京都府「児童ポルノ規制条例」検討会議記録

 2月初旬ごろに、京都府で廃棄命令付きの「児童ポルノ規制条例」が制定されるという報道がありました。

児童ポルノ規制:廃棄命令付き条例制定へ 全国初 京都府

 京都府児童ポルノの画像や動画の「廃棄命令」を盛り込んだ児童ポルノ規制条例制定の方針を固めたことが4日、府への取材で分かった。有識者らによる検討会議が月内にも最終案をまとめ、府はこれに沿って11年度内の制定を目指す。児童ポルノを規制する条例は準備中を含め複数府県にあるが、廃棄命令付きは全国で初めてとなる。

 府によると、廃棄命令は18歳未満の性交または類似行為などが写った児童ポルノが対象。主に府警の捜査などによって把握した画像や動画の譲渡先に府が命じ、従わなければ刑事罰が科される。被写体が13歳未満の場合、有償で譲り受けたことが確認されれば命令なしでの罰則適用も検討している。

 児童買春・児童ポルノ禁止法は、提供目的ではない単純な所持は処罰の対象外。関係者によると、単純所持に罰則適用できる条例を持つ県もあるが、データが一方的に送りつけられるなどすれば冤罪(えんざい)となる恐れもあり、慎重な運用を余儀なくされているという。

 このため京都府は、罰則適用の前段階で強制力が低い廃棄命令を設けて実効性を高めることにした。

 京都府青少年課は「製造元を摘発してもインターネット上で拡散する児童ポルノが消えるわけではない。廃棄命令を条例に盛り込み、できるだけ多くの被害者の人権を守ることに努めたい」と話している。【入江直樹】
http://mainichi.jp/select/wadai/news/20110204k0000e040063000c.html

私はほとんどこのニュースを追えていないのですが、やっと京都府児童ポルノ規制条例検討会議」の議事録にざっと目を通しました。

児童ポルノ規制条例検討会議」
http://www.pref.kyoto.jp/shingikai/seisyo-02/index.html

第一回から第四回までの議事録がアップされており、第五回(1月31日開催)はまだ記録が出ていません。第一回は警察から報告がありました。第一回の議事録を読む限り、警察側は規制に対して積極的なようです。

「第1回児童ポルノ規制条例検討会議の議事要旨」
http://www.pref.kyoto.jp/shingikai/seisyo-02/1287387173442.html

この第一回では、次の二点が「委員了解」であったとされています。

条例の目的あるいは条例を通じて何を実現するのかということについては、児童ポルノの被写体となった又はなりうる児童の人権をいかに保障するか。また、それを害されたことにより将来の生活に及ぼす影響をいかに守るかということを主たる論点としてはどうか。(委員了解)

被写体となる児童の権利保護を第1の目的と考え、実在の児童が被写体等となっている表現物を規制対象とすることとし、漫画やアニメ等については直接の議題とはしないということでよいか。(委員了解)

 第二回は、被害児童をケアする立場の人々からの報告を受けての議論になっています。現場からの声として、挙げられた論点は傾聴すべきではないかと思います。

「第2回児童ポルノ規制条例検討会議の議事要旨」
http://www.pref.kyoto.jp/shingikai/seisyo-02/1290409637412.html

ケアは長期にわたることや、被害児童の母親へのケアが必要なことにも言及されていますし、過去に被害に遭い成人しても精神的な苦痛で苦しんでいる人への配慮についての救済範囲を設定する難しさにも触れられています。また、創作物に対しては

加害者である大人の嗜癖を助長させないような環境の強化という意味では、非実在のものであっても、子どもを性の対象にして性欲を刺激するようなものについても何らかの対応が必要ではないか。

子どもを性的欲求の対象として取扱うことが、子どもに対する人権侵害であるということの啓発や大人への教育はしっかり力を入れていくべきであるが、フィクションのものを規制対象にしようすると、具体的な子どもに対する性的な被害ということを離れて、表現物に対する規制という部分が強くなり、問題性が大分違ってくると考える

というふうな議論があったことも記録されています。また、性教育の必要性や、被害児童が加害者から遠ざかることができるような措置についても述べられています。
 第三回では、インターネット上の問題として、議論がされています。インターネットにおける規制では、自治体レベルでできる対処はないとの結論のようです。

