被害者支援者の抱える問題(人身取引の場合)

 先日行われたストーカー問題研究会*1で、久保田 薫「性暴力支援の現場から−人身取引被害者支援の現状と課題−」という報告がありました。
 久保田さんはフィリピンで人身取引被害者支援の活動にかかわった後、帰国して日本で活動を継続しています。今はレイプクライシスセンターTSUBOMIの運営に携わっています。近年、日本でも若年者が人身取引(性的搾取)の被害にあっていることが注目されています。女優を夢見ている若い女性が、モデル事務所で契約を結んだところ、望まないかたちでAV出演を承諾させられることもあります。また、虐待から逃れるために家出をした少女が、身を寄せた先の男性に援助交際をさせられて売り上げを横取りされることもあります。さらに、DV被害者パートナーに風俗で働くことを強要されることもあります。
 こうした「性的搾取の問題」は、「性暴力の問題」と「セックスワークの問題」の両者と隣接しており、非常に難しい問題となっています。性暴力被害者支援者の多くは、性的搾取の「何が被害であるのか」を理解が十分ではありません。他方、「被害であること」を強調すると、性的搾取ではなく自己選択で働くセックスワーカーに対する誤解を招きかねません。久保田さんは、この両者の状況を踏まえたうえで、人身取引の問題に取り組む数少ない支援者です。
 報告の中で、久保田さんから、人身取引の被害者支援の上で、支援者が抱える問題・課題の指摘がありました。以下の四点です。(久保田さんの発言を元にしていますが、文責はブログの管理人にあります)
(1)被害者支援の基本をおろそかにしない
 人身取引被害者は、相談員に対して自分の置かれている状況や、被害の内容をなかなか話しません。時間をかけて受け止めていく中で、初めて「今困っていること」を話してくれます。「諦めない」ことが肝心です。
 また、性暴力被害の支援者としてトレーニングを受けていても、人身取引の被害者にだけセカンドレイプをする支援者もいます。特別視せず、「被害者」として支援することが重要です。
(2)人身取引の「流行」を理解する
 人身取引の加害者は頭がよく、次々と新しい方法を使ってきます。10年前の人身取引についての知識では対応できません。高度に発達したインターネットやケータイの「写真・動画を使う技術」や「SNSなどの新しいコミュニティ」などが出てくれば、それに目を付けた人身取引が出てきます。支援者が「今の子の世界はわからない」というのでは支援ができません。今、何が流行っていて、加害者がそれをどう利用するのかについて目を配っていくことが必要です。
(3)性産業について学ぶ
 性産業には独自の文化があるので、それを学ばなければなりません。たとえば、風俗産業での用語です。被害者が「ケツもちが〜」「バンスが〜」と話したときに、「それってなんですか?」と聞き返していると、相手は「わかってないんだな」と相談をすることを諦めてしまいます。相談者の置かれた状況を理解するために、性産業について知識を得ていかなければなりません。
(4)支援者の価値観を押し付けない
 被害者の人生をコントロールしてはいけません。たとえば、「望まないセックスワークを強いられていた」という被害者が、回復して「自分の職業としてセックスワークを選ぶ」ことを決断することがあります。それを「支援が失敗した」と捉えてしまう支援者がいます。しかし、それは「支援者の持つ性産業に対する価値観の押し付け」であり、被害者の人生のコントロールになります。強制ではなく、自己選択としてセックスワークをえらぶ権利が、当人にはあります。
 以上の四点が、人身取引の問題に焦点を当てたときに出てくる、支援者の課題です。上記のように、久保田さんはセックスワーカーの権利を尊重しながら、人身取引の被害者の保護をする道を探っています。本来的に、人身取引被害者保護とセックスワーカーの権利獲得は対立しませんし、両立します。しかしながら、「人身取引の被害者」がいることも、「自己選択したセックスワーカー」がいることも事実です。難しい問題ではありますが、少しでも性暴力被害者の支援の現場が、人身取引についての理解を深め、良い支援が広がることを願っています。
 なお、久保田さんが運営にかかわっているレイプクライシスセンターTSUBOMIは東京で支援活動を行っています。性別や年齢を問いません。ですので、男性被害者・性のアイデンティティが一定でない人も相談できます。

レイプクライシスセンターTSUBOMI
http://crisis-center-tsubomi.com/

また、母体を持たずに、有志が性暴力被害者の支援を実現する想いで運営しています。だからこそ、柔軟な対応ができるのですが、財源の確保は大きな問題です。TSUBOMIの場合は、500円の寄付によるワンコインサポーターも募集しています。以下より寄付できます。

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名義 レイプクライシスセンターつぼみ
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大きな団体ではありませんが、地道に活動が続けばいいな、と思っています。