近況

 朝日新聞にロングインタビュー記事が出ました。拙著を取り上げていただき、ありがとうございます。

 ネットメディアModern Timesの、宮崎駿のシリーズは第二回が公開されました。今回はナウシカのなかの巨神兵に焦点を当てています。宮崎の考えるアニミズムの射程には、動植物だけではなく人間の作った機械も含まれるという指摘をしています。

www.moderntimes.tv

 やっとベルギーでの住民カードも更新され、滞在も残り8ヶ月です。これから、学会シーズンに突入するのですが、あれこれ首を突っ込んでいるうちに膨大な仕事を抱え込み、作業のやりくりにアタフタしています。相変わらず英語は下手くそですが、そうも言ってられないくらいの速度でものごとを進んでいて、怪しい会話とメールで連絡しながら、こっちで研究を進めています。とりあえず、夏まではなんとか頑張りたいです*1

*1:理由はわかりませんが、はてなブックマークのピックアップ記事になってしまったようで、アクセス数が増えそうなのでシンプルな内容に差し替えました。

近況

 先月の週刊金曜日3/25号に、太田明日香さんが書評を書いてくださっています*1。「個別的な体験を描きながら、性暴力の総体を描きだす」という見出しの記事で、とても嬉しい紹介のされ方でした。

 パラパラ読んでいると、岩波書店の「世界」の売上が2年連続で伸びているとの記事がありました。私も2020年3月号でインタビューの記事を書かせてもらいました。その後、インタビューしたナヤ・アービターさんの訃報を聞き、お話を伺う最後の機会だったのだなあ、と寂しく、でもありがたい気持ちになりました。若い層の読者が増えているそうで、なによりです。

 私も、「週刊金曜日」にせよ、「世界」にせよ、原稿をご依頼いただくのは30-40代の同世代の編集者が多いです。そんな時代なんだなあと思います。ちなみに、私がいただく原稿依頼の9割くらいは、自作のウェブサイトのメールフォームから受け取っています。それも時代だなあ、と思います。聞くところによると、編集者とコネを作るためのコミュニティなどが東京にはあるらしいのですが、関西に住んでいましたし、そのあとベルギーに引っ越したので、私の中では都市伝説のまま終わりました。

orikakom.com

 知人から教えてもらったのですが、先日、10年前の亀岡交通事件についてのシンポジウムが、被害者遺族を招いて開催されました。タイトルは「絶望とともに歩んだ先に」です。

www.kuas.ac.jp

 ご遺族の10年間の道のり、そして被害者支援と加害者更生についての率直な意見交換が行われたと聞いています。「被害者の求める助け」と「実際の支援制度」にずれがあることや、加害者に対する葛藤、それでもなぜ更生を求めるのかなどの、話題が出たとのことでした。これまで被害者支援と加害者支援の断絶はとても深く、ときには被害者がどちらかの立場を支持することで引き裂かれることもありました。私は、シンポジウムの話を聞きながら、新しい一歩が踏み出されたのではないかと、思いました。個人的には、生き残った当事者は立ち止まっていられないから、前に進まざるを得ないのだ、それを望んでも望まなくても、という想いを抱いています。

 シンポジウムを企画した京都新聞の広瀬一隆さんは、記者として10年間、ずっとご遺族の取材を続けてきました。事件の当事者の「その後」を追うことは、地方紙の大切な役割だと思います。シンポジウム後については、こんな記事が出ています。

www.kyoto-np.co.jp

 広瀬さんが、事件の取材をまとめた著書は、いま発売中です。期せずして、私の本と同時期に出版されることになりました。広瀬さんとは旧知の仲で、昔、当事者性について議論していて喧嘩になりました。相変わらず、考えも立場も違いますが、似たような話について時間をかけて、粘り強くやっている方なんじゃないかとは思います。

 これから開催のイベントのお知らせです。環境問題と修復的正義についての連続セミナーです。オンラインで無料ですが、事前に登録が必要です。英語ですし、時差があるので視聴は大変かもしれませんが、特に5月31日のブルーナ・パリの「The Art of Repair: Bridging Artistic and Restortive Responses to Environmental Harm and Ecocide」は注目です。私は参加予定です。

www.staff.universiteitleiden.nl

 また、ヨーロッパ犯罪学会の開催中に、関連企画として「Environmental Crime & Gender」が企画されています。こちらは報告者も募集中です。私は聴講者として参加予定です。

www.eur.nl

 個人的な近況としては、移民局からやっと必要な書類(Annex46)が届きました! 近日中に住民カードを更新予定です。今回は、移民局が難民の申請を優先したため、一般の滞在許可の発行は遅れたということで、それはしょうがないかな、と思いつつ……何もなくても、君たちはいつも遅れるよね、という気持ちもあります。無事に更新できるのですから、結果オーライではありますが。

