JR西日本セクハラ事件、最高裁勝利に向けての集会

 先日、朝日放送の「テレメンタリー」というドキュメント番組で、「誰も聞いてくれない〜レイプ被害を告発した障がい者」が放送されました。

誰も聞いてくれない〜レイプ被害を告発した障がい者

兵庫県に住む森崎里美さん(37)は、両手両足に重い障害を抱えながら、2人の娘を育てるシングルマザー。
森崎さんは会社の上司から受けたレイプ被害を会社に告発したもの、会社は「事実なし」と認定。「なぜ、ありのままを話しているのに信じてもらえないのか」。
実名で被害を公表し、会社と上司を相手に裁判を続ける森崎さんの姿を通し、性暴力被害の実態、そして社会がこの問題にどう向き合うべきか、を問う。

制作:朝日放送
http://www.tv-asahi.co.jp/telementary/

番組紹介にあるように、原告はJR西日本に勤務する中で、上司から性暴力被害を受けました。上司は原告がアルコールで自由に動けない状況の中、無理やりホテルに連れ込み、レイプしました。原告は、茫然自失としてるところへ、上司が剃刀を持って自分に向かってきたのを見て、死の恐怖の中、抵抗を諦めたといいます。解放された後、原告は精神的なショックと、被害を受けた体の状態を見せることへの恥辱感から、事件直後に警察や病院に行くことができませんでした。また、原告は契約社員であり、契約更新前に「誰にも言うな」と口止めされたことにより、職を失う恐怖から繰り返されるセクハラに耐えなければなりませんでした。
 その後、契約更新され、雇用が保障されてから、会社にセクハラ被害を訴えたところ、上司のほうは合意の上での性行為であったと主張。その結果、会社は「被害は確認できなかった」として調査を終了、さらに原告の被害の訴えを受けて動いていた警察も、捜査を中止しました。原告は、セクハラと、その後のセクハラ調査における会社側の不適切な対応の責任を問い、民事訴訟を起こしました。しかし、一審は敗訴。高裁に上告して、二審を争いました。
 原告が選んだことは、実名と顔を出して支援を募ることです。自ら街角に立ち、性暴力被害を受けたことを語りました。この社会で、そうすることがどれほどのプレッシャーか。それでも、十分にマスコミでも報道されず、裁判所でも理解が得られないなかで、自分が声をあげることしか、状況を打開する手立てはないという原告の決断でした。結果は、原告の主張の一部が認められ、直接の加害者である上司に対して慰謝料の支払いが命じられました。しかし、勤務後に起きた事件だとして、会社側の使用者責任は退けられています。そして、上司からも会社からも、一度も謝罪はありません。さらに、原告のPTSDについても、認められませんでした。裁判の争点と、判決要旨は、原告を支援する会のブログで知ることができます。

「里美さんの裁判を支える会ニュース7号」
http://satomi-heart.cocolog-nifty.com/blog/2011/12/post-33fc.html

 裁判で、難しい点になっているのが、原告側が被害後に「一見、親密に見えるメール」を上司に送っていることです。そのため、判決では一度目の被害の後、恋愛関係が生まれているとして、性行為は合意の下であったと結論付けています。しかし、原告の側は、そうしたメールは、恋愛感情を抱いているために送ったのではなく、身を守るために送ったのだと主張しています。
 もしかすると、性暴力被害に詳しくない人は、原告が被害にあった後に、そのようなメールを送ることを奇異に思われるかもしれません。けれども、実際の性暴力被害では、被害者が一転して加害者に好意を寄せているように振舞うことは、よくあることです。被害者の側は、無我夢中で自分を守ろうとするし、ときには性暴力被害を、被害であったと認めることを避けようと、思いも寄らない行動に出ます。性暴力が、人の心を傷つける、ということはよく知られています。その影響はウツになったりパニックになったりという症状として出るだけではありません。対人関係も混乱するし、我に返れば「自分でもそんなことしなくてよかった」と思うような行動にも出ます。「これ以上、ひどい目にあいたくない」「殺されたくない」という一心で、第三者から見れば不合理な行動もしてしまうのです*1
 そのうえで、原告の場合は、事件に対処するうえで、障がい者として生きてきたという経緯が大きな困難をうみました。原告は、養護学校(特別支援学校)で、「障がい者の処世術として、障がい者は可愛がられないといけないと教え込まれていた」ことを述べました。上司は健常者であり、「健常者に同調し、ご機嫌をとることで、自分が生き延びていけるのだ」*2と教育の中で思い込まされてしまったことを、事件でも反復してしまったのだと、原告は言います。この事件の困難さは、性暴力被害者に対する社会の理解が足りないことに加えて、障害者が受けている教育の中での問題が知られていないことがあります。その意味でも、非常に厳しい裁判を強いられています。
 原告は、高裁の判決を受けて、最高裁での勝利を目指し、上告をすることを決断しています。上告審は大きな壁であり、受理されるために、この事件を広く社会に知らせ、注目を集めることが必要になりました。そこで、記者会見でも顔を出しているし、今回のドキュメンタリーにも出演しています。
 ドキュメンタリーの中で、原告はストレートに、裁判に対する憤りや悔しさをあらわにします。「こんなことされて、すぐに病院や警察にいけるか?みんな、いけるんか?」「逃られへん」という思いが、ぶつけられています。高裁の判決後、実名と顔を出して支援を求めることは「賭けやった」と語りました。でも、よかった、と。やれるだけ、声をあげて、訴えてよかった、と。二人の娘を持つ原告は、ある晩、姉を呼び出して、自分の被害と裁判のことを伝えます。そして「何があっても、おかあさんが、あんたらを守るから。堂々としとって」と言います。裁判することも、実名や顔を出すことも、テレビに出ることも、性暴力被害者にとっては大きな負担です。何を言われるかわからないし、家族にも不利益が起きるかもしれない。原告が考え抜いたうえで、決断したことが画面から伝わってきました。原告は次のようにブログに文章を寄せています。

