近況

 環境破壊事例における修復的正義についてのハンドブックが、Palgrave社から出版されました。英語でも初めての環境修復的正義の論文集となっています。ご関心ある方は、お手にとっていただければ幸いです。なんとこの本の表紙の写真には、私も写っています。(オカッパの後ろ姿が私)なんと、表紙デビューしてしまいました……この写真は、アートを通した修復的正義の活動のもので、本書のChapter 16でBurnilda Pali他の「The Art of Repair: Bridging Artistic and Restorative Responses to Environmental Harm and Ecocide 」が事例として取り上げています。

 もちろん、論文集には私も寄稿しています。タイトルは「Exploring Environmental Restorative Philosophy for Victims: The Pollution and Life-World in Minamata, Japan」で、環境破壊の被害者が修復的正義に向かっていくための内発的な思想を、水俣地域を事例にして描き出しています。具体的に取り上げたのは、水俣における石牟礼道子、不知火会総合学術調査団、緒方正人、本願の会の活動です。ディスカッションでは、水俣から見えてくる修復的正義の哲学は「個人の内省ではなく相互交流の中で生まれてきた思想であること」と「非言語的な表現を含むこと」を論じています。

 私が水俣で哲学の研究をしようと思ったきっかけは、2016年に川本輝夫さんが「水俣には哲学が必要だ」とおっしゃっていたと知ったことなのですが、それから6年近く経ち、やっと1本目の「水俣の哲学」の論文を書けたという気持ちがあります。今後も哲学アプローチでの水俣研究を積み重ねていきたいと思っています。

 さて、「当事者は嘘をつく」についてのブログ記事を書いていただいています。

manaasami.hatenablog.com

執筆されているid:manaasami さんとは、昔、ウェブ上の掲示板で交流がありました。あさみさんは、「いつか愛せる DV・共依存からの回復」の著者でもあります。残念ながらこの本は絶版だそうですが、ブログ記事では続編にあたるDV・共依存についての手記を書いておられます。どれも読み応えのある記事ですので、ご関心のある方にはおすすめです。

 私の本は届くところには届いたので、本当にありがたいなあと思っています。本を出版後、マスメディアからの取材もありましたが、取材者には「話がわかりにくい」と言われたり、サクセスストーリーを語ることを求められたりすることもありました。何度も書いた通り、私の本は「お話」にすぎず、私の実際の人生はもっと複雑で一つの線にはならないぐちゃぐちゃしたものです。私はそういう生をそのまま受け止めたいと思っています。それができないのがマスメディアなのだとすれば、私は相容れないなあと心底思った数ヶ月でもありました。

 私の日々はコツコツと資料を読んで、コツコツと文字を埋めていくだけの地味なものですし、書くことが好きで今の仕事をしているので、これが続けられたらいいな、と思っています。