今年の十冊
読書量が少なく、あんまり紹介記事も書けなかった一年でした。
坂上香「ライファーズ 罪に向き合う」
- 作者: 坂上香
- 出版社/メーカー: みすず書房
- 発売日: 2012/08/21
- メディア: 単行本
- クリック: 1回
- この商品を含むブログ (4件) を見る
坂上香「ライファーズ 罪に向き合う」
http://d.hatena.ne.jp/font-da/20130531/1369980171
坂上さんの新作映画「トークバック 女たちのシアター」も、すでに仙台と東京で上映会が行われたとのこと。Webサイトでは制作ノートも公開されている。
「out of frame」
http://outofframe.org/
牧野雅子「刑事司法とジェンダー」
- 作者: 牧野雅子
- 出版社/メーカー: インパクト出版会
- 発売日: 2013/03/01
- メディア: 単行本
- この商品を含むブログを見る
今年のジェンダー系の研究者の中で、一番話題になった本かもしれない。過去の経験や知見を活かして、警察の内部事情に迫った面では、新しい視点を提供している。ただ、私は読んでいて、「加害者の内面はこの本ではほとんど踏み込めなかった」と思った。インタビューを通してなんとなく感じる、性暴力加害者の「とんちんかん」というような自己正当化の心理については、よくわからないままだった。こうした加害者の内面は、手紙や面会でのインタビューでは切り込むのに限界があり、長い時間をかけた加害者の回復(があるとするならば)の過程を追うことで明らかになるのだろうと思う。坂上香「ライファーズ 罪に向き合う」と併せて読むとよいかもしれないと思う。
木全 和巳「児童福祉施設で生活する“しょうがい”のある子どもたちと“性”教育支援実践の課題」
児童福祉施設で生活する“しょうがい”のある子どもたちと“性”教育支援実践の課題
- 作者: 木全和巳
- 出版社/メーカー: 福村出版
- 発売日: 2010/06/01
- メディア: 単行本
- この商品を含むブログを見る
とてもいいのは、「子どもたちを教育する前に、自分たちが性の問題に取り組まなければならない」と考え、教員同士のワークショップを行っている事例が紹介されていることだ。大人であっても、性に対して話すときには緊張することや、性的な傷つきを避けるための工夫が必要なことを、真正面から取り扱おうとしている。
今年ついに、東京都の七生養護学校事件の最高裁判決も出た。東京都教育委員会や東京都議会議員が、子どもたちへの性教育を中止させ教材を取り上げたことは、不当介入であったと裁判で認められたのだ。この本は、裁判の最中である2010年に刊行された本で、紹介しようと思いながら先延ばしになってしまっていたので、今回取り上げた。
松本大洋「Sunny」
- 作者: 松本大洋
- 出版社/メーカー: 小学館
- 発売日: 2011/08/30
- メディア: コミック
- 購入: 4人 クリック: 33回
- この商品を含むブログ (47件) を見る
松本大洋「Sunny」
http://d.hatena.ne.jp/font-da/20130821/1377096650
杉山春「ルポ虐待――大阪二児置き去り死事件」
- 作者: 杉山春
- 出版社/メーカー: 筑摩書房
- 発売日: 2013/09/04
- メディア: 単行本
- この商品を含むブログ (23件) を見る
杉山春「ルポ虐待――大阪二児置き去り死事件」
http://d.hatena.ne.jp/font-da/20130926/1380188306
宮地尚子「トラウマ」
- 作者: 宮地尚子
- 出版社/メーカー: 岩波書店
- 発売日: 2013/01/23
- メディア: 新書
- 購入: 3人 クリック: 14回
- この商品を含むブログ (15件) を見る
震災や大規模な事件・事故、犯罪被害などのあと、「心のケアが必要だ」と多くの人が言うようになりました。けれども「心のケアが必要だ」というとき、そこに主語はありません。「心のケア」とは、いったい誰が、何をすることなのでしょう。