私自身、手放しにこのドキュメンタリー番組を引き受けたのではありませんでした。
引き受けるにあたり、どこまで話すべきなのか?
どこまで私は話すことができるのか?(冷静で居られるのか?)

話し、伝えることが新たな苦痛を生むんではないか?
話すことで家族は辛い思いをするのではないか?

ホントに悩み、自問自答のくり返しで、内心は不安でいっぱいで、自分や家族を見る周りの目が変わってしまうんではないか?
そう思った日もありました。

でも私は、ちゃんと知って貰いたかった…。

常に「葛藤」と背中合わせで挑んだ番組でした。

しかし、ちゃんと生きてる姿勢を、我が子に見せなければ、ちゃんとした教育にはならない。
何もしないままで私は本当に幸せなのか?

子ども達は私を見て育つ…。

そう思った時、気が付きました。
これまでの自分の生き方に自信を持とう!!
勉強をするだけが、教育じゃない。
人として大切なことがあることを、教えなければならない。
それがこの子たちの未来に影響する!そう思い、あるがままを伝える道を選びました。
「ドキュメンタリー番組放送を終えて」
http://satomi-heart.cocolog-nifty.com/blog/2012/01/post-f62e.html

原告は、上のように語ったあとで、支援集会への参加を呼びかけています。なぜ、性暴力被害者が、ここまでがんばらなければいけないのか。追い詰められ、決断を下さなければならないのか。原告の強さを感じると同時に、そこまで強くならなければならない、この社会の問題の根深さを痛感します。原告は、自分のためではなく、社会を変えるために、子ども達の未来を変えるために闘うのだといいます。ドキュメンタリーでは、支援者が、原告がかわいそうだから支援するのではなく、社会の問題だから取り組むんだと語っていました。
 2月19日に神戸で支援集会があります。また、支援集会に参加できない方は、カンパでの支援をお願いしますとのことです。

声を力に。集会に何人来ていただくかというのが次の勝負です。ぜひ大勢ご参加下さい。ネットで支持くださっている皆さん。テレビではじめてみたという皆さん。ぜひ里美さんに会って下さい。集会が里美さんに会う絶好の機会です。

また、集会に何人来ていただいたかということが、最高裁の裁判にも、JR西日本にも大きな影響を与えます。大勢が参加したら無視できない力になります。ぜひ大勢で里美さんを支えてください。

ぜひ多くの方がご参加くださることをお待ちしています。
「声を力に」
http://satomi-heart.cocolog-nifty.com/blog/2012/01/post-faf1.html

2月19日(日曜日)
午後一時半会場 二時開始
神戸市男女共同参画センターあすてっぷKOBE

「集会に来られない方は支える会会員に」
http://satomi-heart.cocolog-nifty.com/blog/2012/01/post-bafb.html

*1:こういうことを説明すると、「あとから、言われるのは恐ろしい。どん恋愛でも、あとから暴力だったといわれるかもしれない」と言う人がいます。このケースであれば、まず、レイプをしなければよいです。判決文を読めばわかりますが、裁判でも上司が原告に性行為を強要したことは認められています

*2:http://satomi-heart.cocolog-nifty.com/blog/2011/01/21-1edb.html