ハウジング・ファーストを吹聴しよう

 macska dot orgで、「ハウジング・ファースト」が紹介されている。DV被害者支援における、次のようなプログラムだ。

 このプログラムでは、DV被害を受けて逃げ出してきた被害者をとりあえず市内のホテルに確保してある部屋に泊め、本人にパートナーと分かれる意志があることを確認する。意志があるならば、数日内にアパートを探し始め、本人が気に入ったところに入居できるように、必要経費を全額払う。最初の数ヶ月は家賃も全額払うが、そのうちあらかじめ決められた分だけ本人が負担するようになり、六ヶ月〜一年後には本人が全額負担する。そのあいだ、どうしても本人が払えない場合は臨機応変に対応はする。カウンセリングや、必要なら薬物やアルコール中毒の治療などの支援は、まず住む場所を見つけてからだ。
 ハウジング・ファーストの考え方は、呆れるほどシンプルだ。人がホームレスになるのはなぜか?家賃が払えないからだ、と。では、ホームレスになった人がホームレスの状況から脱するには何が必要か?家賃を払えば良い。もちろん、家賃が払えなくなった理由はまた別に人それぞれにあるはずで、それを解決しないことには家賃支援が終わったらまたホームレスになってしまう。しかし何より恐ろしいのは、ホームレスになった人が、ホームレスとして生きることで、もともとあった問題が解決されないばかりか、さらに深刻な問題を抱えてしまいかねないことだ。だから、とにかくホームレス状態だけは脱させて、そのうえで今後またホームレスとなることがないように必要な支援をしていこう、というのがハウジング・ファーストの理念となる。

「DVシェルター廃絶論−−ハウジング・ファーストからの挑戦」(http://macska.org/article/235

 「逃げたい」と思っても、逃げる場所もお金もない被害者がたくさんいる。逃げた先が、どんなに「アットホーム」で「やさしいスタッフ」がいようとも、そこでの被害者の生活は、集団の生活の一部として、管理される。もちろん、管理されることで得られる生活の安定もあるだろう。しかし、そうでない生活の安定の得方もあるはずだ。
 被害者でない人たち、つまり、普通の人たちの多くは、集団生活ではなく個人での生活を望む。誰と暮らすのかは、自分で決めたいと思っている。被害者が、被害にあっただけで、その世間では凡庸な望みだと思われている希望がかなえられないことはおかしい。
 これまで、被害者が、加害者から逃げた後、個人で生活を営むのは難しいとの見方が多いかったように思う。また、そうすると加害者の元に戻ってしまうとの見方も多かった。しかし、macskaさんの報告を見る限り、現時点では、このプログラムはうまくいっているようだ。
 元記事では、かなり丁寧にシェルターの問題点や、このプログラムの利点が解説されているので、読んで欲しい。

 私は「ハウジング・ファースト」という言葉を初めて知ったし、日本ではほとんど知られていないだろう。私は、現在、直接に被害者支援をする団体には所属していない。だから、今すぐ行動に移すことはできないが、これは画期的なプログラムだと思っている。また、ストーカー被害にあっているが、引っ越し資金がない、という被害者への支援としても、使えるように思う。
 特に何ができるわけではないが、身近な関係者*1に吹聴してまわろうと思う。修復的司法を吹聴してまわったときにも思ったが、せっぱつまっている当事者・支援者というのはいるわけで、そういう人は情報を持っているし、もっと情報を得たいと思っている。おたがい、食いついてくる。*2もちろん、そういう情報を交換できる場を作ることも必要だけれど、口コミっていうのは、意外と大事だ。
 というわけで、「ハウジング・ファーストはすごいらしい」という噂をここで流しておきます。もちろん、このプログラムが万能というわけではないだろうけど、常にオルタナティブを意識して、現在ある制度がベストなのかどうかを疑うことも、大事やしね。

*1:全然多くないんですけど…

*2:もめることも多いが