エリザベス・バック「ソーシャルワークと修復的正義」

ソーシャルワークと修復的正義

ソーシャルワークと修復的正義

  • 作者: エリザベスベック,ナンシー P クロフ,パメラブラムレオナルド,林浩康,大竹智,大原天青,小長井賀與,竹原幸太,中島和郎,村尾泰弘,山下英三郎
  • 出版社/メーカー: 明石書店
  • 発売日: 2012/11/02
  • メディア: 単行本
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 これまで日本では修復的司法(Restirative Justice)の研究書は法学に依ったものが多かったが、この本はソーシャルワーカーが修復的正義(Restorative Justice)を学ぶために書かれている。学校や児童福祉の現場での修復的司法の実践にもページが割かれている。そして、この本では日本で初めて英語圏フェミニズムの視点を持った修復的司法論文が掲載されている。
 第9章の「家族の権利におけるフェミニストの視点 女性への暴力を抑止する修復的実践」がそれにあたる。書いているのはMary P. KossとJohn Pennell。Kossは米国の臨床心理士で性暴力被害者支援に取り組んできた。その知見を活かして、修復的司法の性暴力事例への適応を実験的に行うRESTOREというプログラム(現在休止)を行ってきた。Pennellはカナダのソーシャルワーカーで、児童福祉の現場において修復的司法を積極的に取り入れてきた。
 論文の内容は、前半はソーシャルワークの歴史と現状の概観である。ソーシャルワークの実践の中で家庭内のDVや児童虐待の暴力では、「被害者・加害者の間で中立を保つ」ような支援を行うと、弱い立場にある被害者の救済にはならないことがわかってきた流れがある。そのため、両者を分離し、被害者の安全が第一義とされてきた。しかし、もともと親密な関係にある家庭内の暴力の被害者は単純な分離を望まないことも多い。また、被害者がエスニックマイノリティである場合、警察の矯正介入が、コミュニティを破壊するとして忌避されることもある。そのため、分離型支援の限界が指摘されてきたという経緯が、コンパクトにまとめられている。後半は、実践例が挙げられている。登場するのはアルコール依存で暴力をふるう父親と、精神的に不安定になった子育てが難しくなった母親だ。修復的司法の介入では、FGC(Family Group Conference)と呼ばれる会議を何度も行い、親族を交えて育児体制を整えて行く。その結果、父親はアルコール依存から立ち直り、母親も精神的に安定して、子どもの育児もうまくいったというエピソードである。
 短くまとまっていてとてもいい論文だと思ったが、これまで被害者支援や修復的司法になじみがない人には、少しわかりにくいかもしれない。福祉関係者にも修復的司法が広まって行くきっかけになるだろう。