ハーグ「子の奪取」条約の批准に関する慎重な検討要請

 DV被害者支援団体から、レターでご紹介いただきました。ハーグ条約の批准に、慎重な検討を求めるために、ウェブサイトで情報を広げているそうです。

「ちょっと待って!ハーグ条約
http://hague-shincho.com/index.html

以下に、ウェブサイトを参考に、私のほうからも問題を簡単に紹介します。
 ハーグ条約とは、「一方の親が、他方の親に無断で、国外に子を連れ出した場合、子を瞬時に元いた国に送り返す措置をとる」と国同士が約束する条約です。国境を越えた「子の連れ去り」に対し、国家が介入し、子の保護を目指しています。ここだけ聞くと、子どもの人権のために、重要で批准すべき条約のように見えます。しかし、慎重検討を求める声があるのは、この条約に落とし穴があるからです。
 2003年の調査の時点で、子を国外に連れ出した68パーセントの親が女性です。「連れ去りの原因として、母へのDV・子どもへの虐待など、起草時に十分に想定されなかった要素があると考えられる」とされています。この条約が作られたのは1980年です。DVや子どもの虐待を問題を捉えた「子どもの権利条約」を国連が採択したのが1989年ですから、当時はまだこうした問題の把握が十分になされていなかったようです。たとえば、外国で結婚した女性が、DVに耐えかねて、逃げるかたちで、子を連れて日本に帰国した場合、「連れ去り」だとみなされるというようなケースに対する、具体的な配慮はなされていません。
 さらに、「連れ去り」とみなされた場合、誘拐罪に問われ、監護親としての適格性に欠けると判断される可能性もあります。また、子と共に元いた国に帰る場合に、条件をつける交渉もできるのですが、そのあとに取り決めた合意を守らせる強制力は、ハーグ条約にありません。たとえば、「もう虐待をしない」と交渉で決め、帰国した後の生活の中で約束が破られても、どうしようもないのです。
 現在も、国外で結婚して生活する女性は多くいます。そして、やはりDVや虐待を理由に帰国した人たちもいるのです。ウェブサイトでは、次のように書かれています。

現に、夫の本国である米国、フランス、オ−ストラリア等でDVや虐待を受け、自らと子どもの生命身体の安全のため、必死の思いで、子を連れ日本に戻ってきた女性たちがいます。外務省の調査でも、諸外国から日本への子連れ別居事案の中には、夫からの身体的・非身体的DVに苦しみ、帰国した事案等が含まれています。さらに仕事がないなど経済的理由も加えると、日本に帰国してDVのない安全な環境のもとで、親などの経済的・精神的支援を得て子どもを育てている女性たちはさらに多くいると考えられます。そういった女性たちの外国人夫の国籍を正確に把握することは困難ですが、現在、日本にハーグ条約の締結を強力に申し入れているのは欧米諸国であり、日本への子連れ別居事案の多くはこれらの国からと考えられます。その多くはハーグ条約を締結している国なので、仮に日本がハーグ条約を締結すれば、日本政府は、日本人女性と子どもをこれらの国に返還することが義務づけられます。つまり日本人女性と子どもは、日本政府の手により、ようやく得た安全な環境を奪われ、DVや虐待のあった国に戻されてしまうのです。
http://hague-shincho.com/japan/index.html

以上のように、DV・虐待のあるケースへの懸念が示されています。ウェブサイトには具体例をあげての、より詳しい情報があります。
 また、「ハーグ条約加盟に反対する会」が当事者によって結成されています。

ハーグ条約加盟に反対する会」
http://hague-dv.org/

次のように団体が紹介されています。

“S.N.G.C“=Safty Network for Guardian and Children は、「外国から子どもを連れて帰国した」当事者が「ハーグ条約」が批准されたら、「子どもと私たちはどうなってしまうのか」という危機感でやむにやまれず結成したネットワークです

 この問題で、「ハーグ条約加盟」を求める人たちもいます。その人たちの多くは「面会交流」を争点に上げています。私も以前、この問題をブログで紹介したことがあります。

「離婚・離別後の男女共同子育て」
http://d.hatena.ne.jp/font-da/20091112/1258025965

上で紹介しているのは、女性学研究会のレターに出ていたもので、母親の置かれている状況や、権利についても配慮しながら議論されているものです。上の記事の繰り返しになりますが、離婚後の子をめぐる論点は多岐にわたります。十分に議論が必要だと思います。