メンタルヘルスの専門家が現地に赴き、カウンセリングをすることでしょうか?そうではないはずです。もし、「心のケア」という言葉が被災者・被害者の傷つきを癒す役割をメンタルヘルスの専門家に任せ、それ以外の人は「心のケア」に関わらずにすむための口実に使われるなら、それはとても怖いことです。
(酛〜醃ページ)
「心のケア」の究極は、相手に寄り添い、相手のペースに合わせて話に耳を傾けること、沈黙も尊重しながら、そばにいることです。専門家だからといって、なにか特別な秘密の技術があるわけでもありません。誰でもしようと思えばできることなのです。もちろんはじめは、心の傷を負った人にどう接すればいいのか、とまどうかもしれません。相手の思いがけない反応に、驚いたり腹が立ったりするかもしれません。どこまで突っ込んで話を聞けばいいのかわからないかもしれません。聞いてしまった自分の方がショックを受けて不安定になることもあるかもしれません。それでも、とまどいながらそばによりそい続けることには、計り知れない価値があることを忘れないでほしいと思います。
(醱〜ⅺページ)
こういう当たり前にみえるけれど、けっこう難しいことを、やさしい言葉できちんと書く専門家は貴重な存在だと思う。上の部分は、深いトラウマを負った人たちと関わってきた人のほうが心にしみるのではないだろうか。寄り添うのが一番大事だけれど、一番難しい。
内容は基本的なトラウマについての知識を、事例を交えながら学べるようになっている。宮地さんの考案した環状島モデルも紹介されている。
- 作者: 宮地尚子
- 出版社/メーカー: みすず書房
- 発売日: 2007/12/20
- メディア: 単行本
- 購入: 5人 クリック: 96回
- この商品を含むブログ (28件) を見る
日本のマンガについても少し触れておきたいと思います。とくに少女マンガ(少年マンガはあまり知らないので)の質の高さは特記すべきものがあり、トラウマやその回復についても、専門書よりよほど的確に描写されている作品が多いように思います。萩尾望都や吉田秋生、こうの史代、よしながふみなど、名前を挙げればきりがありませんが、トラウマを病理化せず、創造性につながる形で、読み手を(時には作り手である自分自身をも)回復や希望に導く空間がそこにはしっかりと確保されています。これには、二〇世紀後半、女性の社会進出がまだ限られていた時代に、才能を発揮できる数少ない場として少女マンガ界が存在していたという背景が大きいと思います。しかも若い書き手が、ほぼ同世代か少し下の女性たちに向けて作品を描き、それがビジネスとして成り立つというしくみができていたわけです。
(248〜249ページ)
このあとの、少女マンガ家の竹宮惠子とのやり取りに触れた、「闇をみつめる」という箇所が鮮烈なのだけれど、そこについてはさらりと書かれて終わってしまった。中途半端に引用すると誤解を生みそうなので、この部分は引用しない。
- 作者: 竹宮惠子
- 出版社/メーカー: 中央公論新社
- 発売日: 2002/07/01
- メディア: 文庫
- 購入: 2人 クリック: 61回
- この商品を含むブログ (56件) を見る
みわよしこ「生活保護リアル」
- 作者: みわよしこ
- 出版社/メーカー: 日本評論社
- 発売日: 2013/07/03
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
- この商品を含むブログ (13件) を見る
福祉関係者や、さまざまな支援関係者の中では、生活保護受給者の生活の厳しさや、そこから抜け出す困難さはよく知られている。科学・技術分野のライターであるみわさんは、生活保護を受給する数多くの友人に「何ができるのか」を考え、「世間」の無理解を変えようと考えた。そこで、あえて、予備取材を重ねたうえで福祉と遠いと思われるようなビジネス系の情報媒体へ記事企画を持ち込んだ。
