水俣病センター相思社の「鬼塚巌記録展」

 水俣病センター相思社が「鬼塚巌記録展」を開催するそうです。水俣で生まれ育った鬼塚さんは、チッソの工員として働き、労働組合にも参加していました。趣味の八ミリで、水俣病患者さんを撮影したフィルムは、全国の労働組合水俣病の状況を伝えるものとして回覧されました。その後、鬼塚さんは水俣の浜辺のカニや小さな生き物たちを記録し、自然との関係を見つめていきます。お知らせによれば、コロナ渦のなかで相思社の職員さんたちは資料整理をはじめ、鬼塚さんの貴重なフィルムもデジタル化したそうです! この展示会は鬼塚さんの作品を見る貴重な機会になります。また、映像イベントはオンラインでの配信があります。私もぜひ参加したいと思っています。

www.soshisha.org

 また、職員の小泉さんがこつこつ展示物のサビ取りをしているそうです。3/5に一緒にサビをとるイベントを行うそうです。水俣はなかなか遠いですが、一緒にサビを落としながら、水俣のお話をお聞きする良いチャンスだと思います。私も日本にいれば参加したかったです。

www.soshisha.org

 ところで、いま、水俣は柑橘の収穫の季節に入っています。相思社のサイト「のさり」から通販ができます。私は伊予柑を家族に送りました。また、もうすぐパール柑の季節が来ます。パール柑は香りが高く、本当に美味しいです。柑橘がお好きな方は、ぜひ定期的にチェックしてください。

nosari.cart.fc2.com

フィールドワークにおける性暴力・セクシュアルハラスメントに関する実態調査アンケート

 インターネット上で「フィールドワークにおける性暴力・セクシュアルハラスメントに関する実態調査アンケート」が実施されています。本調査は共同研究グループ「フィールドワークとハラスメント」によるもので、学生や研究者をはじめとした、国内外で現地調査をおこなう人すべてを対象にしています。英語での表記もあります。また、被害経験のない人の回答も集めたいとのことです。

 私はこの調査は非常に重要だと思いますし、私自身もすぐに回答しました。他方、こうした調査は無記名で回答するだけでも、つらい記憶を思い出すことになります。協力される方は、どうぞ、無理のない範囲で読み進めてください。

safefieldwork.live-on.net

ブコメを非表示にしました。

 このブログのはてなブックマークを非表示にしました。私自身のブックマークもプライベートモードに移し、見れないようになっています。実質的にはブックマークの使用をやめました。ブログは続けるつもりです。

 私は、はてなダイアリ時代から自分の記事にブックマークをたくさんしていただいてきましたし、私自身も毎日のようにブコメを残したりしていました。ブクマのみでお目にかかる人も多く、やめてしまうのは寂しくはありますが、一区切りにします。ブクマは攻撃的なコメントや、誹謗中傷もあり、嫌な思いもしたのですが、私の場合は全部を振り返るとマイナスよりプラスのほうが多かったです。ブコメを通して、私が自分の態度を見直し、主張を修正するきっかけをたくさんいただきました。これまでありがとうございました。

 今後は、これまでの姿勢を変更し、一方的に文章を発信するブログにしたいと思います。このごろはスターをつけていただくことが増え、そちらは楽しみにしています。いつもありがとうございます。

 直接のきっかけは、例の「オープンレター」です。はてなもやはり、その話題で持ちきりのようですし、見るたびに精神状態が悪くなるので距離を置こうと思いました。また、今も私が書いた記事に反応がありますし、揶揄的なコメントがつけられたりすることもありました。誰を責めたいわけでもなく、コップに注がれていった水が溜まりに溜まって溢れてしまったように、「やめよう」と思ったに至ります。これまで何度も炎上してきた私が、なぜ、この件に関してだけひどく落ち込むのかは、大学外の方にはわかりにくいと思います。とにかく、私にとってこの件は受け止めきれない出来事でした。女性が研究者として日本のアカデミアで生きていくことの困難を突きつけられたからです。

 また、これまで個人的に関わったセクハラの問題でも、同じようなことを目にしてきたことがあります。みな、最初は被害者に同情的ですが、だんだんと被害者の行動を咎め始め、そのうち「加害者こそが〈本当の被害者〉なのだ」と言う人が現れます。最初は両手をあげて被害者を支持すると言っていた人たちが、次々と沈む船から逃げるネズミのごとく離脱していきます。「被害者に寄り添う」というのは美しい言葉ですが、最後までそれを完遂する人はほとんどいません。いつも同じことが起きます。みんな、「声をあげてほしい」と被害者に言うのに、いざ、自分に火の粉がかかるとわかれば手のひらを返すのです。わかっていても、それを目にするのはしんどいことです。

 このブログを見ている方の中には、この問題に心を痛める研究者もいると思います。もし、あなたに余力があれば、あなたの学生や知り合いに(この件には触れなくていいので)なにかのかたちで「自分は性差別を看過しないし、加害を正当化しない」と伝えてくださると嬉しいです。私は今、ベルギーにいて、幸い、「日常的に反性差別の態度を表明している人たち」と研究をしています。そのことが、一番私の支えになっています。