*1:日本から転送してもらったのでご紹介が遅れました

近況

 大阪大学倫理学臨床哲学研究室の主催するフォーラムで、「研究者になるということ:研究者と当事者のあいだで」というオンライン講演をすることになりました。無料です。ご関心ある方は事前にご登録ください。

第7回臨床哲学フォーラム「研究者になるということ:研究者と当事者のあいだで」

日時:2022年6月1日(水)17:00-19:30(Zoom開催)

主催:大阪大学倫理学臨床哲学研究室

講師:小松原織香さん(日本学術振興会特別研究員PD・『当事者は嘘をつく』(筑摩書房、2022年)の著者)

 

docs.google.com

 ウェブメディア集英社オンラインでは、拙著を担当してくださった柴山浩紀さんが、インタビューに答えておられます。「当事者は嘘をつく」についてもお話しいただいています。

shueisha.online

 私はもともと、性暴力の被害体験について書くつもりはなかったんですが、企画が決まってから「困った、エッセイを書こうとすると、必ず被害の話が出てきてしまう」という状態に陥って、「もうこれを書くしかないな」と覚悟を決めました。もちろん、柴山さんが最初に会いに来てくださったときは、私がサバイバーだということは知りませんでした。そこから、私はモチャモチャと「何書いたらいいんだろう」と迷走していたので、このまま本が出ないのではないかと思っていました。どうにもならないので、「とりあえず、全部書きたいんですけど」と企画会議が通らないまま、原稿をスタートしました。書いている時も「こんな話、面白いかなあ?」と思っていたし、だめだったら同人誌にして文学フリマで売るつもりでした。出版されることになってからも「売れるのかなあ」と思い、「まあでも、売れなくても在庫を抱えるのは私じゃなくて筑摩書房だから商業はありがたいな」などと考えたりしていました。なので、売れたのは柴山さんの仕事の成果だし、実際に売れてよかったです。それから、買ってくださった方や話題にしてくださった方も、ありがとうございます。私は今回、本当の本当に文章を書いただけです。なので、なんだか恐縮なんですが……

 ブログでも、拙著をご紹介していただいています。研究者の竹端寛さんが、障害者運動の歴史を辿りながら、拙著を取り上げてくださいました。私自身は、竹端さんの文章を拝読し、「自己変革機能」と「社会変革機能」を軸に、障害者の当事者運動と照らし合わせながら、こんなふうにまとめていただけるのは、ありがたいことだと思いました。

surume.org

 また、臨床心理士の越智誠さんからは、家族介護の経験のなかで感じた専門家への怒りを出発点に、心理の世界に入っていかれた経験と照らし合わせながら、拙著をご紹介いただいています。

note.com

 竹端さんや越智さんのような研究者/支援者からのレスポンスをいただくことが、私にとって研究を続けたり、支援の場が変わっていくことを信じたりすることの力になると感じています。それぞれの場で闘っている人がいると思えるのはありがたいことです。

 さて、ウェブメディアModern Timesでは、私の新しい連載が始まりました。宮崎駿がテーマで、3回の予定です。1回目は、ロシアのウクライナ侵攻について少し触れ、宮崎の戦争体験などについても書いています。2回目はナウシカの話の予定です。

www.moderntimes.tv

 

 

近況

 拙著をメディアで取り上げていただいています。毎日新聞共同通信での取材記事は、ネットでも公開されましたのでご覧いただいた方もいらっしゃるかもしれません。

 書評サイトHONZでは、首藤さんに引き続き、中野亜海さんも拙著を取り上げてくださいました。

honz.jp

 レイバーネットでは、大西赤人さんが評を書いてくださっています。赤西さんは、以下の記事でも書いてあるように、「『当事者性』からなるべく距離を置き、悪く言えば第三者的、良く言えば客観的な立場で関わりたい」と考えてこられました。それに対して、私の当事者丸出しの立場は相反するわけですが、そこを正面から取り上げてくださっています。

www.labornetjp.org

 ほかにも、雑誌「新潮」で津村記久子さんが取り上げてくださったり、京大生協の書評誌「綴葉」がご紹介くださったりしています。障害者問題資料センターりぼん社の季刊「しずく」には、私の大学院のゼミの先輩にあたる野崎泰伸さんが書評を寄せてくださっています。本当にありがたいです。

