近況

 帰国が近づいてきました。こちらで仲良くなった人たちと別れを惜しむ日々です。なんとか、ベルギー滞在を延長できないか画策しましたが、とりあえずは「本帰国」が決まっています。職業柄、予算さえ取れればまた飛んでこようと思っています!

 渡航前は想像もしなかった生活でした。私は15年くらい前から、なんとか海外での研究を目指して画策してきたのですが、何度か経済面や進路の問題で失敗してしまい、がっくりしていました。語学の上達も遅くて劣等感も強かったです。なので、「今更、海外に行くなんて、遅すぎるのでは?」という気持ちがすごく強くて、「私はここで何を得て帰れるのだろうか」(しかもコロナ渦の真っ只中)という暗中模索の日々から始まりました。

 いま、思えば、周りにはめちゃくちゃ恵まれていて、すぐに友だちができたし、英語でのコミュニケーションもぼちぼちとできるようになってきたし、なんの心配もなかったんですけど! わけがわかってないので、目の前のことに全力投球しては空回ってたのが1年目でした*1。2年目に入ってやっと、スムーズに生活ができるようになったところで帰国になりました。なので、残念だという気持ちがすごくて「あれもこれもやりたかった」「もっとできたことあった」という想いが残っています。十分、やれるだけやったんだと思いますが……

 在外研究のスタート時はコロナ渦での渡航で、大学の事務員さんたちにはお骨折りいただくことになったし、周りの心配を振り切る形になってしまったんですが、本当に来てよかったです。

 さて、最近の仕事なのですが、英語論文が公開されます(電子版先行)。The International Journal of Restorative Justiceの、「アートと修復的正義」のついての特集号に掲載されます。私は水俣での朗読活動を取り上げました。過去の水俣病の記憶を引き継ぐ取り組みのなかで、将来世代へどうやって伝えるのかについて、現地の人たちが悩みながらやっている活動する様子を紹介しています。啓発や当事者の声の代弁に焦点を置かず、アートという媒体を用いて、当事者の声を第三者が共有する試みが持つ可能性を論じました。

www.elevenjournals.com

 この特集号はとても魅力的な論文が満載で、DV被害者がフラメンコを踊ることによって自己解放する試みや、ボードゲームを通した修復的正義の可能性、テロリズムの加害者・被害者の対話から生まれるアートなど、これまでに聞いたこともないトピックがたくさん紹介されています。私自身、これからアートについてもっと探究していきたいとも思っているのですが、修復的正義の研究者がこんな多彩で驚きに満ちた研究をしているのは心強いです。これから、まだまだ開花していく領域だと思います。

 Modern Timesさんでは、「千と千尋の神隠し」を取り上げて論じています。今回、しみじみ思ったのですが、私は働くのが好きなんですよね。もちろん、労働問題が山積しているし、私も非正規で働いているので理不尽だと思うこともたくさんあります。でも、非常勤講師の仕事にしろ、バイトでやっていた不動産の接客業にしろ、それ自体は「楽しいな」と思うこともありました。働かないで、お金がもらえるならそれに越したことはないですが。「頑張ってお金を稼ぐぞ!」という気持ちもいつもあります。(私がその才があるのかとか、実際に儲けられるかどうかは別にして)

www.moderntimes.tv

 それから、今年一番びっくりすることが、今日、起きました。感染症の専門家の岩田健太郎さんが拙著をツイッターで取り上げてくださっていました。

 もちろん、岩田さんの名前は拝見していますが、私と全く立場の違う方だと思っていました。一部の意見が全く相容れないことも間違いないでしょう。でも、その岩田さんが、自分の文章を読んで、重く受け止めてくださったことに、めちゃくちゃびっくりしました。「届いてしもうた」と、スマホを見ながらつぶやいてしまいました。私はとにかくこの本は「一所懸命書いた」ので、それを「一所懸命読んだ」と言ってもらえて、こういうこともあるんだな、と……。私はすぐ思い詰めて「もうダメだ」「どうせ伝わらない」と諦めがちですが、そういうのは良くないと反省しました。(そして、伝えてくださってありがとうございまし)

 これからも「頑張って書いていきたい」と素朴に思います。突き詰めて考え、言葉を選んで書いていけば、どこかの誰かが受け取ってくれると信じて、精進したいです。

*1:しかも、1年目は、冬の季節うつみたいなのになりかけたところに、ウクライナ戦争が勃発して、余計にわけのわからない精神状態に! でも、楽しいこともいっぱいあったし、英語の会話で自分を表現しきれないフラストレーションをぶつけるべく、論文書くのをめちゃくちゃ頑張りました。その頃、日本では著書が出版されたんだけど「あ、ありがとうございます!!」みたいな感じで現実感はなかったです。もったいなかったかも?!