ぱーぷる「あしたの虹」

 瀬戸内寂聴が、ケータイ小説を別名で書いていたことが公表されて、話題になっている。83歳で、小説家としても有名な女性の挑戦として、好意的にとる人は多いようだ。
 瀬戸内さんは、プロフィールの段階でノリノリで書いている。「【好きな食べ物】お肉(特にウシ)」って、お前僧侶じゃねーか、というツッコミは置いておいても、吹く。瀬戸内さんは、もちろん、メタ・ケータイ小説
として、「ケータイ小説の枠組みで遊ぶこと」をやってみせようとした、と言えるだろう。私はケータイ小説自体をほとんど読んでいないので、そのたくらみが成功したかどうかは、わからない。しかし、この「あしたの虹」は最後まで読んでしまった。
 主人公の両親は離婚し、主人公のユーリは、友人にバイトを紹介してもらう。きっと読者の多くは「援助交際だ!」と思うだろう。ところがどっこい、友人はバーのママを紹介し、ママはさらにうなぎ屋の女将を紹介してもらう。そして、ユーリはうなぎ屋「柳」でバイトを始め、一日2800円を稼ぎ、うなぎの脂を落とすのがうまくなったりする。そして、見習いの板さんヒカルに惚れてしまうのだ。*1
 なんだこれ、逆境の中で、たくましく生きる健気な少女の小説じゃないか。私は、吉屋信子「からたちの花」を思い出してしまった。

ユーリは、うなぎ屋の女将やベテランの板さん、大金持ちのパトロンなどに囲まれて、大人にもまれて成長していく。友人に支えられ、学校に通う高校生から、子を産むことを決意する女へと成長する、道徳的な物語である。
 瀬戸内さんは、どんどん筆がのってくる。途中からは、ケータイ小説なのに、ユーリは「そういう親切、大げさにいえば、単なるヒューマニティー。」「子どもが産まれたら、あたしは母乳で育てたい。」などという謎の言動をとりはじめる。リアリティーゼロ。そして、妊娠してパトロンがユーリに説教するのは「17? 早くないわよ。高2はわたしの若いころの女子校5年生でしょ。卒業前にお嫁にいく人なんて、いっぱいいましたよ。」という日本の女の歴史であった。
 「あしたの虹」が、現代を生きる若い女性のリアリティーをとらえているとは思えない。それでも、現代を生きる83歳の女性が描く少女小説があってもいいように思う。それをリアルであるかどうかを判断するのは、ケータイ小説を「私を語っている文体」とみなしている若い人たちだろう。私は、あれがリアルだと思ったことはないです。(26歳・女性)*2

*1:ちなみに、私も少女小説を書いたことがある。主人公を小料理屋の娘に設定していたため、友人に「おまえ、現代性なさすぎるやろ」と罵倒されて終わった。瀬戸内さんのことは決して笑えません。

*2:まず、関西弁じゃないと、無理やな。私は関東の言葉では、思考してへんもん。下の記事で「部長刑事」って書いたんだけど、あの番組が関西ローカルだということに、あとから気づいた。毎週土曜日は「アーバンポリス24時」を観るのはほんと楽しみやったんやけど、あれは大阪の番組だったのか…道理で…ということで、次のケータイ小説田辺聖子でお願いします。