松本大洋「Sunny」

Sunny 第1集 (IKKI COMIX)

Sunny 第1集 (IKKI COMIX)

 松本大洋の最新作が出ていたので、深く考えずにとったら、児童養護施設を舞台にした子どもたちの話だった。舞台となる「星の子学園」は、スタッフの足立さんが中心となって運営しているホームだ。そこで暮らす子どもたちは、様々な事情を抱えている。「迎えにくる」と手紙に書きながら、いっこうに迎えにこない親を待つ静。母親が病気で、弟と面会を楽しみにしている純平。母親に会いたいが、会うと別れがつらくなるので、「会いたいけど、会いたくない」と言う春男。親を亡くし、「家の子」たちに混ざりたいめぐむ。そんなめぐむに、心の中で反発するきい子。
 そうした10歳の子どもたちにとっての秘密基地が、園内にある動かなくなった車「サニー」だ。古い車のハンドルを握り、空想の旅に出かける子どもたち。第一話では、親と離れなくてはならなくなった静が、空想の中で自分の家にサニーを運転して帰る。静のこのドライブの場面では、親に置いて行かれてしまった辛さや悲しさだけではなく、自由に車を乗り回す冒険の高揚感が描かれる。
 三巻で、スタッフの足立さんは「ここに来たくて、来る子はいません」と言う。だからこそ、何をしてやれるのか悩むのだと続ける。親を失ったり、親と離れたりして、暮らさなければならない子どもたちは、深い苦しみや寂しさ、ときには憤りを抱えている。その表情を松本さんは漫画の中で丁寧に描きながら、施設の生活のきらめくような幸せな一場面を織り交ぜる。言葉にしてネタバレしてしまうのがもったいないので、これ以上は書かないでおこうと思う。
 施設で暮らす子どもたちを深く掘り下げて描いた作品は、松本さんが自身の経験を下敷きにしているらしい。松本さんはインタビューで以下のように語っている。

──5年ぶりにIKKIで描く新連載「Sunny」は、親元で暮らせない子供を預ける施設「星の子学園」を舞台にした物語です。この作品の構想はいつごろから?

大洋 話の構想自体は、デビュー時から温めていて。実は、僕も同じような施設にいた経験があって、そのことをマンガにしてみたいとずっと思っていたんです。ただ、自分の中で当時の体験との折り合いが付いていなかったというか、大人の立場から見つめ直すことができなくて、子供の視点のみになってしまいそうで、描けなかった。

──それが、今なら描けそうと?

大洋 施設を出て30年ぐらい経つし、もういいだろって感じですかね。あと、いま43歳っていうのも結構重要で。自分の場合、50歳くらいになってから始めちゃうと、ノスタルジックな話を描いちゃう気がして。だから今なら描けるというより、今しか描けないかな、と。
(コミックナタリー[Power Push]松本大洋
http://natalie.mu/comic/pp/sunny/page/2

また、お涙ちょうだいにならないように苦心しており、「施設で暮らした経験がない人だったらもしかして可哀想に描くかもしれないけど、子供ってのは意外としたたかにやってるもんですよ」と語っている。現在、三巻まで刊行されているが、まだ続きが出るらしい。楽しみにしたい。

Sunny 2 (IKKI COMIX)

Sunny 2 (IKKI COMIX)

Sunny 3 (IKKI COMIX)

Sunny 3 (IKKI COMIX)

また、施設で育った子どもたちの当事者団体の本も出ているので、併せて紹介しておく。

施設で育った子どもたちの居場所 「日向ぼっこ」と社会的養護

施設で育った子どもたちの居場所 「日向ぼっこ」と社会的養護