「第3回児童ポルノ規制条例検討会議の議事要旨」
http://www.pref.kyoto.jp/shingikai/seisyo-02/1293449834193.html

また、第三回では、規制方法についても議論されています。

まず刑事罰則をつけない単なる禁止という方法があるが、これは法的にも大きな意味を持っており、単なる禁止であってもこれを違法と宣言することで、代金請求ができなくなり、ビジネスとして成立しなくなるため、抑制効果も十分発揮されると考える。また、一定の行為をすると直ちに処罰するという直罰という方法がある。それから、廃棄命令という方法があるが、例えば現在でも、わいせつ物の輸入に対して税関で廃棄するという措置がとられているところであり、ストーカー行為規制法の中で被害者が警察に相談して、警察から加害者に対して警告とか接近禁止命令などを出すというケースもある。この命令に違反した場合には処罰される間接罰という取締りの仕方もある。

これは、この会議で繰り返し述べられている点ですが、児童ポルノ所持・所持の刑事罰則なしの規制では、「違法であるために、代金請求ができない→ビジネスとして成立しなくなる→児童ポルノのマーケット自体が縮小する」という効果を狙っているようです。そして、もう一点の、冒頭に引用した報道記事にもあるような、廃棄命令というかたちの規制方法がここで議論されています。
 そして、第四回では諸外国の例も挙げながら、児童ポルノ所持・所得について重要な論点がいくつも議論されています。(1)児童と定義する年齢の問題(2)規制対象画像の問題(3)規制内容の問題(4)規制方法の問題の四点が特に取り上げられています。

「第4回児童ポルノ規制条例検討会議の議事要旨」
http://www.pref.kyoto.jp/shingikai/seisyo-02/1296553634212.html

(1)では、児童の線引きに13歳、18歳のほか、15歳、16歳という線引きの仕方があることも述べられています。(2)では、諸外国では裸の写真一枚を単純所持で処罰対象にすることはなく「重大な犯罪行為を手段として作られたものという限定がかけられていることが世界的な傾向としては言える」と述べられています。(3)では、次の点が指摘されています。

直接の権利侵害ということにはならないので、単にだれかが児童ポルノを持っているというだけで、それは児童に対する権利侵害なのだという印象論のような説明では刑罰法規をつくる理由としては十分ではないと考えられる。

諸外国では単純所持・所得を処罰対象とするのは、性犯罪防止の観点であり「単に持っているから、単に取得したからということだけで実在の児童に対する被害が発生するという考え方で刑事立法が行われている国はない」という点を指摘しています。この点が重要なのは、この検討会議は、(後にもまた述べるのですが)条例を「児童保護」の視点から考えるのであって、性犯罪防止の視点から考えるのではないからです。(4)では第三回でも論じられたように、刑罰なしの禁止と、廃棄命令などを含む禁止について述べられています。後者については、以下が指摘されています。

ただし、ここでも廃棄命令の対象となる所持などの形態を広く定義してしまうと、個人の幸福追求権などとの衝突が問題になるので、適用上の注意ということで、「権利の不当侵害、本来の目的を逸脱した濫用の禁止」をどのように図っていくか、制度上悪用される余地がないようにどのような工夫をしていったらよいのかということが当然問題になってくる。

 上記の四点に加えて「有償での所得と、無償での所得とを線引きするか」「国レベルの対処と、自治体レベルの対処の折り合い」「所得や所持の実態把握をどう捜査するのか」などの問題も論点としてあがったようです。さらには、ブラックマーケットの縮小を狙うと言っても、世界規模で児童ポルノが流通している現状で、地方自治体のできる対処は限られているのではないかという指摘もあります。

条例でどこまで規制ができるのか、またすべきなのかという点に関しては、児童の保護という点では、日本全国あるいは全世界で共通に取り組むべき課題であるので、そもそも地方自治体の条例でこれを扱うことが適切なのかということがある。
ただ、現在では都道府県の条例で青少年の保護育成が図られている中で、淫行処罰などが行われているところではある。しかしながら淫行については、地方のある場所で行われるという地域性や場所のある行為なのに対して、インターネットが使われるものについては、都道府県の区域での限定ということはあまり意味がなくなってしまうので、その点で従来の青少年保護の枠組みとは少し異なることに注意する必要があ

