明石書店の労使紛争について(追記あり)

 知人から、メールでお知らせいただきました。明石書店は「弱者救済・人権啓発」を理念に掲げている出版社です。これまで、社会運動や政治問題を扱ったり、ジェンダーや障害の問題に切り込むような本をたくさん出版してきています。

明石書店
http://www.akashi.co.jp/home.htm

決して派手な本を大量に刷るような会社ではありません。しかし、社会問題を関心を持っている人ならば、一度や二度はこの出版社の本を手に取ったことがあるのではないでしょうか。たとえばこんな本を出版しています。

ナショナリズムの狭間から

ナショナリズムの狭間から

身体とアイデンティティ・トラブル

身体とアイデンティティ・トラブル

また、とりわけ近年は労働問題や貧困問題に焦点を当てた本も出版しています。
反貧困の学校

反貧困の学校


 このように左派的な色合いの強い印象を受ける出版社ですが、2008年まで創業以来30年間、明石書店労働組合はありませんでした。労組結成のきっかけは、同年3月に契約社員2人が雇い止めにあったことです。1人は7年、1人は5年の勤務経験があったにも関わらず、「身に覚えのない言いがかり」をつけられて契約を打ち切られました。*1同僚の雇い止めにを目の前に、なすすべもないという悔しさをわい、有志による抗議活動を始めました。それが、8月の労働組合結成につながっていきます。
 2008年当時、非正規雇用で働く社員(契約社員)は、50人中の約半数を占めていました。2000年代の出版不況の中、社長の石井さんは不動産取引などから経営を拡大し、20人程度だった社員を50人程度までに増やします。しかし、その間の5〜6年間に、退職者は70人以上にわたります。非常に不安定な雇用が常態化していたのです。そこで、労働組合は二つの要求をします。
(1)正社員登用のシステムをつくって正社員登用をはかること
(2)労基法違反の現状(残業代の未払い、年次有給休暇の非明示・申請拒否など)の改善などを求めること
 会社側と労働組合の団体交渉が始まります。しかし、会社側は要求に応じず、議論は前に進みません。会社側の交渉員と結んだ協定書を、次の日に会社側が破棄したこともあります。さらに、会社側は組合員に、組合活動をやめさせるよう働きかけるようになります。組合員に対する恫喝や叱責や、嫌がらせととれる配置転換なども行われます。そして組合脱退を条件にして、正社員登用や雇い止め条項をはずした契約を持ちかけてきます。従わない組合員は雇い止めにあったり、通常では考えらない給与切り下げでの契約更新を迫られます。組合代表はあからさまなハラスメントにあいました。こうした組合つぶしで、23人いた組合員は翌年2月には8人になってしまいます。
 会社側と闘うために、組合側は「明石書店支部闘争委員会」を結成し、ほかの組合との連携をつないできました。集会やビラまきを行い、この問題をアピールしています。また、東京都労働委員会に、不当労働行為救済申し立てを行いました。4月には労働委員会から、「(雇い止めをしないよう)慎重に対処すること」を求める旨の三者委員連名の「勧告書」が出されています。しかし、会社側は改善に応じず、雇い止めを敢行。不当配転も行います。
 また、組合側は残業の問題に関して、就業規則において、労基法違反があることを労働基準監督署に申告しました。その結果、会社側は労働基準監督署から呼び出しを受けています。ですが、会社側は残業代未払い金額のうちの一部の支払いで、この問題を終わらせることを一方的に通告。本来交渉すべきである組合を排除した形での、決定を行いました。就業規則についても、労基法違反部分のみを改定しようと労働基準監督署に提出しています。(労基署側から「全面改定」する旨の指導を受け、改定作業に入ったまま現在に至っています)
 雇い止めに関しては、09年12月21日の地裁判決で、組合側が全面勝訴しています。裁判官は、原告の地位保証と判決までの給与の支払いと原告訴訟費用の負担を会社側に命じました。しかし、この後に及んでも、会社側は年内の団体交渉尾を拒もうとしています。また組合員に対して圧力をかける状況も変わっていません。組合員もさらに人数が減り、その中のメンバーも雇い止めを予告されています。継続的なハラスメントをおこない、組合員を自主退職に追い込むことで、労働組合の自然消滅を図っている部分もあるようです。不当労働行為救済申し立ては、10年1月に会社側の証人尋問が始まり、3月に結審、8月に命令が下される予定です。次々と司法上では勝訴していくのとは裏腹に、社内組合員はハラスメントにあい、社外組合員は職を失った状態で、非常に苦しい状況におかれています。
 より詳しい現況は、こちらをご覧ください。

明石書店労働組合
http://alu08.exblog.jp/
明石書店
http://www.akashi.co.jp/home.htm
明石書店の出版を考える著者の会
http://www.geocities.co.jp/akashi_authors/
明石書店の労使関係
http://www.geocities.co.jp/akashi_authors/roushi.html


 今回、知人からいただいたメールでは、組合員の「内部での闘いはかなり消耗するものだが、外の目や社会から上がる声に支えられてなんとか活動を続けている」というような切実な声が綴られていました。昨年7月には「著者の会」が結成され、明石書店に対する公開質問状が出され、会社側からも回答が出ています。

「公開質問状」
http://www.geocities.co.jp/akashi_authors/openletter.html

この問題を共有するべく、情報を広げて欲しいとの話でしたので、このブログでも紹介しました。
 なお、明日、都労委会社側反対尋問が東京の都庁で行われるようです。傍聴支援の呼びかけがありますので、こちらも紹介します。

都労委会社側反対尋問は、2月17日(水)13時から。ぜひ傍聴を!

昨年12月21日、Aさんの地位確認裁判で、皆様のご支援・ご声援により、この上ない勝利判決が出ました。会社側は控訴しましたが、今後も都労委を含め、2人の職場復帰と、雇い止め通知(2人)と不当配転(1人)の撤回を求め闘っていきます。
次回、都労委会社側反対尋問は、2月17日(水)13時から(都庁第1庁舎34階)です。会社側の悪質な組合つぶしの実態と論理の破綻を徹底的に明らかにします。どなたでも傍聴できます。ぜひご参加下さい。

*毎朝9時から、御徒町駅湯島駅等でビラ配りをしています。「がんばって」という励ましやカンパ、本当にありがとうございます。カンパは裁判闘争資金として大切に使わせていただきます。

追記

 その後、明石書店労働組合は勝利和解の報告をしています。

明石書店の労使紛争のその後」
http://d.hatena.ne.jp/font-da/20140410/1397137715

*1:その後、2人は東京ユニオンに加盟し、交渉。東京都労働委員会のあっせんで金銭解決しています