 同時に、私の研究はどうしようもなく、日本語と日本の(各地域の)文化と紐づけられています。私は日本で生まれ育ち、思考し、もう中年になってしまいました。それらの基盤は、欧州で研究を進める上でも重要なものです。今後も研究を続けていくならば、私は日本のアカデミアと自分を切り離すことはできないでしょう。

 昨日、27年目の1.17をベルギーで迎えました。そのとき、私の胸に到来したのは、「私はそれでも神戸の地面は好きだな」ということでした。ベルギーには地震はありません。なので、ここの地面は私たちをしっかりと支え、揺らすことはありません。でも、私は神戸の地震を起こした地面より、ベルギーの地面の方がいいかというと、そうとは思いませんでした。神戸には有馬温泉もありますしね。そんなふうに思ったのは、別のオンラインのイベントで、ある人から、津波で家族を亡くしたかたが海を見て、「海を悪くないよね、海は悪くない」と自分に言い聞かせるようにおっしゃったという話を聞いたからかもしれません。その言葉の重みと、自分の思ったことが同じだというつもりはないですが。

 最近は、台湾の作家の呉明益の作品を愛読しています。「複眼人」は人間の環境破壊が主題になっていますが、作中で何度も地震が起きる話でもあります。

 

新刊のデザインが出ました。

 筑摩書房の柴山さんが、私の本の装丁をTwitterで公開しています。

 

 白と赤のインパクトのある装丁で、初めてみた時は「おおっ」となりました。本屋さんで目立ちそうです。

f:id:font-da:20220111012833j:plain

 まだ、通販サイトでも書影は出ていないのですが、以下から予約はできます。友人たちが「予約したよ!」と連絡をくれて嬉しかったです。知り合いに自分の過去の話を読んでもらうのはちょっと恥ずかしくもありますが、とてもありがたいです。そして、前回の本よりずっと安いのでそれも喜ばれました。どうしても研究書は高くなってしまうのですが、今回は一般書ですし、たくさん刷ってもらうので安くなります。でも、そのぶん、たくさん売らなければならないのでは……? みなさん、よろしくお願いします*1

 Twitterではいろんな方が反応してくださっていて、ありがたいなあと思っています。そのなかのお一人が、本を出されていたので石田月美「ウツ婚!!」を読みました。

 石田さんは、メンタルヘルスの困難を抱えながら、精神医療や自助グループのたすけを借りて回復の道を探します。支援者は障害者手帳を進めますし、生活保護の利用も考えます。そのなかで「婚活をする」と決めて奮闘し、実際に結婚するに至ります。そのプロセスが軽妙な文体で語られています。

 石田さんのキャラクターや葛藤は私とはだいぶん違うところもありますが、支援者が理想とする回復の道を蹴っ飛ばして、自分が決めたけもの道を歩いてきたところは共通しているように思いました。石田さんが婚活を始めたのは27歳ですが、私が大学院に進学したのは28歳です。婚活と研究という違いはありますが、周りの心配はなんのそのでマイウェイを突っ走ったところと、なにかあれば当事者仲間にメールしまくるところにとても共感しました。地元が同じ人、という感じです。

 私は、同世代の生き延びた人たちが、次々と出てきているし、新しい言説が生まれていくといいなあと思っています。同時に、私たちが語れるようになった頃には、もう次の世代が本当は新しい文化を創り出しているのだろうとも想像します。いつも、「みんなに公開されるナラティブ」と「今起きていること」の間には距離があります。それこそが、トラウマというものの本質だとも思いますが。遠く離れた星が、私たちの目には美しく輝いて見えるけど、本当はもう今は爆発してなくなっているようなものです。

*1:もちろん買っていただければ嬉しいですが、いろんな事情がある方もいらっしゃると思いますので、地元の図書館に購入リクエストを出していただくのも大変ありがたいです。これは商業出版では禁句かもしれませんが、当事者に向けて書いた本でもあるので脚注で作者からこっそりとお伝えします。

新刊の予約始まりました。

 新刊の情報が出ました。1月31日発売予定です。Amazonからも予約できるようです。

 『当事者は嘘をつく』という、少しびっくりするようなタイトルになっています。自分の性暴力の被害体験について整理して、初めて他人に見せられる形で書きました*1。私にとっては、性暴力の経験を語ろうとすればするほど、言葉が遠ざかっていくような感覚があります。どうすれば、真実を語れるのかわからない、と思うような困難があります。それを、そのまま描き出そうと格闘した著作です。また、自助グループでの活動を通して性暴力被害者のアイデンティティを持ってから、修復的司法の研究者になるまでの、心理的葛藤も詳しく書いています。帯にはカウンセラーの信田さよ子さんにコメントをいただきました。