 また、図書新聞では批評家の川口好美さんが、拙著の書評を書いてくださいました。そのなかで以下のように述べられています。

「当事者」の立場に固執することだけが重要なのではないし、様々な立場を認め、それらに平等に目配りすることだけが重要なのでもない。出来事の瞬間、ひとは否応なくひとつの立場に立つ。立たされる。しかし他人たちと共にこの世界に存在している以上、ひとつの立場にしか立たない、立てないというのはナンセンスである。「私」とはこの容赦のない背理によって引き起こされる葛藤・抵抗・ねじれの”場”そのものではないのか。そうして本来「物語」とは、ねじれをねじれのまま、架け橋不可能なものを架け橋不可能なまま引き受ける意志と努力と屈惑と驚きを語ろうとする、「私」のぎりぎりの表現行為ではないのか。

 この箇所いいなあ、と思います。自分の本が媒体となって、こういう文章が生まれてきたのは作者冥利につきます。私は批評は、批評対象と独立して、完結できるだけの強度を持つべきだと思っているのですが、まさにこれはそうだなあ、と。「私の本は関係ないやん」みたいな話に飛んでいってるんですが、批評として読んでいて面白いです。川口さんは私と同世代のようですし、似たような人文系カルチャーにいたのだろうと想像します。

 川口さんは、静岡県川根本町でカフェをやっておられるそうです。私は恥ずかしながら静岡は海側しか知らなかったので、地図で検索して、「予想以上に山側に広がる静岡県」と思いました。

tendenco.base.shop

 私は、ベルギーでの滞在が2年目に入りました。今年からは、もっと積極的に共同研究に取り組もうと決意して、あれこれとプロジェクトに入っています。英語でのコミュニケーションは今も苦手ですが、なんだかんだやっています。Covid19による規制もどんどん解除されてきているし、研究棟にいる人も増えてきたので、やっと「在外研究」っぽくなってきました。よかったです*1

 

*1:ただ、いまだに住民カードが更新できていません。もう4月なかばなんですが……

近況

 拙著の3刷が決まりました。ありがとうございます。また、電子書籍の配信も始まっています。

 明日から新年度となります。今年の年末まではベルギーでの在外研究を続ける予定です。本当はもう住民カードの更新の書類がくるはずですが、なかなか手続きが進まず不安な日々でした。今日、市役所まで行ってきたところ、電子上はもう滞在許可が更新されているので心配はないそうです*1

 欧州はCovid19の規制は緩和が進んできており、ベルギーでも屋内でもマスク不要になりました。国際学会も対面開催が多く、今年は以下の比較的規模の大きな学会にでるつもりです。残り期間は長くありませんが、できる限り成果を残したいと思っています。まだ日本は渡航の制限などありますが、どれも久しぶりの対面開催で気合が入っていますので、興味のある方はぜひご参加ください。

11th international conference of the European Forum for Restorative Justice

 ヨーロッパの修復的正義の研究拠点EFRJの国際学会です。今年はイタリアのサルディーニャ島で開催されます。研究報告だけではなく、実践者向けのトレーニングやロールプレイ、体を動かすワークショップのプログラムなどの企画もあります。私はワークショップで環境問題における修復的正義についてのグループセッションをします。

www.euforumrj.org

Victimology symposium

 国際被害者学会の大会です。今年はスペイン北部のサン・セバスティアンで開催されます。今回は、電子世界におけるさまざまな被害についての特集があります。私は他の報告者とともにラウンドテーブルに参加して、環境問題における被害者の社会的格差や植民地主義の問題について議論する予定です(審査中)。

www.symposiumvictimology.com

Eurocrim 2022

 ヨーロッパ犯罪学会の大会です。今年はスペイン南部のマラガで開催されます。4月15日までアブストラクトを募集しています。私もなにか個別報告を申し込もうと思っています。

www.eurocrim2022.com

*1:だったら、早くカードも更新して欲しいのですが……

「望むのは死刑ですか オウム“大執行”と私〔告白編〕」

 長塚洋監督のドキュメンタリー作品「望むのは死刑ですか オウム“大執行”と私〔告白編〕」の一般公開に向けて、クラウドファンディングが始まりました。この作品では、オウム真理教の信者たちが起こした犯罪によって、人生が変わってしまった人たちを追っています。主に同僚を殺された弁護士、脱カルトの活動に奔走する弁護士、信者の家族会であり、夫が襲撃されたメンバー、麻原氏の元弁護人の語りに光が当てられます。

motion-gallery.net

 そのなかのひとり、岡田尚さんについてはすでに短い動画作品が公開されています。以下のサイトで無料で観れます。

creators.yahoo.co.jp

 岡田さんは、弁護士事務所の採用面接で坂本堤さんと出会います。坂本さんの、熱い正義感と心のやさしさに好感を持ち、「自分の跡を継いでくれるかもしれない」とすら期待します。その坂本さんは、1987年に、オウム真理教の信者たちに、妻と子とともに殺されました。事件後、岡田さんは、残された坂本さんの母親に寄り添い続けました。

