【震災】パープルダイヤルの実施結果報告(震災後の状況も併せて)
昨日、2011年3月27日に行われた「性暴力禁止法をつくろうネットワーク 全国縦断京都シンポジウム」に参加しました。このシンポジウムは、性暴力の実情に合わない刑法の改正を求めるために、全国各地で継続的に開かれています
「性暴力禁止法をつくろうネットワークです!」
http://blog.goo.ne.jp/stopsv/e/cf6434c782fb3ae6ead286a9f5b35890
このシンポジウムで、近藤恵子さん*1がパープルダイヤル*2の実施結果を報告しました。その中では、やはり震災後の応答状況も語られています。パープルダイヤルの実施は27日までで、正式な報告もしかるべき媒体から出ると思いますが、メモを頼りに私が聞いてきた報告を記録しようと思います。
パープルダイヤルは2月8日からスタートし、3月27日まで24時間体制で実施されました。電話回線は女性相談30回線(夜間は10回線)、男性相談2回線、外国籍相談1回線、急性期相談(被害から1年未満の対応)2回線で、フル稼働すると42回線ありました。すべてフリーダイヤルでつながります。全国には42相談拠点が設けらて相談対応し、61拠点の付き添い支援対応が準備されました。電話線は1回線につき2名以上の相談員を配置し、すべての回線にスーパーバイザーがおかれています。
実施結果は、3月21日までのものですが、トラフィックレポートから、女性相談27890件、男性相談4990件、外国籍相談669件、急性期相談2597件です。これらは実際に回線がつながった数で、3月21日の応答率をみてみてると、女性相談54.1パーセント、男性相談85.6パーセント、外国籍相談86.7パーセント、急性期相談87.3パーセントとなっています。女性相談をみると、約半数はつながっておらず、実際ダイヤルされた件数は3ヶ月で27890件の倍くらい(5万件以上)はあるのではないかという見込みになります。膨大な件数です。
実際にかけられた相談内容については、やはり過去の被害経験についての語られる方が多かったようです。「誰にもいえなかった」「誰も理解してくれなかった」という人たちが、かけてきています。70代、80代の利用者も少なくなかったそうです。中には「50年胸にしまってきた」という被害経験者もいます。兄、実父、学校の教師、町内会のおじさん、こういった身近な人からの被害を、数十年が経過しても、昨日のことのように「いつ、どこで、どのように」といった詳細を克明に語られるそうです。結婚や子育てについて困難があったこと、それでも誰にもいえなかったことを、初めてパープルダイヤルで話し、何度も何時間も語っても、それでも話し足りなくてかけてこられる方もいたそうです。その人は、「必ずこのダイヤルを続けてください。私のこの声の後ろに、何万人もの女性たちがいる。それを伝えないと死に切れない。みんなに伝えてください。総理大臣にも言ってください」とおっしゃられるそうです。また、多くの利用者が「この電話はタダですよね?話した内容は漏れませんよね?何を言っても大丈夫ですよね?」と確認され、「これまでどれだけ困難な状況で黙って耐えてこられたのか」という性暴力被害者の厳しい状況がうかがえます。
また後遺症も深刻で、統合失調症や長い入退院歴をもたれるかたもいらっしゃいました。中には、薬を大量に服用し、酩酊状態でかけてこられる方もおり、スタッフから丁寧に聞き取りをして救出をしたケースもあるようです。近藤さんは「もしかすると、たくさん薬を飲まないと、この電話をかけることができなかったのかもしれない」と話しています。性暴力の被害経験について、内容を話すのはもちろん、その話題に触れるだけでも当事者にとっては大きな負担になります。ぎりぎりの精神状態で、それでも助けを求めてダイヤルされた方も多かったのではないでしょうか。こうした相談にのると、挿入の有無や抵抗用件といった、刑法上の性暴力に関する罪の軽重がいかに意味のないものかを、改めて思い知らされると近藤さんは述べています。
さらには緊急対応が必要なケースも少なくなかったようです。「明日、また中学校で彼氏から暴力をふるわれるかもしれない」という相談、「家を追い出されてネットカフェにいくお金もない」という相談、「200円しかないからフリーダイヤルだったらと思ってかけました」という相談もあったそうです。中には警察に付き添い支援で同行し、状況を明らかにすると、大きな犯罪の捜査につながっていったケースもあるといいます。
