望みます。その、いいとも悪いともつかないことに時間を割き、周囲に気持ちを伝え、助力を得ながら、実現しようとする姿を、この作品は描いています。そして、この作品は、「あなたは、どう思うのか?」「あなたは、どうしたいのか?」を観客に問うのです。

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『父さんへのポストカード』

すぎむらなおみさんをお迎えして 上映会&おはなし会


●3月24日(土) かぜのね(定員25名)
上映 13:00〜14:30 おはなし会15:00〜17:00
●3月25日(日) ひと・まち交流館 第五会議室(定員60名)
上映 13:00〜14:30/19:30〜20:30 おはなし会15:00〜17:00


映画 \1000(お一人様1枚のチケットで何度でもご覧いただけます)
おはなし会資料代 \400(おはなし会のみの参加はできません)
※18歳以下の方は上映・おはなし会共に無料


○ゲスト紹介○
すぎむらなおみさん(養護教諭
著書 『エッチのまわりにあるもの—保健室の社会学—』『発達障害チェックシートできました—がっこうのまいにちをゆらす・ずらす・つくる』
ひびのまことさん(関西クィア映画祭)
著書 『同性愛ってなに 一問一答』


○映画○
ベルリンで映画に関わってきたゲイの映画監督ミヒャエル・シュトック。彼は、自らの性がどのようなものかまだ知らない幼い頃から、8年にわたり父親からの性的虐待を受けていた。彼を襲ったのは、不安、混乱、強い自己否定、ありとあらゆる自暴自棄な時期…。母親や家族に打ちあけ世間にカミングアウトした後にも、父から受けた行為について考えない日はない。
彼は、自らの体験を振り返るために撮り始める。母や兄弟、恋人との時間をかけた対話、そして映像を父のもとへ…。
悲しみや怒りではなく、愛と希望をもって撮りおろされたドキュメンタリー。
・作品情報
邦題:父さんへのポストカード
英語題:Postcard To Daddy
監督:ミヒャエル・シュトック/Michael Stock
86min. 2010年制作
制作国:ドイツ/Germany
音声:ドイツ語/Deutsch
字幕:日本語・英語
協力 関西クィア映画祭


○おはなし会○
愛知で現役の養護教諭のかたわら「だれもが、のびのびできる場所」を目指して活躍のすぎむらなおみさんをお招きし、すぎむらさん実践のユニークな性教育の授業や実際に子どもの性暴力被害に関わった経験、性教育を取り巻く状況などについてお話を伺います。
関西クィア映画祭のひびのまことさんには、映画祭でこの映画を上映した想いをお聞きします。
また、映画の感想を皆さんと共有したり、考えられるような場にしたいと思っています。


○想い○
・この映画を見て、ミヒャエルが自分の人生を生きて、ただ、幸せであって欲しいと感じた。父親による性犯罪を始め、様々なことが起こる。だがそれを受け止めて、ミヒャエルの懸命に生き抜く姿やその事の現状、そんな貴重なものがこの映画では沢山見られると思う。【もえ】
・わたしたちは社会や自分の身体と向き合う限り、自身の性から逃れることはできません。ところが、性にかかわる多くの情報は、無いものとされたり共有を拒否されがちです。
ミヒャエルの体験は家族からの暴力という形で始まり、その後も困難な道を辿りますが映画の中では同時に、自分の性のことをただ自分のこととして見つめたり表現したりすることができるのだということが伝わってきます。
多くの人に見てもらいたい映画です。【もじ】
・「加害者/犯罪者は“モンスター”じゃない」。と同時に私/たち被害者=サバイバーも“モンスター”じゃない。
サバイバーは傷だらけで、かわいそうで、支援と保護と休養を求めている。そして同時に、ときどきわがままで、自分や他者を傷つけて、まちがえてしまう、そんな当たり前の個人でもある。
サバイバーはあなたの隣にいる。いつでもあなたは出会う。
サバイバーがあなたと同じ「しあわせになる権利」を持った、愛し、愛されるただの人だということ、サバイバーと共に生きるということ。
この映画にはそのリアルな手触りがたしかにある。【やかびゆうこ】
・「HIV陽性者」「ゲイ」「性的虐待被害者」どんなマイノリティでも個人はそこに含まれて、時に埋もれてしまう。この映画はミヒャエル・シュトック自身が綴った「個人」のはなし。
この映画はミヒャエル・シュトック自身が綴った「個人」のはなし。埋もれていたミヒャエルを見つけることは、もしかしたら埋もれている「自分」を見つけることにつながるのかもしれません。【りか】
・わたしがこの作品を観たきっかけは、主人公のミヒャエルがゲイだったからだ。しかし、主なテーマはゲイではなく、子どものころに自分をレイプしていた父に会って話すことだ。なぜそんなことを? それを確かめて、ぜひ現実を知ってほしい。【りょう】


○会場案内○
かぜのね http://www.kazenone.org/ 075-721-4522 京都市左京区田中下柳町7-2 出町柳駅(京阪・叡電)6番出口より徒歩1分
ひと・まち交流館 http://www.hitomachi-kyoto.jp/ 075-354-8711 京都市下京区梅湊町83-1(河原町通五条下る東側) 市バス4,17,205系統「河原町正面」下車 京阪電車清水五条」下車徒歩8分 地下鉄烏丸線「五条」下車徒歩10分


○連絡先○
父さんへのポストカード上映実行委員会
postcard.to.daddy.kyoto@gmail.com
http://pc2d.web.fc2.com/

*1:今年の10冊」ですぎむらなおみ「エッチのまわりにあるもの」を紹介しました。http://d.hatena.ne.jp/font-da/20111231/1325330170

*2:「関西クィア映画祭」http://kansai-qff.org/