 この検討会議では、「児童ポルノ規制条例」はあくまでも児童保護の視点に立脚することを繰り返し確認しています。また次のような意見もあがっています。

児童ポルノを数多く見ると、児童に対する犯罪行為につながるのではないかということについては科学的に証明されていない。諸外国の立法例でも、ポルノを見ると性犯罪が起きるので規制をするという考え方は一般にはとられていないように思われる。性的な画像を見ることによって欲求が解消されるので犯罪が減るという意見と、感覚が麻痺して犯罪が増加するという意見の両方があるが、科学的にどちらが正しいということは、はっきりと言えていない状況である。したがって、少なくともそのような画像があると犯罪が増えるので処罰の対象にするということを規制の直接的な根拠にすることは難しいのではないか。

定義の部分で対象となるものをかなり絞り込んだとしても、児童ポルノを所持していることを処罰や規制の対象にすることには、弊害との関係でいろいろな問題が出てくる。個人がだれにも存在を明らかにせずに所持している児童ポルノの存在を、捜査機関がどのように把握するのかを考えた場合に、通報を受けて捜索するにしても冤罪の危険性や捜査の範囲の不当な拡大になりかねないということになるので、やはり単純所持を取り締まるのは難しいのではないか。

条例で行うべきことの主要点が、罰則等を設けるというところなのか、それとも被害児童のケアのような部分を中心とすべきなのかということが議論の本筋のような気がする。

これまでの議論の経過からすると、規制の対象となる画像等は実在の児童に限らざるを得ないのであろう。また、ビジネスに絡んでいるようなものについては、かなり強い規制をかけていく必要があるのではないか。ただ、単純所持の問題については、かなり難しい議論をしなければならないし、相当厳密に詰めなければ、なかなか規制の対象にはしにくいと感じている。

以上の議論は妥当だと私は思っています。さらには、次のように、児童のケアについて再三触れている意見もあります。

児童の人権を守る、児童ポルノを拡散させないという状態をどのように作っていくのかということがその都度言われてきた。児童ポルノを拡散させないということや被害児童等の支援について、条例の中にどのように活かしていくのかということが大事であると思う。児童ポルノの所持の在り方や、結果的に人権を侵害された児童をどのように保護していかなければならないのかについて、やはり条例の中に盛り込んでいくことが大事である。

私はぜひこの検討会議では具体的な「児童ポルノを拡散させないこと」「被害児童等の支援」についての方策に踏み込んで議論していただきたいと思います。とりわけ、後者は、お金と人的資源と時間とが必要です。「心のケア」という言葉は広がっていますが、実際にはなかなか目に見える「結果」が出るような問題ではありません。被害に遭った子どもたちの成長の中で、継続的な支援が必要です。また、性的暴力によるトラウマからの回復はかならずしもまっすぐな道のりではありません。ときには支援が無駄に思えるような状況に陥ることもあります。世間的には「カウンセリングを受けて、みるみる笑顔を取り戻した子どもたち」のようなイメージだけが先行していますが、実際の現場は違った様相を呈しています。被害児童らに対する、息の長い粘り強い支援をできるような体制作りを構想していただきたいと思います。そして、もちろんそれは児童ポルノの被写体にされた児童だけではなく、すべての性的暴力の被害にあった児童への支援を構想することになると思います。この検討会議の議題として、どこまでカバーできるのかはわかりませんが、京都府が「児童ポルノに厳しい街」ではなく「性的虐待を受けた児童にやさしい街」を目指すことを府民の一人として望んでいます。
以上、議事録を読んだ上での、目についた部分の抜き出しと、私の簡単な感想です。現時点では、私はかなり重要な論点が検討会議では出ていますので、真摯な議論されているのではないかと推測しています(傍聴を逃してしまったのが残念です)しかし、まだ、第五回の議事録があがっていません。その中で「廃棄命令」を含んだ児童ポルノの所持・所得規制の方向性が決まったようですので、注意してまた情報を待ちたいと思います。
(精読したわけではないですので、読み飛ばし、読み違いがあるかもしれません。お気づきのかたはコメント欄等でぜひお知らせください。また、リンク先を読み現物を確認していただけるとありがたいです。)