25歳の加害者

 秋葉原連続殺傷事件の事件は、私はインターネットの速報や、新聞記事でしか知らない。だから、その概観すらつかめていない。ただ、私が衝撃を受けたのは、加害者が25歳であったことだ。おそらく私と同年生まれだ。
 初めて、この衝撃を受けたのは、1997年である。酒鬼薔薇事件の加害者は同年生まれだった。次にこの衝撃を受けたのは、2000年だ。西鉄バスジャック事件*1の加害者は同年生まれだった。そして、今回で、三度目である。
 これらの事件に共通しているのは、いわゆる「劇場型犯罪」にあてはまる点だ。社会に宣戦布告をし、注目を集めることを目的としている。もちろん、この三つの事件に関連性があるとは言えない。しかし、私は「コーホートであること」を毎回強く意識する。
 人を殺すことで、やっと周囲に気づいてもらえる。そうでなければ、自分は存在しないのも同然だ。この存在証明に対する飢餓感は、いったいなんなのだ。
 この事件のニュースを聞いたとき、最初に、私の頭に浮かんだのは「希望は戦争」という言葉だった。以前、赤木智弘の評論に対し、10歳近く離れているので、コーホートとはいえないかもしれないと書いた。赤木さんの同年代は、「殺す前に優しくなりたい」と、ああいった声をあげることができた。しかし、声を上げたとき、すでに殺しているのが、私の同年代なのかもしれない。
 もちろん、以上はなんの分析でもない。私の感覚である、私は、1997年の時点から、加害者と自分を同一視し*2、このような事件が起きるたびに「私も殺すのかもしれない」と思ってきた。そして、1997年にも2000年にも、それに共鳴するように模倣犯が続出した。私は、自分が「人殺しにならないですむ方法」を考えてきた。だから、過度に同年生まれであることに敏感である。
 おそらく、これから社会学者や精神科医が、さまざまな見解を述べるだろう。なにはともあれ、私は即刻出された東浩紀のコメントに賛同する。

今回の事件はまったく痛ましい事件であり、ぼくは犯人は断固厳罰に処すべきだと思います。その点に同情の余地はありません。しかし、その前提のうえで、この犯人が胸に秘めていた怖ろしいまでの怒りというか、復讐心や屈辱感みたいなものについては(もしそういうものがあったとすれば――現時点での情報で判断するかぎりぼくはあったと思うのですが)、単に犯人個人の異常性格として片付けるのではなく、そういう感情が存在することの意味を真剣に考えなければならない、という話をしてきました。
東浩紀「ニュースウォッチ9」『渦状言論』(http://www.hirokiazuma.com/archives/000415.html

その上で、同時に、このような注目の集め方は、間違っているし、他の選択肢があるということを、急いで提示しなければならない。つまりそれは、「私はあなたのことを見ている」というメッセージを、「誰にも見られていない」という孤独の中で生きている人に送ることである。「あなたは一人じゃない」という言葉を、いかに届けることができるのか。その方法を探ることだ。
 私は、さすがに、今回は「自分が殺すかもしれない」とは思わなかった。しかし、そう思える人生を私が歩んでいることは、必然だけではないだろう。

追記:
ブックマークコメントで以下を指摘いただきました。

toled  犯人と自分を同一視できる人が「断固厳罰に処すべき」っていうコメントになんで賛同できるんだろうか。「厳罰」って死刑のことでしょ?

世の中的には「厳罰=死刑」という感じなんでしょうか?
 私は、加害者を情状酌量して、免罪するつもりはない、という意味合いで「断固厳罰に処すべき」という部分にも賛同します。「厳罰=死刑」という認識を、暗黙の了解にするつもりはありません。もし、その暗黙の了解があるならば、それ自体を批判します。

追記その2:

 「女子リベ  安原宏美--編集者のブログ」さんが、著名人のこの事件に対するコメントをまとめてくださっています。その中に、衝撃のコメントが紹介されていました。

『ミスター文部省』こと文部省出身の寺脇研京都造形芸術大学教授は「この世代を『酒鬼薔薇世代』と一括りにするのはおかしい」が、「(教育行政が)学力一辺倒になっていたことに心の痛みがある」そうだ。

これより下の世代はいわゆる「ゆとり世代で、こいつら学力が低いとか言われてる」が、じつはミスター文部省が導入した学校5日制や、生活体験、自然体験などのおかげで心が豊かにできてるらしい。「もうちょっと早くやってれば、と悔いがある」

スーパーモーニング 秋葉原の容疑者 ゆとり教育なら救えたのに……」
http://www.j-cast.com/tv/2008/06/11021592.html

ゴーン…ゴーン…ゴーン…頭の中で鐘が鳴り響きそうなコメントです。ああ、そうですか、ゆとりが足りないから、私の心は痛むわけですか。あなたがたは、私より「心が豊か」らいしですよ>年下のみなさん
 なんていうか、さすが「ミスター文部省」……「ドラゴンボール」でいうとミスターサタンみたいな感じですかね?きっと地球を救ってくれるはず。

*1:ネオむぎ茶」の事件といえば、思い出す人は多いだろう

*2:まさか、自分が被害者の問題に関わるとは思っていなかった。私は、加害者の問題のほうが、身近だった。