【震災】web上で、情報をどう扱うか

 昨日の記事でも述べたように、Twitterを中心に、震災に関する投稿が増えています。またチェーンメールなどで、節電や寄付を呼びかける連絡が飛び交っています。そして、その中にも多くのデマがあります。id:seijotcpさんが、TwitterでのRT機能*1の使い方についての注意や、実際に流れているデマについての解説を行っています。

東北地方太平洋沖地震、ネット上でのデマまとめ」
http://d.hatena.ne.jp/seijotcp/20110312/p1

 緊急事態の中、wen上での草の根での情報拡散が大きな救援の力になることもあります。ですが、逆に混乱を招いたり、過剰な不安を煽って、マイナスの力になることもあります。特に、Twitterは、ワンクリックで情報を拡散することができるため「これは有用だ!」と思った投稿を、周囲に知らせたくなる欲望を、簡単に満たしてしまえます*2。そして、被災者の役に立っているような気分になります。もちろん、それ自体が悪いことだとは思いません。すべての支援は、闇雲に相手に手を差し伸べるところから始まります。「何かしたい」と思い立った人が多く、実際にそれで利益を得た人たちもいたのですから、良い面もあったでしょう。しかし、同時に、デマを拡散しているデメリットがあることを、今回、私たちが身を持って経験していることは、肝に銘じたほうがよいと思います。
 さて、では、こうした状況のなか、web上で情報をどう扱えばよいのでしょうか。このできごとが終わった後、分析され、ある程度のHowtoが生み出されるかもしれません。ですが、現時点で、私がweb上でどう情報を扱おうとしているのかを確認したいと思います。これは情報の扱い方としてベストなやり方ではないかもしれませんが、私が被災地から遠く離れていながら、それでも情報が飛び交う渦中でどのように考えているのかを、備忘録として残しておこうと思います。

1 「役に立たない」ところから出発する

 私は、災害援助の専門家ではありませんから、地震後にどのような情報を拡散すればよいのか、判断がつきません。どの情報が有用であるのか、ないのか、についての見分けがつかないのです。なので、積極的に「今言うべきこと」がありません。
 たとえば、私はTwitterで早野龍吾@hayanoさんをフォローしています。

http://twitter.com/#!/hayano

彼は、原子の研究をしており、原子力発電所の事故について、分かる範囲で解説をしています。こうした専門家の情報発信は、役に立つでしょう。また、医師の自発的なTwitter上の相談窓口もあります。

ツイッター医療相談情報のまとめ」
http://311care.tumblr.com/

 こうした即時に役に立つ情報を私は発信できそうにありません。ですので、そこをスタート地点にします。

2 「いつものやり方」を思い出す

 緊急事態ということで、とにかく真偽を問わずに情報を発信しつづけ、受信者にその判断を任せるという考え方の人もいると思います。これは、必ずしも間違ったやり方とはいえず、圧倒的に情報が不足した中で、かき集めた情報を少しでも拡散していくことで、リスクを避けようとすることが功を奏することはあると、私も思います。特に、人命にかかわるなどの切迫している状況では、真偽がわからず、イチかバチかで自分が助かりそうな方策をとることは必要でしょう。そうした状況におかれた人へ、なんとか少しでも情報を届けようとする努力をする人を否定はしません。
 しかし、私はそうした立場はとりません。基本的には、自分が得た情報については、

(1)情報提供者に対し、それについての真偽を追求しない
(2)真偽については、ある程度情報を集め、状況から推測判断する
(3)その判断が間違っている場合も想定する

