山花郁夫議員による修復的司法再検討の提言

 衆議院山花郁夫議員(立憲民主党)が、国会で修復的司法を再検討する提言をしていたことを知った*1。犯罪被害者基本法を議論していた時代に触れながら、以下のように発言している*2

あの当時は被害者側の視点というのがあらゆる制度の中で欠けているところがあって、刑事訴訟の中でも限定的ですけれども被害者の方が参画できるようになったりとか、あと、法務委員会の所掌じゃないですけれども、犯給法、犯罪被害者給付金支給法等々、そういったものについても議論が盛んでした。また、法務委員会なんかですと修復的司法というのが、当時、司法制度改革とかの議論の中で修復的司法というのが非常に注目されまして、加害者の側と被害者とが向き合って、単に罰するというだけじゃなくて、加害した側にも、更生というか、相手と向き合ってという機会をつくっていくんだというようなことが非常に議論になった、そんな時期ではなかったかと思います。改めて、こうした少年法の世界でも修復的司法みたいな発想というのがもっと取り上げられていいのかなと個人的には思っております。

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 私が修復的司法について知ったのは2006年の『法律時報』の特集で、そこから勉強し始めたので、その頃の政治的な動向についてコミットメントできなかった*3。私が研究し始めた頃には、すでに日本における修復的司法の制度化は白紙に戻っており、全く見通しが立たなくなっていた。いまも、各国の研究者に日本における修復的司法導入の現状を聞かれることがあるが、「先は見えない」と答えざるを得ない。

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 ただ、そのなかで今も山花議員が修復的司法に言及されたことは、私にとっては良いニュースだった。山花議員の指摘の通り、当時は全く被害者支援がなされていない状況であり、それが修復的司法への強い反発を生んだ。また、推進する側も、加害者更生や社会復帰に焦点を当てることが多く、(私個人の感覚としても)被害者を中心にした取り組みとは言えなかったと思う*4。修復的司法の制度化にはあまりにもハードルが多かった。しかしながら、現在の国際的な修復的司法の潮流では被害者を中心とした実践の重要性は、前提として共有されつつある。被害者学(victimology)の立場からの修復的司法の研究も展開されている。

 他方、日本社会においても、時の流れとともに犯罪被害者への見方も変わり、被害者支援の必要性も理解され、(全く十分ではないが)補償金や相談制度もでき始めた。ここから、再び修復的司法を検討する余地はあり得ると私は思う。

 また、山花議員は、性犯罪の重罰化についても慎重な議論を展開している。一筋縄ではないかに話ではあるし、私も刑法の専門家であるので妥当性の有無は詳しくはわからないが、俯瞰的に問題を捉えようとする粘り強い文章に感銘を受けた。

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 私は性暴力の問題には深く入り込みすぎているところがあり、法改正についてはほぼ何も関与せず、背を向けてきたところがある。それは研究者としてあまり褒められた態度ではないが、なにひとつ議論に貢献できる気がしなかった。それだけに、山花議員が重罰化への疑問を丁寧に整理してこられたのを、大変尊敬する。

 私自身は、法改正ではなく修復的司法の導入を研究する側にまわった。現況でも、性暴力事例については日本で修復的司法を導入するのは困難だろう。あまりにも支援者が足りず、加害者の治療の制度化も進んでいない。しかしながら、ひとつのビジョンとして、「裁判だけが問題を解決するわけではない」「修復的司法というオルタナティブな選択肢がある」ことを示すことは重要だと今も思っている。それは、私たちが二者択一の隘路にはまったときに、もう一度顔を上げて周りを見渡し、広い視野から性暴力について検討するための、灯台のような役割を持っていると考えているからだ。

 私は今は、環境問題へと研究のフィールドを移しているが、もちろん性暴力の問題から関心が離れたことはない。そして、このような議員の発言を見ると、「諦めてはならない」と思う。

*1:次のツイートで知りました。有意義な情報発信に感謝します。https://twitter.com/donsarari/status/1417302797108744198

*2:議事録はこちら→

https://kokkai.ndl.go.jp/minutes/api/v1/detailPDF/img/120405206X01320210414

*3:とはいえ、その前には支援団体にいたので別経路から個人的に断片的な情報は得ていた。

*4:今回の山花議員の発言も、その方向でなされている