当初、単発記事としての掲載が二〇一一年末に予定されていた「生活保護のリアル」は、紆余曲折を経て二〇一二年六月に連載での開始となった。その直前の二〇一二年四月から、お笑い芸人・河本準一氏の母親が生活保護を受給していたことをきっかけとして、いわゆる「生活保護バッシング」が激化していた。連載は偶然にも、生活保護問題への社会の関心の高まりの待っただ中でスタートすることになり、大きな反響を呼んだ。若干の誹謗中傷はあったが、予想される範囲のことであった。私は、非常に多数の読者からの真摯な反応に驚いた。「生活保護制度とは何か」「生活保護の当事者はどういう人なのか」「生活保護の周辺では誰がどのような立場で何をしているのか」といったことに関心をもう人々は、私が予想していたのよりもずっと多かったのだ。
(鄴ページ)
本の中では、服役経験のある人、公務員だった人、DVから逃げてきた人、精神障害のある人、働きたいけれどうまくいかない人など、当事者の実情が描かれている。そして、貧困と教育や支援について、どんなことが行われ、現場の人はどう思っているのかが明らかにされる。
生活保護については、当事者や支援者の立場から書いた本も出ている。
- 作者: 和久井みちる
- 出版社/メーカー: あけび書房
- 発売日: 2012/12/01
- メディア: 単行本
- 購入: 1人 クリック: 7回
- この商品を含むブログ (3件) を見る
- 作者: 藤田孝典
- 出版社/メーカー: 堀之内出版
- 発売日: 2013/02/10
- メディア: 単行本
- この商品を含むブログ (4件) を見る
「生活保護についての入門書」
http://d.hatena.ne.jp/font-da/20130515/1368602589
インターネットの連載でも、まさにいま失職して、生活保護の受給申請をすることになった女性が、体験記を綴っている。職がなく家賃が払えないことへの恐怖や、生活保護を申請することへの当事者としての抵抗感を丁寧に書いている。(連載中)
歯グキ露出狂「失職女子。」
http://mess-y.com/archives/category/column/shisshoku
吾妻ひでお「失踪日記2 アル中病棟」
- 作者: 吾妻ひでお
- 出版社/メーカー: イースト・プレス
- 発売日: 2013/10/06
- メディア: コミック
- この商品を含むブログ (165件) を見る
- 作者: 吾妻ひでお
- 出版社/メーカー: イースト・プレス
- 発売日: 2005/03/01
- メディア: コミック
- 購入: 28人 クリック: 293回
- この商品を含むブログ (1143件) を見る
吾妻さんが、若年のアルコール依存症者月乃光司と、アルコール依存症の人と結婚していた西原理恵子と対談した本も面白い。
- 作者: 西原理恵子,吾妻ひでお,月乃光司
- 出版社/メーカー: 徳間書店
- 発売日: 2013/03/15
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
- クリック: 6回
- この商品を含むブログ (24件) を見る
森岡正博+寺田にゃんこふ「まんが 哲学入門」
まんが 哲学入門――生きるって何だろう? (講談社現代新書)
- 作者: 森岡正博,寺田にゃんこふ
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2013/07/18
- メディア: 新書
- この商品を含むブログ (10件) を見る
森達也「オカルト」
- 作者: 森達也
- 出版社/メーカー: 角川書店(角川グループパブリッシング)
- 発売日: 2012/04/10
- メディア: 単行本
- 購入: 3人 クリック: 16回
- この商品を含むブログ (18件) を見る
私は不思議なことが起きても、それを素通りしてしまう鈍感なタイプである。人間の悪や欲の見たくない側面には関わりが濃いが、人知を超えたものには縁がないとしかいいようがない。そういう私は森さんの率直な物言いに共感し、いっしょに揺れながら読んだ。
間に合わなかった本
年末までに読めなかったので、また来年、ということで。
- 作者: 立岩真也
- 出版社/メーカー: 青土社
- 発売日: 2013/11/21
- メディア: 単行本
- この商品を含むブログ (7件) を見る
- 作者: 木谷明,山田隆司,嘉多山宗
- 出版社/メーカー: 岩波書店
- 発売日: 2013/11/28
- メディア: 単行本
- この商品を含むブログ (1件) を見る