修復的正義についてのweb連載が始まりました。

 本日創刊した「Modern Times」というwebメディアで、修復的正義の3回シリーズを書いています。無料ですのでご関心ある方はぜひアクセスしてみてください。最近、話題になっている「キャンセルカルチャー」の話題から始まり、なぜ、暴力や犯罪の加害者の声を聞くことが重要であるのかを、フェルナンド・アラムブルの「祖国」を通して述べています。次回も近々公開予定で、より具体的な修復的正義の実践事例を紹介します。私にとっては初めてのウェブメディアでの記事の執筆になりますが、良いものにしたいと思っています。

www.moderntimes.tv

 裏話としては、プロフィール用の写真を撮らねばならず、悪戦苦闘しました。ちょうどパートナーがこちらにきていたので、撮ってもらったのですが、恥ずかしいし、照れくさいし大変でした。「本を読んでいるところか、考えているところ」という指定があったので、実際にいつもどおりの風景を撮ってもらうと、机に向かう背中と壁しか映ってなくて「これはどうすれば……?」と思いました。何枚か頑張って撮ったのを、いい感じに加工していただいて、研究者っぽく見えるようになっていました。プロの力は素晴らしいです。写真を求められることも増えたので、どこかでちゃんと撮らないといけないなあ、と思っています。

 ところで、「キャンセルカルチャー」については、ネットでも議論が続いているようです。特に大学の非常勤講師の雇用については、私も当事者にあたります。いま、非常勤講師の問題は複雑になっていて、ここ数年、長く続けてこられた方は無期転換で雇用が守られることも増えました。他方、新規参入者は非常勤講師の職を得ることも難しいですし、もともとの契約書に年限が明記されている(実質、雇い止めの予告)ことが多いです。私自身、日本で非常勤講師をしているときには、ちょうど狭間の世代にあたり、無期転換の対象になりませんでした。働いている時は毎年、契約を更新していただけるのかとても不安でした。もちろん、定職への応募も毎年、書類をたくさん出しますが、なかなか通りません。

 こうした不安定な雇用状態を改善していくことは、多くの非常勤講師の切望だと思います。だからといって、学外の常勤講師に嫌がらせをすることが許されるわけはありません。また、それらに対する批判が出るのも当然のことでしょう。私は、重要なのは「キャンセルカルチャー」を批判することではなく、人事プロセスの透明化と民主化であると考えています。もちろん、いまの正規の大学教員になかにはそのために尽力しておられる方がいるのも承知しています。大学運営の実務にあたる上では、単純な業績主義ですまないだろうことも理解しています。また、これらの状況をうんでいるもっとも重要な要因は大学予算の削減(特に人件費削減)でしょう。運営する側にも多大な負担がかかっていることは推察はできるのですが、もう少しでも状況が良くなることを願っています。

 さらに、研究のグローバル化が進む一方で、海外で研究を発展させることが、どんどん難しくなるように思っています。私のように、博士号をとったあとに、学振PDその他奨学金などを利用して在外研究をする場合は、全ての非常勤講師の職を手放して渡航することになりますし、帰国後は完全にゼロからのスタートになります。ですので、もし私が無期転換の対象になっている場合は、渡航をためらったかもしれません。理想は、定職に就いてからサバティカルなどで在外研究にあたることでしょうが、今のジュニア研究者はそんなことは全く期待できません。そういうわけで、今はCovid19の影響で状況が見えにくくなっていますが、在外研究を考えるジュニア研究者は減るかもしれないと思っています。必ずしも海外での研究経験が必要なわけではないですが、自分の研究を発展させたいと思う時、就労状況が原因で大きな葛藤が生まれる現況はあまり良いとは思えずにいます。

 最後にこれらのことを言及することも、私のような定職に就かない研究者にとってはためらうことです。文科省や学会も無記名での調査などを行うようになっています。少しでもこれらの声が届くことを祈っています。