「私の話を信じてほしい」哲学研究者の著者は、傷を抱えて生きていくためにテキストと格闘する。自身の被害の経験を丸ごと描いた学術ノンフィクション。

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「私の話を信じてほしい」
哲学研究者が、自身の被害経験を丸ごと描く。

 

性被害ほど定型的に語られてきたものはない。かねがねそれでは足りない、届かないという思いを抱いてきた。本書には、当事者と研究者、嘘かほんとうかをめぐって幾層にも考え抜き、苦しみ格闘したプロセスが描かれている。これこそ私が待っていた一冊である。――信田さよ子

 

ジャック・デリダ、ジュディス・ハーマン、田中美津渡辺京二らのテキストを参照しつつ、新しい語りの型を差し出そうとする試み。

当事者は嘘をつく 小松原 織香(著/文) - 筑摩書房 | 版元ドットコム

  まだ、書影は出ていませんが、カバーデザインを見せていただきました。私はあんまりデザインを上手く語る言葉を持たないのですが「フォーマル・ドレスを着せてもらったなあ」というような気持ちでいます。こうしたインターネットの片隅の個人ブログで書いてきた身としては、なんだか改めて着飾った本を出すのは照れくさいところもあり、素敵な装丁にしていただいて誇らしくもあり……私も実物を手に取るのを楽しみにしているところです。

*1:はてなハイクのスタコメなどでカムアウトはしていましたし、そんなに隠すつもりもないので、長く私のブログを読んでる方にはバレバレのような気もしますが。

道頓堀のカニ料理店と修復的司法の試み

修復的司法の研究者のMLで教えてもらったニュースです。大阪・道頓堀のカニ料理のお店のオブジェを壊してしまった若者たちが、社長に陳謝。今は、お店を手伝ったり、新しいオブジェのデザインに協力したりしているそうです。若者たちは、コロナの影響で失業してつらい精神状態のなか、酒に酔ってオブジェを壊したとのこと。器物損壊は許されることではありませんが、その後の被害者・加害者交流の中で新しい関係が生まれてくるのは、まさに修復的司法が目指すところと重なると思います。

news.yahoo.co.jp

近況

 このごろのベルギーは毎日、曇天か雨か氷混じりの雪です。今日は霧です。冬はずっとこの調子だそうで、春がいまから待ち遠しいです。クリスマス休暇に入る人も多く、街はイルミネーションの飾り付けも増えました。ただ、今年はあちこちのクリスマスマーケットは中止になり、寂しいです。私の住んでいるルーヴェンも早々に中止が決まり、友人たちが残念がってくれました。

 ただ、ビザの延長の申請を大学から出してもらったので、順調にいれば来年もベルギーにいることになりそうです。来年はもう少し、コロナの状況が落ち着くことを願います!次々と変異株が出て、先の見通しがたちませんが、来年のクリスマスごろにはもっと気楽に暮らせるようになっていますように……

 楽しみがないぶん研究に打ち込むしかないので、仕事は進みました。ビザ延長についても、業績がしっかりあることと、積極的にチームの仕事に貢献していることで、大学内の研究科の審査はあっさりと通りました。私自身、4月にこちらにきてから、国際学会で3本の報告をしましたし、英語論文2本を新たに書いて投稿し、日本語論文ももうすぐ出版される見込みなので、いい調子だと思います。

 相変わらず英語には苦労していますが、さすがに10ヶ月目なので、こちらに来た直後よりはずいぶんとスムーズにコミュニケーションが取れるようになりました。そうすると、余計に欲が出てきて、自分に対してイライラすることも増えました。最初はその場をやり過ごせれば満足していましたが、今は自分の日本語での言語運用能力とのギャップで、「ああ、もっと話したいことがあるのに!」と叫びたくなります。しかしながら、研究を進めながら、生活を円滑にやろうと思うと英語学習に時間はそんなに割けず、もどかしい気持ちです。他方、研究のアイデアが面白く、アウトプットを増やして自分の力をアピールしていけば、英語が下手でも、短期滞在ならなんとかなるものだなあとは思っています。(それだけに、母語以外で博士号を取る人は心底尊敬します)

 本の出版は大詰めにさしかかっています。編集さんはもちろん、校閲さんやデザイナーさん、コメントをくださる方など、たくさんの方が協力くださるなかで本が出来上がっていくのは、感慨深いです。これから、出版社の営業さんや、取次の仕事の方、本屋の販売員さんなどのご協力もいただくことになります。(商業の)本はひとりの力では出せない、というのは聞いていましたが、実際に自分がそのプロセスに関わることで実感しています。自分が細々と同人誌を出していたので、商業出版社でプロが集まってきてコーディネートしてくださるのは「すごい!!」と素直に思います。それと同時に、同人誌即売会で印刷会社から届いた新刊のダン箱を開けて「できた……」と手に取って一人で感動する瞬間はなににも変えがたいですし、これからもずっと続けていきたいと改めて思っています。どちらの幸せも知ることができるのは、贅沢でありがたいことですね。