というふうに扱うことにしています。まず、情報提供者を疑って詰問しても、真偽はたいていわかりません。むしろ、提供した人は不信感を持ち、それ以上話してくれなくなるでしょう。次に、わかる範囲で情報を集め、最終的には自分で真偽を判断します。つまり、「提供した人を信じる/信じない」というレベルではなく、「判断材料の分析」のレベルで判断します。さらに、その判断が間違っている場合、自分の行動でどうした事態が起きるのかをある程度予測します。そのあと、自分が情報を拡散するかどうかを決めます。
 もちろん、上のようにいつもスムーズに判断できるわけではないのですが、自分の中の情報の扱いについての、モデルを普段から作っているということです*3。緊急事態でも、やはり私はある程度上のモデルに従って情報を判断するようにしています。
 たとえば、昨夜、私の参加している学生同士のMLに、「関西地域の人に節電を求めるチェーンメール」が流れました。現段階では、関西電力*4はウェブサイト上で、チェーンメールで節電を呼びかけることはないし、現時点では特別に節電を呼びかけることはない、とはっきりと否定しています。しかし、昨夜の段階では、関西電力のウェブサイトは、アクセスの過集中のためかダウンし、確認がとれませんでした。Twitter上では繰り返し「関西地域の人に節電を求める」という投稿され、その中には「関西電力で働く友人がこういってました」「電力関係の仕事をする父がああいっています」という形で「これは真である」「偽である」という発言が散見されました。とてもその渦の中では真偽判断できそうにありませんでした。
 ただ、「(1)関西電力から節電の正式な呼びかけはない(2)いま問題になっているのは、東西周波数の変換できる容量が限られていること(3)現在は予備電力を送電している(4)とりあえず今日の輪番停電は避けられた」というような情報は得られたので、おそらくデマであろうと判断しました。MLで「私はこれはデマである可能性が高いと思います。デマが起きやすい状況ですので、落ち着いて判断してください」という意味のメールを投げました。
 結果的には、私の判断は間違っていなかったようですが、善意での呼びかけに水を差し、邪魔することになるのではないかと、ひやひやしました。これだけ大規模なチェーンメールが起きると、その中で「これは偽です」というのは緊張します。今日の関西電力の発表を見るまでは、やはり確信があったわけではありません。ただし、もし私の判断が間違っている場合でも、大きな損害はないた上での発信でした。

3 平時の人へ情報を発信する

 もちろん、1の考えで「情報を発信しない」ことにするのも一つの選択だと思います。また2のように、流れている情報の真偽判断をし、交通整理をすることも一つの情報発信のやり方でしょう。しかし、私の性分からもう少し何かは言いたくなります。では、誰に何を発信するのか。
 まず、被災者に向けて発信するのは無理だと思いました。もちろん、励ましは被災者を勇気づけるかもしれません。しかし、たとえば、津波の被害にあった直後にあった人たち、原発事故の行方を固唾を呑んで見守る人たちに、私は何を言えばいいのか分かりません。
 また、緊急事態の知恵(地震後に行うと良いことや、止血の仕方など)が役立つような、実際に危機的な場面では、ケータイで検索したりTwitterを見たりする人は少ないでしょう。(見れる状況にもたいていないでしょう)そうした知恵は、平時にお互いに交換しておくと、緊急事態で役に立つように思います。今回の震災での東京のように、ある程度情報を得ることができ、社会的な活動が可能な場合には、知恵のやりとりも有用かもしれませんが、限定的でしょう。
 そして、webの情報を閲覧している多くの人たちは、被災者ではありません。平時にありながら、震災の情報にふれ、何か考え行動したいと思っている人たちです。そうした人たちに向けて、言うことは何かを考えて、情報を発信することはできそうです。
 もちろん、現地に居るわけではありませんから、個別的に「今こうすればいいよ!」ということはいえませんが、普遍的に「災害後の対策」としてこれまで積み上げられた議論を紐解くことは一つでしょう。一度災害が起きると、そのあと終わらない「災害後」が続きます。直接に被災しなかった人たちが、その災害にどう向き合うのかは、問われ続けます。その視座に立って情報を発信するのは一案でしょう。まだるっこしく、役に立ちそうにない情報*5でしょうが、発信していけないわけではありません。

4 情報は広がらなくてもよい

 Twitterの投稿には140文字以内という制限があります。こうしたコンパクトな情報発信は、読んですぐに理解でき、緊急事態でも頭に入りやすいでしょうし、拡散しやすいでしょう。しかし、上で述べてきたように、私はそうした役に立ちそうな情報発信はできないと思っています。そこで、短く書く必要はありませんし、情報が広がる必要もありません。
 現在のweb上のコミュニケーションツールは、ブログでなくTwitterです。ですので、もしかすると私もTwitterに書いたほうが、もっと書いてあるものを読んでもらえるかもしれません。しかし、私は長く書くのが好きだし、そのほうが考えも整理されるように感じます。長い文章を書くためには、一つの物事にも自分の視点を持たなければなりません。自分が発信しようとする情報が何であり、どのように自分が捉えているのかをはっきりさせることになります。このプロセスで、自分の立場性や、持っている能力の限界なども明らかになります。
 また、私の感覚では140字はあまりにも短く、相手に自分の考えを伝えるには不十分です。もちろん、短歌や俳句のように、言葉を凝縮させて、短い語句で表現する手段もあるでしょう。しかし、Twitterで、震災の情報がとにかく同じ文章が繰り返し投稿される中で、そうした表現をすることは難しいと思います。
 こうした理由で、私はTwitterより、ブログのほうが扱いやすいと感じます。もちろん、私のブログ記事をTwitterからリンクしてくださる方には感謝しています。Twitterと長文記事を書く媒体がうまく連携がとれることが、ベストでしょう。しかし、たとえ情報が広がらなくてもかまわないとは、思っています。

