「明治日本のギャグマスター 暁斎漫画展」

 「京都国際マンガミュージアム特別展 明治日本のギャグマスター 暁斎漫画展」に行ってきた。マンガミュージアムは初めて。混んでいるとの噂だったけれど、さすがに平日の夕方はガラガラだった。
 展示は、そんなに広くなり展覧室をぐるっとまわるかたち。錦絵や下絵など、戯画・漫画を集めている。作品数はそんなに多くないが、間近で暁斎のコマゴマした線をじっくり観れてよかった。
 私が気に入ったのは、江戸の人々の酒盛りを、骸骨に戯画化したシリーズ。骨になっても乱痴気騒ぎを繰り広げる、という風刺なのかもしれないが、動きの妙で、どうもおかし味があって、観ていて楽しい。じっと眺めると、たいして動物の顔はかわいらしいわけではないことに気づくが、ぱっと観た時には笑ってしまいそうになる。
 今回の展示は、暁斎を江戸後期から明治を生きた、近代化の流れの中で捉えようとしている。後半は、明治に入り、文明開化の途をたどる人々を、風刺した漫画が中心に展示されている。暁斎は、「自由民権運動」を嫌い、批判していた。そこには、スローガンの旗印の中、生活に革命を起こす指導者たちが、新政府の権力を握り、富を手にしていることへの鋭いまなざしがある。また、青年たちが「自由」を求めて、都会へ出て行くことで、農村の共同体が崩壊していくことへの批判もある。さらに、新しい学校や職業規範によって、規律化していく人々を、妖怪に戯画化し「猫も杓子も」の状況を風刺する。反政府的な政治運動にコミットしていた暁斎の一面にスポットライトがあてられている。
 しかし、指摘を付け加えるならば、解剖学に基づく暁斎の肉体デッサンこそが、西洋から持ち込まれ近代科学の影響を受けている。暁斎は、幼いころから人体に興味を持ち、生首を家に持ち帰り描いたという。江戸後期より、西洋医学流入し、解剖学が流行った。当時は、町医者が、処刑された罪人の死体を、蒸し焼きにして骨から肉をはずして、骸骨を作ったりしている。観念的に人間の体を陰陽や気の流れで捉えるのではなく、ありのままの肉体を物質的に分析する近代科学の視線は、江戸後期の絵師たちの肉体を捉える視線にも影響を波及させた。暁斎もその流れの中にいる。その点で、現代の視座からみると、まさに暁斎こそが、近代化の影響を受け、文明開化していく日本人なのである。
 付け加えると、今回の展示で流れていた資料用DVDでは、「暁斎ほど、西洋の画家に尊敬された絵師はいない」というようなナレーションがあった。また、鹿鳴館を設計したコルドンは、8年も暁斎に弟子入りしている。暁斎の死後も、ヨーロッパでは、ジャポニズムの中で、暁斎の作品はもてはやされた。
 おそらく、その近代化という問題の視座から、「没後120年記念 絵画の冒険者 暁斎 Kyosai−近代へ架ける橋− 」も、京都の国立博物館で開催されている。こちらは、大作が多いようなので併せてみるとよいようだ。後日、こちらも観に行って、補完する予定。*1
 関係ないけど、歌川国芳に弟子入りしていたのが、短期間だったことを、今回初めて知った。私は国芳が大好きなので、びっくり。なんと、暁斎の父親が、国芳の素行を問題視して、暁斎を引き上げさせたらしい。国芳ってダメな人だったんだなあ…。

*1:ただし、この展示に対しては、近代化の問題は、言及不足という指摘もある→http://d.hatena.ne.jp/morohiro_s/20080426/p1