渡辺ペコ「ラウンダバウト」(2)

 ジュンク堂三宮店では、残り1冊になっていた。1巻は売り切れ。

ラウンダバウト 2 (クイーンズコミックス)

ラウンダバウト 2 (クイーンズコミックス)

相変わらず地味である。私は掲載誌「コーラス」で毎月読んでいる。そのほうが、しっくりくる。特に盛り上がるわけでもない。
 しかし、渡辺さんは、キャラクターの作り方が本当にうまい。たいしたことのない日常のできごとに対しても、少しずつ人によって反応は違うものだ。AさんとBさんの反応がぶつかったときと、AさんとCさんの反応がぶつかったときには、違ったエピソードが生まれ、異なる関係性が作られていく。渡辺さんは、それを明確に描き出す。
 たとえば、渡辺さんは二通りの仲直りを描く。
 一通り目は、第7話の「僕の右手」。主人公の真が、幼馴染のザベの、小学生のときの恥ずかしい思い出を面白おかしく吹聴する。普段なら、一緒に笑うはずのザベは、怒ってしまい、辞書を真にぶつける。気まずくなる二人。その後、ばったりスーパーで二人で出くわし、そのまま何を言うでもなく、ふざけあって仲直りする。ここでは、気まずくなっても、なんとなくうまくやっていける真とザベの関係性を描き出される。
 二通り目は、第11話の「Communication Breakdown」。引きこもりのたまきは、真を美術展に誘う。真は、たまきに黙って、友人のえーこも連れて来てしまう。コミュニケーションに自信のないたまきは、悶々と三人の会話がうまくバランスがとれるように、気を使い続ける。しかし、真とえーこは口論になってしまい、たまきは「自分が誘ったからこんなことになってしまった」と黙って二人の前で泣いてしまう。たまきは、泣いてしまったことを、家に帰ってからも後悔し続ける。次の日、たまきとえーこは、本屋でばったり出くわす。本屋でうまく会話が成り立ってきたころ、えーこはたまきに、「昨日、仲直りのおまじないをした」ということを明かす。ここでは、気遣いあっていることを確認して、友情を育むたまきとえーこの関係性が描き出される。
 この二例でもわかるように、渡辺さんの描く話は、ほとんど物語の構造は同じである。しかし、キャラクター同士の組み合わせで、その構造はプリズムのように異なる輝きを見せる。これは、渡辺さんが、「会話劇の教科書通り」と言ってもいいほど、基本に忠実なドラマ構成を練っていることを示している。
 渡辺さんは、絵もうまいし、コマの構成やカメラワークの技術も高い。だから、このような地味な漫画でも、面白く見せてしまう。だが、このような作品の場合、長く続けていくと、どうしてもマンネリ化する傾向がある。そこで、会話劇の枠を超えた、漫画のカタルシスが必要になる。しかし、そこは、渡辺さんの弱点かもしれない。
 渡辺さんは、第12話「私の恋人」では、大人の恋愛を描こうとする。また、家族問題も盛り込み、やや重たい状況を背負った登場人物も出てくる。そのような、筋の中ではっきりと登場人物が成長したり、トラウマを乗り越えるような様子を描いたとき、やや「お涙頂戴」の趣がでてしまう。これから先、少し心配な点でもある。

 ところで、この漫画は「コーラス」に連載中だ。

コーラス 2008年 06月号 [雑誌]

コーラス 2008年 06月号 [雑誌]

「コーラス」の看板といえば、一条ゆかり「プライド」である。
プライド 8 (クイーンズコミックス)

プライド 8 (クイーンズコミックス)

こっちは、現代的な渡辺さんの漫画とは逆方向の、古典的少女漫画である。きらびやかなオペラの世界で、女のたたかいが繰り広げられる。(ちなみに、美内すずえガラスの仮面」の亜弓さんとマヤを入れ違えたような話である)「プライド」と「ラウンダバウト」が同時に載っている雑誌、というのは面白いなあ、と思う。