朔ユキ蔵「セルフ」

セルフ 1 (ビッグコミックス)

セルフ 1 (ビッグコミックス)

 26歳の陽一は今までオナニーを一度もしたことがない。さまざまな女性とセックスしているが、自分の性器は、女性の欲望の支配下に置かれ、奪われているように感じている。ある日、思い立った陽一は、「オナニーをしてみよう」と探究を始める。そしてオナニーでの射精で、「おれのペニスはおれのものだ」と感じるのだ。さらに、より深いオナニーの快楽を求めて、模索する。
 たぶん、このマンガの作者は女性なのだろうと思い、ネット上で調べてみると、やはりそうらしい。なぜなら、これは男女逆転すれば、一昔前のフェミがやってきたヴァギナワークショップでよく語られた言葉だからだ。また、女性であれば26歳でオナニーしたことのない女性もいそうだ。
 しかし、もしこれが女性の物語であれば、抑圧やトラウマをモチーフにした、シリアスで重い展開が求められたかもしれない。また、男性へのポルノ目的での描写を過激化し、不自然にまでに”淫乱さ”を強調した作品になったかもしれない。確かに、陽一には、少年期に年上の女性に誘惑されたトラウマティックなエピソードが挿話されている。だが、「少年期に通過すべきオナニーを再体験する」というかたちの物語になっているため、「大人なのに、そんなことするなんて!」という笑いを含んだ作品になっている。特に、登り棒での快感を求めて公園で奮闘する場面では、私も吹いた。
 1巻の最後では、陽一は、海岸の絶壁でオナニーし、射精する。その理由は、「ティッシュで精液をぬぐう自分から解放されたい」ことである。こうした描写は滑稽ではあるが、共感する人もいると思う。私も、映画「ショートバス*1で観た、夕陽の照らす藪でオナニーをしてみたいという幻想がある。もし無人島に漂着したら、まずやってみたいことの筆頭だ。*2
 はじめて、通販でアダルトグッズを買った時のよろこびや、情報を検索してドキドキするかんじを思い出した。オナニーって、どうしてこんなに楽しいのだろう、と思い起こさせてくれる漫画である。

*1:http://d.hatena.ne.jp/font-da/20070913

*2:でも、実際に無人島だったら、砂まみれになるかもしれない、などと妄想するのはけっこう難しい。