今年の10冊(マンガ)

 マンガのほうが多いのかよ、と言うのは置いといて。いくつかはコメントもあります。

駅から5分 2 (クイーンズコミックス)

駅から5分 2 (クイーンズコミックス)

超ベテランのくらもちふさこの新作。花染町に住む人々の生活を描く短編を、パッチワークのように縫い合わせて、オムニバスを編んでいる。高校生や主婦、落ちぶれた声優など、各エピソードごとに別の登場人物が主役を務める。一本一本の短編の完成度が高い上に、複雑な伏線が張り巡らされている。覚えきれないほどの登場人物がすれ違う様を、時間軸をいったりきたりさせながら描く。そのうちに、この作品は、登場人物の心情を追うようなストーリーマンガではなく、街という場を描こうとするマンガであることがわかってくる。
 この作品は、まるでGoogleストリートビューで、PCの液晶から街の風景を覗いているような気分にさせられる。ある登場人物が映し出されたショットと別の登場人物が映し出されたショットの間に何が起きたのかと、ぐるぐるカメラを動かしてみたいような気持ち駆られる。そして、読みすすめるうちに、私は不安に駆られた。エピソードが連なるほどに、細部に細部が重ねられる。一瞬のうちにある登場人物と別の登場人物に、別々の運命的ななできごとが起き、それが必然的に連関しているようだ。街全体が有機的につながり、一つのラインに沿って人々の人生が進んでいくように見える。すなわち、バックグラウンドになるようなひとつの物語(大きな物語)への収れんを読者に予感させる。
 くらもちさんが、この作品をどのように展開していくのか、まだまだわからない。(やっと2巻が発売されたところだ)実力は申し分ない作家が実験作を描くと、大傑作か駄作のどっちかになりがちなので、今後に期待。

ラウンダバウト 3 (クイーンズコミックス)

ラウンダバウト 3 (クイーンズコミックス)

過去記事:渡辺ペコ「ラウンダバウト」(2)
ちはやふる (3) (Be・Loveコミックス)

ちはやふる (3) (Be・Loveコミックス)

小学生のちはやは、かるたの魅力に取りつかれ、百人一首にのめりこむ。競技かるたのトップを目指すスポ根マンガである。現在は、ちはやが高校生になった物語が展開中である。
 実は、末次さんは数年前に盗作騒動で大変な話題になった。実際に謝罪もしており、しばらく作品を描けない状況があった。私は正直、復帰は難しいのではないかと思っていた。しかし、今回の末次さんが引っさげて帰ってきた作品は、たぶん大売れするだろう。
 古典的な少女マンガと同じく、才能あるちはやを、新と太一という二人の男性キャラクターが見守りつつ競い合う。ちはやは、たぐいまれな聴力を持っており、観戦者が札を抜く速さに驚嘆する場面が繰り返し描かれる。一方で、出てくる登場人物は、ひたすらにひたむきで情熱的だ。時には、競技に負けて才能のなさに落ち込んだり、努力の足りなさを恥じたりしながらも、まっすぐに汗をかきながら勝利を目指す。チーム戦では仲間との友情が強調される。これはジャンプさながらの少年マンガ的なモチーフだ。おそらく、少女マンガと少年マンガのどちらも取り入れようという思惑ではなく、作者がよいと思うものを組み合わせていったのだろう。その結果、少女マンガの情緒的な心理描写は少なく、少年マンガの毒はない。なので、特にどうと言えるような内容ではないが、読んでいて爽快だ。
 末次さんは子どもの正直さや真面目さというポジティブな性質を前景に押し出す。ここ10年ほど、マンガは人間のネガティブな性質を強調することが、暗黙のルールになっていた。特に少女マンガは心理学化がはなはだしく、トラウマ物語が多かった。その中で、こういうアクエリアスみたいなマンガは、逆に際立って新鮮に感じた。特に、子どもは読むとかるたをしたくなると思う。
3月のライオン 2 (ヤングアニマルコミックス)

3月のライオン 2 (ヤングアニマルコミックス)

チェーザレ 破壊の創造者(6) (KCデラックス)

チェーザレ 破壊の創造者(6) (KCデラックス)

私という猫 (Birz extra)

私という猫 (Birz extra)

過去記事:イシデ電「私という猫」
愛の時間 (Feelコミックス)

愛の時間 (Feelコミックス)

過去記事:やまじえびね「愛の時間」
結婚しなくていいですか。―すーちゃんの明日

結婚しなくていいですか。―すーちゃんの明日

電車で隣に座ってたお姉さんが、おもむろに本屋の袋から取り出して読み始めた。「だめだよ、それ、ほんとに泣けるから!」と心の中でつぶやいた。香山リカが「不覚にも号泣した」と帯にかいていた。私は香山さんのことは、決して好きではないが、同じ目にあって共感した。ほんと、不覚にも号泣としかいいようがない。泣くはずなかったんだけどな……
ママはテンパリスト 1 (愛蔵版コミックス)

ママはテンパリスト 1 (愛蔵版コミックス)

参考:紙屋研究所の「ママはテンパリスト」に触れた記事。産んだことなくても楽しめる育児マンガです。ごっちゃん好きだ。
聖☆おにいさん (2) (モーニングKC)

聖☆おにいさん (2) (モーニングKC)

ブッダとイエスの共同生活in東京。おもしろくないわけがない。細かい宗教ネタが多くて、知識があるほど笑ってしまう。イエスの「父が望んだので」というつぶやきで、腹筋が割れるくらい笑った。
 それでは、今年もよいお年を。