 岡田さんは死刑についての、矛盾した想いを言葉にしようとします。一方で、岡田さんは事件の残虐さに憤り、裁判で柵の向こうにいる加害者たちに対し、復讐心を抱くという経験もします。他方で、岡田さんはそれまでの信念として、死刑廃止を主張してきました。ところが、事件後に検事に「極刑を望むか」と聞かれて、一瞬、迷った後に「厳罰を求める」と答え、死刑についての言及を避けました。そして、坂本さんだったら、加害者たちに死刑を求めただろうかと逡巡します。岡田さんは被害者や周囲の人々はさまざまな想いを持つものであり「ひとくくりにして「被害者は死刑を望んでいる」と決めつけること自体が間違いだと強調」しています。

 煮え切らない岡田さんの言葉に対して、脱カルトの活動に奔走してきた弁護士・滝本太郎さんは、明瞭に麻原氏は死刑にすべきだったが、ほかの12人は殺す必要がなかったと主張します。その言葉の前に、岡田さんは人間の感情と制度の兼ね合いの問題を語ろうとします。死刑によって加害者を殺す、というときには、国家には感情がなくシステムが作動するだけです。そのことについてのためらいを「整理がつかない」と言います。対して、滝本さんは、私的な復讐を避けるために国家の制度としての死刑ができたのだと整理して語ります。対照的な二人の語りが動画には記録されています。

 私自身は、性暴力被害者として加害者への復讐心を抱いたことがあります。自著のなかにも書きましたが、死刑廃止運動にはとても理性的ではいられない強い感情があります。もちろん、殺されたわけではないですし、岡田さんのような難しい立場にあるわけではないのですが、動画には共振するところがありました。私もほぼ同じように、加害者を殺したい気持ちと、死刑という制度によって人が殺されることへの違和感の両方があります。そして、岡田さんがこんなふうに語ってくれたことに、とても感謝しています。同時に、滝本さんがなぜその言葉に至ったのかも知りたいと思いました。

 クラウドファンディングに参加すると、オンライン試写会で作品が視聴できますし、先に紹介した岡田さんと滝本さんの討論の動画も視聴できるようです。私は取り急ぎ、参加しました。

近況

 拙著が増刷され、書店さんでも在庫が復活しているそうです。電子版もそろそろ出ると聞きました。多くの方の手にとっていただき、感謝しています。SNSやブログなどでも話題にしていただき、ありがとうございます。

 先日、成文堂から出版された『高橋則夫先生古稀祝賀論文集』下巻に、小松原織香「犯罪化か、修復的正義(restorative justice)か? ―環境問題における刑事司法の役割の再検討―」を寄稿いたしました。高橋先生は、日本における修復的正義の研究を牽引してこられました。私も、大変お世話になりました。今後もいっそうのご活躍をされることを祈念しています。

 私の論文は、近年、ヨーロッパにおいて環境運動において「エコサイド(ecocide)」概念が再び注目され、環境刑法が再評価されていること状況を、日本語でまとめたものです。加えて、犯罪化による環境問題の解決の限界を指摘し、修復的正義の導入を提起しました。この論文は、2020年に立ち上がった、European forum for restorative justice(EFRJ)の「環境破壊における修復的正義(environmental restorarive justice)」についてのワーキンググループに参加し始め、そこの議論に触発されて書きました。グループには法の実務家や法学者も参加しており、EU環境政策に対する修復的正義導入についての政策提言も行いました。これまで経験のない仕事だったので、刺激を受けました。私は法学の専門ではないので、拙い部分もある論文だと思いますが、環境政策にご関心ある方に読んでいただければ幸いです*1

 私の方は、無事に滞在許可が降りましたので今年の末まではベルギーで在外研究を継続予定です*2。今年度は4回の国際学会での報告を行い、英語論文を新規で3本書いて投稿しました。先日は、こちらのルーヴェンカソリック大学の犯罪学研究科の学内セミナーで報告を行い、ずいぶんと議論が盛り上がりました。初めての在外研究にしては頑張ったのではないかと思います。社会情勢が不安定ななかではありますが、次年度も頑張りたいと思っています。

*1:専門書ですのでお値段が相応になっています。大学図書館などには配架されますので、レファレンスカウンターなどでお取り寄せいただくのも良いかと思います。

*2:住民カードの更新の手続きがうまくいかず、右往左往していますが……