そして、3月11日、地震が起きました。東北関東拠点は、壊滅状態に一時期陥りました。建物は無事だったのですが、スタッフ自身が被災し、家や家族を喪ったものもいました。そこで、関西の拠点に電話が集中します。多くはPTSDを訴えるものでした。関東では、余震が続き停電が起きました。「あのときのことしか思い浮かばない」「日本は終わる。私は生きていられない」と泣きじゃくる電話がかかってきました。日常が壊れ、自分の安全が脅かされる感覚が、フラッシュバックしたのでしょう。また、福島からも一件の電話があり、わっと泣き出すだけでそのまま切れました。大変心配だが、どうしようもなかったといいます。
数日後、盛岡、新潟、仙台などの拠点から再開したという声が出ました。「なんとか建物にたどりついたから、相談を受けたい。当事者にこの電話を使って欲しい」と、スタッフ自身が厳しい状態にあるなか、被害者の救済に立ち上がりました。近藤さんは、、ダイヤルを受け相談にのることで、自らの傷からも回復しようとするスタッフのありように、胸が熱くなったといいます。27日の時点ですべての拠点は電話を受けている状態でした。
災害時性暴力対策本部は、作るような通達は出しましたが、まだ具体的にはできていない状況です。支援者が自力でネットワークをつなぎ始めているという現状です。このパープルダイヤルは27日で終了するのですが、近藤さんはなんとか存続させるべく、駆け回っているそうです。相談継続のためにフリーダイヤルを借りるとすると、1回線150万円程度かかります。もちろん国の事業として同じ規模で継続できるように手を尽くしています。同時に民間の企業や団体に寄付をお願いしてまわっており、もし国がやらないとしても、民間で4月からの再開をさせると近藤さんは語っていました。
上記の報告のように、間違いなくニーズがあり、十二分に機能している相談システムです。電話で話を聞くだけではなく、実際の付き添い支援をし、生活の再建にまで結びつくように働きかけます。かかる費用は少なくないかもしれませんが、必要です。行政の性暴力対策は、加害者の厳罰化や監視に注目が集まりがちですが、こうした支援スタッフにお金が出るよう、強く求めたいです。警察のまとめによれば、強姦・強制わいせつの年間認知件数は1500件以下です。しかし、訴え出れない被害者はあまりにも多いですし、かれらは支援につながることもできないでいます。とにかくこうした24時間窓口の存続がなされるよう願っています。
なお、このイベントでは、高里鈴代さんから、沖縄の米軍による性暴力についての報告もありました。後半では、各支援団体のアピールもありました。男性サバイバーの自助グループ「RANKA」*3からのアピールもあり、被害者は女性だけではないし、男性被害者は相談窓口が少ないため追い詰められているという声もありました。しかし、会の最後に、集会アピールを出すことになったのですが、女性被害者に限定した文に見えたので、私のほうから修正を提案しました。(修正することになりました)こうしたイベントはすばらしいものであると共に、少数派の中の少数派をさらに追い詰めてしまう場にもなるので、自戒をこめた注意として、書き添えておきます。
追記
コメント欄で、NPO法人参画プランニング・いわての佐々木恵子さんから、状況の報告をいただいています。こちらにも載せておきます。佐々木さん、お忙しい中、コメントありがとうございました。
当法人もパープルダイヤルの1回線を担当させて頂きまた。
11日の震災日から6日間活動停止の状態(停電、断水、通信不通、灯油・ガソリン供給ストップ、交通・物流ストップ)でしたが、活動拠点そのものに物理的被害はありませんでしたので再開できました。
近藤さんのご意見のとおり、相談ダイヤル継続には大賛成です。
このダイヤルの存在をアピールすることで、性暴力抑止のひとつの力になるでしょうし、不幸にも被害に合われた方は、訴える場があることで勇気づけられるでしょうし、なにより、性暴力根絶に向けて、社会への大きなアピールになると思います。
私どもは今、岩手県沿岸部の被災者への生活支援活動に追われていますが、性暴力防止活動については、今後ともできるところから、実行していく所存です。
力強いネットワークや人材がこれからの活動の力になります。
ご支援のほどよろしくお願いいたします。
*1:近藤さんは、DVシェルターのネットワークである「全国シェルターネット」代表、札幌を拠点に活動する「NPO法人 女のスペース・おん」代表です。
*2:以前紹介しました。http://d.hatena.ne.jp/font-da/20110209/1297263148