正義漢ヅラをして、被害者を追い詰める人たち
偶然だが、下の性暴力救援センター大阪(SACHICO)の活動報告に関する記事*1を書いた直後に、産経新聞の今日付けの記事を読んだ。こちらもSACHICOの活動に触れているが、恣意的で被害者への二次加害の要素を含んだものである。タイトルからして、煽りが入っていてひどい。
強姦された中学生は妊娠7カ月だった…緊急避妊、証拠採取リミットは「72時間」(「産経ニュースWEST」2013年8月18日)
http://sankei.jp.msn.com/west/west_affairs/news/130818/waf13081807010000-n1.htm
どうしてこんな煽情的なタイトルをつけるのだろうか?
非常にセンシティブな内容で、性暴力被害にあった若い女性が妊娠してしまい、中絶の時期を逃してしまった例をSACHICOのスタッフが語っている。また、集団でのレイプ被害に遭い、警察に届けることができなかった女性が、30年以上苦しんでいる話も出ている。このつらい経験を、産経新聞の記事は警察への届け出への話につなげてしまう。被害者は「泣き寝入り」しているというのだ。そして、次の警察関係者の言葉を引用する。
府警幹部はいう。「加害者の唾液や体液の付いた衣服やシーツを袋にいれて保管してくれるだけでいい。被害者には辛く、酷なことだと分かっているが、加害者を罰せられるのは摘発しかない。そして、それが新たな被害者を生まないことにつながるということも理解してほしい」
いったい、何度、この「泣き寝入り」という言葉を当事者が批判してきたのだろうか。高橋りりすが本に書いたのが2001年で、もうすでに12年が経過している。
「専門家」は、「性暴力やセクハラ被害にあったら『泣き寝入り』しないで、『勇気を出して』訴えて下さい」ということをよく言う。まるで『泣き寝入りをすること』と『勇気を出すこと』が対極にあるような言い方である。しかし、被害を受けた当事者からすれば、被害後の日々を生きること自体が大変なことであり、『泣き寝入り』するにも『勇気』が要るという状況がある。そのことも認識されないまま、被害者は性暴力をなくすために世の中に貢献することを求められる。当事者の意思はそこでは蔑ろにされている。
高橋りりす「『サバイバー・フェミニズム』を書くにあたって」(http://lilitht.hp.infoseek.co.jp/b_01.html)
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下の記事でも述べたように*4、警察の介入には限界がある。まるで被害者が努力して警察に協力することが、性犯罪対策であるような記事は二次加害にも類する。性暴力被害者に必要なのは支援であって、勇気や努力ではない。そして、社会の側には、性暴力が許されないことや、女性には安全に中絶をする権利があることを、性教育によって伝えていく努力や勇気が必要だ。
追記
「ではどうしろと?」とブクマコメントで書く人がいるが、私は最後に性教育の必要性を書いている。自衛論について書いたときに、以下のように論じた。
「暴力は自衛可能か?」
http://d.hatena.ne.jp/font-da/20091208/1260272432
性教育については、やさしい日本語で書かれたよい教材も出ている。
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児童福祉施設で生活する“しょうがい”のある子どもたちと“性”教育支援実践の課題
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戎能民江「性暴力被害者支援法制の方向性――性暴力救援センターの現場から――」
http://d.hatena.ne.jp/font-da/20130818/1376820966
被害者に努力や勇気を求める前に、支援制度に予算や人材を割くことが重要である。
なお、悪意的な警察官を想定して上の批判を書いたと思う人もいるようだ。確かに、悪意的な警察官は実在し、二次加害を繰り返していることに私は怒っている。他方、警察も管轄によっては性犯罪の被害者への対応改善を真摯に行おうとしていることも知っている。私の今回の記事の批判の最大の矛先は、被害者の実情を綴った後、警察への協力を被害者に求める結論とつなげた、記事の執筆者に向かっている。一つ一つの事実を恣意的につなげて記事を(善意で)書くことで、結果的に被害者抑圧を行うという典型的な例だと思う。
*1:http://d.hatena.ne.jp/font-da/20130818/1376820966
*2:性暴力被害を生き延びた人のことを、サバイバーと呼ぶことがある
*3:高橋りりすの詩で繰り返されるフレーズ。引用した記事→http://d.hatena.ne.jp/font-da/20121231/1356939597