5私は冷静でない、ということを確認する

 上のように書いたものを読んで、もしかすると、私がとても冷静だと感じる人もいるかもしれません。しかし、私はまったく冷静ではありません。
 私は神戸で育ち、1995年も12歳で阪神淡路大震災を経験しました。直接の被害は軽微でしたが、24時間災害情報が流れ、身近な親や教師といった大人たちが疲弊しいらいらしているさまを目の当たりするという経験をしました。毎日の報道で犠牲者の数が報道され、数字でしか捉えられない大量の死に直面しましたし、街中の人が大事な人を喪っているにもかかわらず、仕事をし生活を保とうと努力しなければならない状況にいました。あれは異様な経験だったと振り返ることができるようになったのは、この数年です。直接の被災でなくても、心の傷になるということは、頭では理解できても、いまだに私には受け入れがたいことです。なぜなら、<本当の被災者>つまり、死んでしまったり、大切な人を亡くしたりした極限的な人たちに比べ、自分などはとてもトラウマがあるとはいえないという感覚を持っています。これは、心理学ではサバイバーギルトと呼ばれています。
 今回は、私はまずテレビを地震が起きた後の24時間はつけることができませんでした。そして、つけたあと、数時間ぼんやり見続けました。避難所で家族を探す人のインタビューを聞くと、明らかに目の前の光景ではなく、過去の光景と結びついて涙が流れます。また、テレビを消し、外に出て自転車で走っていても、急に泣けてきます。神戸の同年代の友人たちは、一様に似た経験をしています。報道で取り乱したり、安全な日常を暮らすことに罪悪感をもったり、非現実感をもったりしています。もちろん、こうした反応は異常なものではなく、あの震災を経験していればある程度起きることでしょう。(というふうに、みな対処しています)
 被災地から離れていても、こうした過去の経験が引き金になったり、報道の映像でショックをうけることで、冷静さを失うことはよくあります。また、冷静な状態と、取り乱した状態が入り乱れることもあります。
 大事なのは「私は冷静である」という過信をしないことです。そして、しんどさを紛らわせることは、悪いことではありません。関係ない娯楽は、子どもだけではなく大人だって楽しめばいいと思います。募金で気がまぎれるなら、それでよいと思います。またweb上では、被災者でない人のしんどさや、苦痛の呟きを、無駄や邪魔だと言う人もいるようです。しかし、webを「いま楽しい」「いま悲しい」ということを、気ままに言える場として使ってきた人もいるはずです。それを自粛する必要はないでしょう。冷静に、人の役に立つ人であることは、よいことだけど、そういられないことがあるのも、当たり前のことです。「いま、私が苦しんでいる」ということは、役に立つ情報ではないかもしれないですが、別に発信してもよいのです。

6 犠牲者化による連帯に注意する

 西欧の報道を通して、「震災に対する日本人の落ち着いた行動」を賛美する声が高まっているようです。「日本人であることに誇りを持とう」というweb上の発言もあります。
 しかし、今回の震災で被害を受けたのは「日本人」だけではありません。外国籍の人も多く被災しています。また自分のルーツから、「日本人」とみなされることに苦痛を感じる人もいます。そうした人々が落ち着いた行動をとらなかったわけではありません。こうした災害では、「日本人」ではないというマイノリティにとって、より過酷な状況を招くことがよくあります。平時の差別構造が、災害時では強化されやすいからです。
 「被害を受けた日本人」というアイデンティティを持つことにより、連帯感を持とうと呼びかける情報発信には、私は与しないようにしています。災害後の助け合いのための連帯を求めるときに、「日の丸」を使う必要は、本当にあるのでしょうか?マジョリティである「日本人」が、マイノリティを排除しやすいことには注意が必要です。
 災害は「日本人」を選んでふりかかってきたのではありません。北関東から東北にかけて、日本の領土とされている土地に住む人々にふりかかってきました。”いま安全なところいる「私たち」”が、”「日本人」でない被災者”を排除して連帯しようとしていなか?という疑念は強調しておきたいです。

 

*1:ワンクリックで、情報を知り合いに拡散することができる

*2:私自身、今回、何度も震災関連のツイートをRTしています

*3:なぜ、モデルを作っているかというと、私は日常的に性暴力に関する話題に接することが多く、いつも情報の扱いに苦慮しているからです。うまく情報が扱えないことで、反省することが多く、難しいのですが……

*4:http://www.kepco.co.jp/

*5:まさにこの記事ですね