草食系男子が少女マンガに現る

 「Kiss」の11/25日号を買った。(アマゾンに在庫情報がないみたいです。下は参考用に一月号↓)

Kiss (キス) 2008年 1/10号 [雑誌]

Kiss (キス) 2008年 1/10号 [雑誌]

 「Kiss」は20代から30代の独身女性をターゲットにしたマンガ雑誌である。月に2回発行され、「のだめカンタービレ」「ホタルノヒカリ」など、ドラマになった有名作品も掲載されている。しかし、総じて地味な作品が多く、ドラマティックな展開はほとんどない。私も惰性で、だらだら昼ドラを観るように買い続けている。(そして、昼ドラと同じく、どうでもいいと思っていも見逃すと悔しい)題材も身の回りの人とのかかわりや、職場での葛藤など、日常生活の中の小さなドラマが取り上げられることが多い。
 そこで連載されているのが、「30婚〜miso-com〜」である。

30婚 miso‐com(1) (KC KISS)

30婚 miso‐com(1) (KC KISS)

主人公のノロエミは、30歳の独身女性で、結婚したいと切望している。連載が始まったころは、お見合いパーティー、お見合いおばさんを利用してみたり、と様々なサービスをノロエミが体験するストーリーが描かれていた。自己啓発の要素が強く、ノロエミがさまざまな経験を通して、自分に欠けていた点に気づいてくことが強調される。
 そんなノロエミが恋をしたのが「黒城さん」(男性)である。ノロエミは黒川さんを前にすると、緊張して空回ってしまう。今月のエピソードでは、ノロエミは黒城さんを「スイーツバイキング」に誘う。そのために、頭の中でシナリオを作って、練習してから黒城さんに声をかけた。ところが、そのシナリオ通りの返答を黒城さんがしてくれないため、またもや空回って、結局誘いを断られてしまった。
 ノロエミは、男性の友人の「速水さん」をスイーツバイキングに誘う。速水さんは、草食系男子*1で、ノロエミとは恋の相談をお互いにしあう仲である。実は、速水さんも、思いを寄せる女性を誘おうとするのだが、うまくいかずに悩んでいた。速水さんの話を聞き、ノロエミは男性もまた、恋愛について同じように悩んでいることに気づく。

ノロエミのモノローグ「わたしたち 女性が 傷つくのが こわいように 男の人だって 傷つくのが こわい」)
ノロエミ「……わたしと速水さんって似てるのかも 『自分の作った シナリオから はずれると あわてふためいてしまう』ってところとか」
速水さん「そうかもしれないね」
ノロエミ「傷つくのがこわいから 失敗したくなくて」
速水さん「シナリオを作る」
ノロエミ「そして シナリオからはずれると とてもへこんでしまう 極端な話 わたしは黒城さんに 『たとえ甘いものが好きでなくても 自分につきあってほしい』って思ってた」
(手描き文字で、速水さん「おお〜=それはすごい…」ノロエミ「ね?なにさまって感じだよね」)
ノロエミ「男の人には なんでも願を叶えてほしいと思ってた 『あれしてほしい』『これしてほしい』って 男性に求めてばかり そのくせ男の人に傷つけられるのがこわくて 『勇気を出した結果傷つくこと』も 男性に担当してほしい と思ってる 『男だって女と同じように傷つく』ということがわかってなかったの 男も女もおなじ人間よね ごめんなさい」
速水さん「今まで『おなじ人間』と思ってなかったの?!」
ノロエミ「斬れば血の出おなじ人間 とちゃんとわかっていたかしら……?」
速水さん「……じゃあなんだと思ってたの……?」
ノロエミ「『男の人』という生きものだと思ってた 『男の人』にはいろんな願を叶えてほしい 万能でいてほしい (手描き文字で「うひゃ〜〜はずかしい」) そんな考えじゃ そりゃあ結婚できないのはあたりまえよね〜〜〜!!」
(手描き文字で、速水さん「傷つかず女性の願いは叶える そんな万能のロボットみたいな役割を期待されていたなんて…」ノロエミ「逆に女が男に万能ロボットを期待されたら そりゃあつらいよね なのにすみません」)
ノロエミ「今後『勇気を出した結果傷つくこと』担当は双方折半で」
(手描き文字で、速水さん「ははは」)

(155〜158ページ)

そして、ノロエミはシナリオを作らずに、傷つくことも覚悟の上で、黒城さんに恋をすると決める。その結果、黒城さんと今度はうまく話せたのだった。
 「草食系男子」に「スイーツ」という、どっかで聞いたことのあるような話がてんこもりのマンガである。

草食系男子の恋愛学

草食系男子の恋愛学

「スイーツフォビア」
「草食系男子の恋愛入門」は、男子目線で書いてある本だが、それを女子目線で書き換えたようなエピソードになっていた。女子をターゲットにした作家からの、この本に対する応答の一つになっているかもしれない。女子の男子に対する役割期待は、確かに恋愛する上での、ハードルになっているかも。*2男女の恋愛では、関係性の中で社会的性差にどう対処していくのかは、大切な問題である。「男と女はわかりあえない」というようなオチにはまらず、考えていきたい。ただ、このマンガに関しては、あまりにも自己啓発の要素が強すぎて、説教臭く、どのくらいの読者に受け入れられるのかは疑問である。せっかくマンガなんだから、こういうことは、セリフで言わせるのではなく主人公の変容を描く中で、読者が考えていく形をとれればいいなあ、と思う。*3

*1:「草食系男子」という言葉は、マンガの中でも実際に使われている

*2:念のために言っておくけれど、男子の女子に対する役割期待と「どっちもどっち」と言いたいわけではない。それぞれが重要な問題であり、別々の問題解決についての思案が必要だろう。そして、社会的には男性から女性に対する役割期待は、女性差別の構造とぴったりと表裏一体となっていることは指摘しておく

*3:難しいのはわかってるんだけれども。