男子力からオッサン力へ

男子力からオッサン力へ

(前の日のエントリーから続いています)

 ところで、私は年上の頼れる男が好きだ、と言った。まっとうな趣味だと思われるかもしれないけれど、そうでもない。女子同士の飲み会で、「好みのタイプの芸能人は?」と聞かれると、動揺する。なぜなら、私はかなりガバッと年上の男が好きだからだ。ここで、正直に役所広司と答えて良いのか?脳内会議の上、最大限に妥協して堤真一と言ってみたら、しーんとなった。失敗した。
 ロリコン男子も、肩身の狭い思いをしているだろうが、フケ専女子だっていろいろ言いにくい。「ファザコン」「自立できてない」「金目当て」そのいくつかは的確に当てはまる私だけれども、言いたくない。*1そんなフケ専の私がぐっとくる漫画は『ホタルノヒカリ』。

 ひうらさとるホタルノヒカリ』の主人公の雨宮蛍は、「干物女」と呼ばれる若い女子である。恋愛に自信が無く、会社では女子力を発揮できるが、家ではだらしなく生活している。蛍はあるきっかけで、上司の高野(バツイチ中年男性)と暮らし始め、高野に励まされながら、イケメンのマコト君とつきあい始める。しかし、相変わらず高野との生活ではだらしなく、マコト君とのデートでは女子力を発揮するという二面性を持っている。
 当然、ストーリーは、マコト君との恋愛に奮闘する蛍の一面と、奮闘した結果失敗した蛍を受け入れる、高野に惹かれている微妙な関係の中揺れ動く。(現在、連載中で完結していない)セックスすることに対し、自分の体型が不完全であることに悩む蛍に高野はこういう。

蛍「この女カンペキ!て思ってたカノ女が腹肉…
イ イエ 思ったよりユルイ体型とかだったら幻滅でしょう?!」
高野「…そうかなぁ グッときそうだけど オレなら
自分だけが知ってる体って きっと燃えるよ」

ひうらさとるホタルノヒカリ」2巻、講談社、2005年、113P

所有欲丸出しで、女を支配しようとしている、と言えなくもない。だけど、私はきっと言われたら照れるだろうし、ちょっと嬉しいだろうと思う。(ちょっとじゃなくて、すごく嬉しいかもしれない。)
 ここで問題なのは、蛍の彼氏は高野ではなくマコト君だということだ。蛍は、マコト君には言えないことが、高野には言えてしまう。それは、高野に対しては、女子力よりも、強烈な<私>(女子ではなく女としての<私>でもいい)が出てくるからだ。モテたい気持ちより、もっと強い衝動がある。

 さて、kanjinaiさんがこんなエントリーを書いている。

モテ/非モテということが、男子のあいだで話題になっているようだ。これについては、人生の先輩として言いたいことがいろいろあるので、少しだけ書く。

kanjinai「モテとはひとりの女を大切にすることである」『G★RDIAS』(http://d.hatena.ne.jp/gordias/20070414/1176477766

この2行に溢れるばかりのオッサン力はなんだろうか?上から目線はもちろん、自分の体験を引き合いに出し説教をする。典型的オッサンである。(もちろん、私はフケ専なので、これは最大の賛辞である。)
 そして、このオッサンの主張はこうである。

モテる男とは、「自分の好きなひとりの女を恋人として大切にすることができる」男のことである。

ibid

なんてつまらない主張*2だろう…。しかし、このつまらなさは、多くの女子に共感されるのではないかと思う。前述の漫画でも、セックスに誘われて上手く反応できなかった蛍に、年上なのに経験が少ないことにがっかりしないかと聞かれた高野はこう答える。

高野「ま 一般論としては『別に経験値で好きになるわけでなし』だな」
蛍「じゃ、じゃあ部長の個人的意見は…っ」
高野「『出会う前の経験よりふたりで過ごすこれからのが大事』
思わないよ がっかりなんて」

ひうら、1巻、153P

これまた、つまらない。こんなつまらないことを、よく真顔で言えるな、と思う。けれど、つまらないことを真顔で言えることが、オッサン力である。今更、過激なことを言う必要もなく、淡々とつまらないことを言う。

 非モテ男子は、女子はマコト君ばかりを求めるという。そうか?と私は思う。私は高野を求め、今のパートナーもそういうオッサン力が高い人である。*3私は、マコト君の位置をねらうのではなく、高野の位置をねらえばいいと思う。きれいごとを淡々と言う。これは一つの戦略として有効だと思う。私は少なくない女子が、経験人数が多いモテ男子よりも、童貞の非モテ男子が「好きな人としかしたくないから、経験がない」と言ったときにグッくることを知っている。
 だけれど、高野の位置に滑り込むなら、諦めなければいけないものがある。それが女子力である。腋毛も剃らず、朝からパジャマでぼんやりスッピンで過ごし、スーパーにツッカケで行ってしまう彼女。それでいいのか?その上、自分以外の男には、彼女は媚びるのである。

 私はkanjinaiさんの書いていることにもう少し付け加えたい。

モテる男は、自分の一番愛する恋人からはモテないが、そのことによって逆に他の女からモテる。

私が愛するオッサンたちは、愛する者がいる/いた形跡がある。それは他人のものだから、欲しくなるという不倫願望ではない。この人は、一人の人間を愛しきれるのだ、という深みが私を魅了する。漫画でも、蛍は高野が別居中の妻との思い出を語る姿を見てこうモノローグでつぶやく。

こんなオッサンくしゃみしてるくせに…
高野部長は恋した女(ひと)と暮らしてたんだなぁ…

ひうら、1巻、114P

漫画だから、美しく見えると思うだろうか。しかし、私のパートナーは実際に、モテるようになった。
 私のパートナーは決してモテ男子ではなかった。私が一人目の彼女だし、それまで自己完結的な片思いを繰り返してきた(らしい)。ところが、私が女子力を放棄しても、淡々ときれいごとをのべる姿を見た、私の友人に、パートナーは急速にモテるようになった。
「なんて、いい男をつかまえたのだ?」
と友人には言われるが、私が彼と付き合おうか迷っているときには、誰もそんなことは言ってくれなかった。私を大切にすればするほど、彼の株は上がるのである。そんなこんなで付き合ってもう4年以上になる。
 私はもう女子力を放棄し、パートナーを男子としてちやほやすることはない。そういう意味では、私からモテることをパートナーは諦めたとも言える。その代わり、私の友人の女子達には、囲まれ、ちやほやされている。そういう意味ではkanjinaiさんの言い分は正しいと、私は感じた。

 しかし、ここで、私はメデタシメデタシと言えないのは、あくまでもkanjinaiさんのモテ理論は、男子バージョンだということである。前の日のエントリーでも書いたように、私は恋人一人を大切にしていても*4、周りの男子はちやほやしてくれない。むしろ、「他人の女だから」と女子にカウントされない傾向が多いように思う。でも、私だってちやほやされたい。これはどうしたもんか、と考えている。

*1:それでも私はフェミニストを名乗る、と決めている。

*2:もちろんヘテロモノガマス限定ではあることは付記してある

*3:一応書いておくけれど、私のパートナーはマコト君並に若い。しかし、私のマコト君は生活の中であっという間に高野化した

*4:大切にしかたが足りない、というのは置いておいて。