テレビドラマ「女はそれを許さない」

 何気なくネットでオンデマンド放送を見てから、すっかり「女はそれを許さない」に夢中になってしまった。(まだ二回しか放映されていない)

「女はそれを許さない」
http://www.tbs.co.jp/yurusanai2014/

 41歳の海老沢(寺島しのぶ)は強引な裏取引で勝訴をもぎ取るやり手の弁護士。しかし、男たちの悪巧みによって賄賂の濡れ衣をかけられて、弁護士資格を失ってしまう。31歳の岩崎(深田恭子)は弁護士資格を持っているのに、弁護中にその場から逃げ出してしまったという失態から、法廷に立てなくなる。二人のコンビは、次々と持ち込まれる女性依頼人からの案件にいっしょに取り組むことになる。
 第一回目は「マタニティハラスメント」がテーマで、表向きは女性上司と部下の間に起きた事例に見えた。しかし、海老沢と岩崎が探っていくと、構造的に管理職が仕組んだハラスメントに、女性上司が加担させられていることが明らかになる。二人の働きかけで、女性上司が告発を決意し、部下は復職と和解が可能になった。第二回目は「婚活詐欺」がテーマ、騙されて投資目的のマンション購入した女性が補償を求める。しかし、実際には恋愛を装って接近した詐欺師への怒りと悲しみが問題だと女性が気づき、他の被害者と共に刑事告訴を決意する。三十代、四十代の働いている女性が直面する問題を扱い、最後には女性が立ち上がるというストーリーになっている。
 海老沢は、セレブマンションに住み、タクシー通勤、高価な家具の購入するなど「お金持ちであること」に重きを置いている。最大限に依頼人に金銭的な補償があることを優先する。岩崎は、そんな海老沢に「それでいいのかなあ?」と首を傾げて、依頼人の気持ちに寄り添おうとする。彼女は以前は派遣で働きながら奨学金の返済に苦しんでいるが、「お金より気持ち」が大事だという感覚を強く持つ。この二人の対比は、世代の違いも反映させているようで面白い。 
 ドラマでは、二人の価値観は対立するというよりは、行きつ戻りつしている。岩崎はいつもウジウジと悩み、解決方法もろくに持っていないのだが、案件に対してははっきりと「私、絶対、許せません」と言う。その純粋な想いは、海老沢はわからないでもないようだ。だが、第二回では弁護士業務について、岩崎に対してこう言う。
「あなた、今まで何してきたの?賠償金は被害者の心の傷を癒すためにとるんじゃない。これからの生活を始めるための資金として引き出すのが、弁護士の仕事でしょう?」*1
この信念を語るセリフには説得力があった。海老沢は、依頼人の困難を知っているからこそ、金銭的補償にこだわるのだ。そして、それは弁護士として正しいあり方でもある。人の心理に立ち入るのは、弁護士の仕事ではない。それでも、岩崎は「依頼人の気持ち」にこだわり、海老沢は仕方なく裏で手を回すのである。
 私はこの手のドラマは最初から期待していなくて、被害者叱責(victim blame)にあたる場面が出たら、すぐにテレビを消そうと思っていた。ドラマでは、女性被害者の落ち度をあげつらったり、女性に女性を責めさせることで対立を煽ったりする演出が多い。そして、ドラマだけではなく現実の裁判でも、実際に弁護士から被害者が二次加害を受けることが頻発している。
 しかし、この「女はそれを許さない」は「マタニティハラスメント」や「婚活詐欺」といった繊細な問題を扱うのに、私の気づく範囲では極力、被害者叱責を避けている。岩崎はいつも女性の立場に寄り添い、被害者の声を丁寧に聞こうと努める。他方、海老沢のほうは依頼人に対しては共感的ではない。ときには被害者に無理に解決を迫ろうとする。しかし、気にしているのは「裁判には金がかかる」「婚活詐欺は立証できない」などという、お金の問題だけだ。出てくる女性はみんな失敗したり、恥ずかしい思いをしていたりするのだが、茶化されたり侮辱されたりすることはない。だから、観ていて穏やかな気持ちで受け止められる。
 第二回では、メインの婚活詐欺のほかに、小さなエピソードとして容姿をめぐる問題が出てきていた。婚活で、男性と女性がそれぞれ十年前の写真を出していて、お互いが「騙された!」と怒っているのだ。だが、岩崎は「もし結婚していて十年が経っていたら、こんな容姿だったかもしれない。お互いが変わっていくことを受け入れるのも結婚生活ではないか」と諭す。そのことで当人同士は納得して結婚してしまうという話だ。危うい話題なのだが真面目に正面から扱おうとしている。実はこの件については、撮影現場で具体的にお互いの容姿を罵倒するところは「人が気にするポイントっていろいろあるから」とカットしたらしい*2
 こうした気遣いの積み重ねで、ドラマは不思議な雰囲気を醸し出している。とにかく地味で、勢いもあるのかないのかわからない。戯画化された悪役(しかも竹中直人)の描写は笑ってしまう*3。社会派として問題を掘り下げていくようなドラマでもない。実際の案件はこんな風には進まないだろう。しかし、とにかく、誠実に一つずつ向き合っていった結果、「実際の法律の案件もこうなったらいいのに!」という製作者の想いが詰め込まれた話になっていったのかもしれない。視聴率はよくないようだが、地味なまま続いて欲しい。*4

*1:セリフはうろ覚え

*2:http://www.tbs.co.jp/yurusanai2014/report/11.html

*3:ちょっとこのドラマのノリは「ミナミの帝王」みたいだとも思う。

*4:私は事情があって第四回からはしばらく観れないので残念