ミニスカ論争
曽野綾子が産経新聞のコラムに書いた主張が話題になっている。曽野さんによれば、ヨーロッパ在住の日本人*1が、日本の学校制服のミニスカートに眉をひそめているという。そして曽野さんは、次のように書いている。
太ももの線丸出しの服を着て性犯罪に遭ったと言うのは、女性の側にも責任がある、と言うべきだろう。なぜならその服装は、結果を期待しているからだ。性犯罪は、男性の暴力によるものが断然多いが、「男女同責任だ」と言えるケースがあると認めるのも、本当の男女同権だ。
このコラムに対して、抗議をしている人*2もいる。怒りを表明している人*3もいれば、曽野さんのような世代の人間の心情を分析している人*4もいる。
曽野さんの文章は、主語があいまいで、何をいわんとしているのかがよくわからない。たぶん、フェミニズムをバッシングしたいのだろう。だが、もってまわった言い方をしているので意味がわからない。曽野さんは、女性がミニスカートをはくのは、男性をセックスに誘うためだと考えているのだろう。そして、そういう女性は性犯罪にあってもしかたがない、と訴えているのだろう。異論があるのならば、男女同権をとりやめて、女性は男性に隷属することで、庇護を得るべきだというのかもしれない。曽野さんの文章は、このように保守派が言いそうなことに照らし合わせて推測しなければ、意味の通らない文章である。保守派の隠語会話みたいなものである。
さて、女性がミニスカートを履くことには、どういう意味があるのだろうか。2001年〜2002年に、ミニスカートの記号的意味めぐる論争が起きている。以下に紹介する。*5
沼崎一郎「ミニスカートの文化記号学―<男力主義>による男性の差別化と抑圧― 」
http://www.kinokopress.com/civil/0406.htm
村瀬ひろみ「「性的身体」の現象学 「ミニスカ」からみる消費社会のセクシュアリティ構造」
http://www.kinokopress.com/civil/0501.htm
私自身は、意識や深層心理はともかくとして、少なくとも10代のうちにこうした論文にアクセスすることができた。それは、「<私>を見ている男性」を見る、ための視座を獲得できたということだ。私は「見られる」という女性の位置にありながら、その視線に抵抗したり、利用したりしようとする、女性の置かれた位置を俯瞰しようとしてきた。要するに、見られながら、見る主体を確立してきたのである。
この理由は、「ジェンダースタディーズの蓄積」という学問の恩恵を、インターネットいうメディアを通して受けとってきたことが、大きい。もちろん、メディアを論じる上では、メディアを利用する<私>の身体感覚の変化や、ジェンダー意識の変化を考えることは重要である。しかし、身体やジェンダーを論じている情報にアクセスしやすくなったことも、大きな意味を持つ。私がインターネットに触れ始めたのは、10代後半である。もっと年下の世代は、10代前半、いや10歳になる前から、インターネットに接している。
私たちは、なにもない真っ白な状態で、ものごとを「見る」ことはできいない。ミニスカートをはく人に対しても、すでに作られた枠組みを通して見ている。そして、その相手が見ているだろう視線を内面化して、「見られる私」を自分自身で構築する。そして、「その構築された枠組みがある」ことを知ったとき、ものの見方はまた変わる。
女性がミニスカートをはくことをやめる必要はない。仮に、男性がミニスカートをはく女性に対して欲情すると感じるとしよう。さらには、欲情すると、レイプという行動にでることも仮定しよう。だとすれば、男性が見方を変えればいいのである。前者は無理だとしても、後者は可能である。一世代では無理かもしれない。でも、時間をかけてでも変えていきたい。そして、すでに少しずつ変わっている、と私は信じたい。
現在、私は、ミニスカートをはくことによって、恋愛する相手を誘惑することはない。相手も、ミニスカートをはいていることが、誘惑のサインだとは思わない。それでいいのだ。私のフェティシズムは別のところにあるのだから。
文脈ははずれるが、スカートの話題で思い出したので、紹介しておく。
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追記:曽野さんの名前が間違っていたので、訂正しました。申し訳ありませんでした。
*1:それって誰なの?って感じだが。私の友人にもヨーロッパ在住の人はいるが、こんなこと言ってないで。
*2:http://d.hatena.ne.jp/manysided/20091129
*3:http://d.hatena.ne.jp/Francesco3/20091129/1259458069
*4:http://d.hatena.ne.jp/ohnosakiko/20091201/1259678004
*5:本当はもっといっぱい書きたかったけれど、明日から関東に旅行に行くのでここまでで。3年前に、似たようなことを別のIDで書いてたのを思い出したのではっときます。「見られたい身体」(http://d.hatena.ne.jp/strictk/20060223)考えてることもだいぶん変わりました。また書けたら。しかし、自分でいうのもなんだけど、3年のうちにちょっとは文章うまくなったんだなあー。読み返して、赤面した。