近況

 私が編集チームに入っていた、英語ジャーナルの特集企画「Green Criminological Dialogues: Voices from Asia(グリーン犯罪学の対話 アジアからの声)」がオンライン出版されました。

www.crimejusticejournal.com

Goyes, D. R., Komatsubara, O. ., Droz, L. ., & Wyatt, T. . (2022). Green Criminological Dialogues: Voices from Asia. International Journal for Crime, Justice and Social Democracy, 11(1). https://doi.org/10.5204/ijcjsd.2108

 私にとって、初めてのエディターの仕事でした。企画がスタートした時点では、私は英語の査読論文を書いたことがなかったので、何をすればいいのかさっぱりわからなかったのですが、エディターによる論文の修正依頼や評価の検討、企画の整合性を議論する打ち合わせを重ねて、最後の出版までこぎつけて、本当に良かったです。

 この企画のきっかけは、2019年の国際学会で、David D. Goyesさんの報告が面白かったので声をかけて、メールアドレスを交換したことです。その一週間後に、Davidさんから企画の提案があって、私は「いいね、面白そう」と安請け合いしたのでスタートしました。その後、まだ日本にいたLayna Drozさんも企画に誘って、チームに入ってもらいました。企画を通して東アジアのいろんな研究者と交流できたのは、Laynaさんのおかげでもあります。英語で、異なる文化背景の人と常に連絡をとり続けることになるので、私にとってはなかなか大変でもありましたが、楽しかったです。なんでもやってみるものですね。

 ベルギーは晴れの日が続き、すっかり春の気分です。このまま冬が終わってくれるといいなあと思っています。ついに滞在許可書も届いて、今年の年末までの滞在はほぼ確定しました。手続きが通常より遅れてヒヤヒヤしましたが、大学の人事課の担当者が親身になってくれて、行政の機関にレターを書いて早く許可書を出すようにプッシュしてくれたようです。ベルギーは滞在許可を得るのが難しくて有名なようで、苦労する人は多いとのことですが、私もそれを味わうことになりました。新規の申請でも延長だからマシかと思いましたが、やっぱり大変でした!

 ウクライナの紛争の状況はよくありません。原発が攻撃されたとのことで、私もベルギーの薬局で安定ヨウ素剤をもらってきました。住民カードがあれば無料でもらえます。40歳までなのですが、私はギリギリもらえました。加齢によって放射線に対する感受性は下がっていきます。万が一、なにかあったときに、私はともかく周りに若い人がいる可能性もあって、そういうときに咄嗟に渡すのにもいいかな、と思って、お守りがわりにもらってきました。そんなことは考えたくもないですが、どうしても原発の攻撃、その情報に触れると、福島原発の事故の記憶がよみがえりますし、その関連資料がざーっと脳内に再生されました。私自身は、原発事故について全く詳しくはないですが、それでも動揺はしました。

 紛争に対する、こちらの議論はここ1週間で冷静になってきたようにも思います。24日の攻撃開始直後に飛び交った言葉は、パニック状態でのものだと考えたほうがいいんだろうと今は考えています。それと同時に、「難民」をめぐる問題の難しさは浮かび上がってきています。以下の一連の、西ヨーロッパおよび米国の言説空間で、ある人が「白人」かそうでないかの線引きは、偶発的に決まるという指摘は考え込んでしまいました。

 東欧が「緩衝材」のレトリックとして使われてきたこと。ユーゴスラビア紛争において、バルカン半島の人々は「白い」とみなされなかったこと。ロシアもまた、白いとみなされず、プーチン大統領が「アジア」として表象されることの政治性。こういうことのなかで、この方は今必要なことは「白人」と「非白人」の扱いを対比するシンプルなモデルについて論争するよりも、「なぜウクライナはこの瞬間に白人として扱われるのか」と問うたほうがよいのではないか、と提起しています。

 先日、オーストリアのヴィーンにいる友人を訪ねたところで、私はもっと東側について学びたいと思っていたところで、この紛争が起きました。なので、上の指摘はとても深く受け止めています。そして、中東欧については、本当にこれまで知らずにきてしまって、そのことを残念に思うと同時に、「私はアジアですからな」というなんとも言えない気持ちになりました。それはともかく、中東欧の研究者の衣笠太郎さんが、情報を精査・集約してTwitterで出しておられるので参考にしています。

 こういう付け焼き刃の勉強で何かがわかるわけではないとはわかっていますが、少しでも努力するしかないだろうとも思っています。このタイミングでヨーロッパに居合わせたことは、なにかの巡り合わせなんでしょう。